見出し画像

ビットコイン使ってますか?

 デジタル・ゴールド(ナサニエル・ポッパー:日本経済新聞出版社)
コンピュータ上の仮想空間に存在する通貨、ビットコイン(BTC)の開発に関係した人々のこれまでの活動を追った本である。


 BTCが脚光を浴び出した背景には、暗号化技術の進化がある。1970年代
から80年代にかけて、スタンフォード大学とマサチューセッツ工科大学の
数学者による一連の画期的発明のお陰で、初めて、一般人がスーパー
コンピュータでも解読できない位にメッセージを暗号化できる様になった。以前は、どんな暗号も政府や軍は解読できた。公開鍵と秘密鍵の固有な対応は複雑な数学方程式により決定される。方程式は綿密に作られており、特定の公開鍵の持ち主が、たとえ最強のスパコンを駆使して逆算しても秘密鍵を特定できない仕組みになっている。これが、のちのBTCの中核技術となる。
 BTCは通貨を発行し、保持、送金する為の単純、かつ、斬新な仕組みで
ある。ドルや、ユーロ等の通貨は、中央銀行が発行し、大手金融機関を
通じて保持、送金をする。それに対し、BTCは、各ユーザーが生み出し
(発掘し)、維持する通貨であり、ネットワーク維持の協力者に少しずつ
渡っていく。
 嘗て通貨は、金(ゴールド)に裏付けられた信用度を元に、発行通貨量が制限されており、その事実により、通貨の信用度が保たれていた(現在は
管理通貨制度に変わってしまったが)。 BTCは、金のデジタル版構想と
いえ、システムの中で発掘する必要がある。
BTC発掘の基本技術は、暗号学的ハッシュ関数といわれるものである。
例えば、2903×3751は容易く計算できる。ところが、掛け合わせて10366613になる2つの数字を見つけるのは難しい。ハッシュキャッシュでは、
コンピュータがどの数字を掛け合わせれば、10366613になるかを算出する。答えが見つかり、ネットワーク上のコンピュータにより、正しいと認定されれば、BTCを受け取れる。BTCでは、発行量の上限を2100万BTCと決められている。
 BTCネットワークには、誰でも参加でき、自分のBTCアドレス(一般的に34個の数字とアルファベットの組合せ)と其れに対応する秘密鍵(一般的に64個の数字とアルファベットの組合せ)を作れる。


<BTCの送金システム> 

 5つのステップから成っている。
(1)送信者は、秘密鍵を使って自分のアドレスからBTCの送金手続きを
   開始し、取引をネットワーク上の他のユーザーに公開。
(2)ネットワーク上の他のユーザーは、送信者のBTCアドレスに十分な
   資金がある事を確認し、送信者との取引を「ブロック」と呼ばれる
   取引リストに追加。
(3)多くのコンピュータが自らのブロック(最新の取引)をブロック
   チェーン(取引台帳)に追加する為コンピューティングに参加
(4)自らのブロックをブロックチェーンに追加できたコンピュータは、
   新たなBTCを一定量付与
(5)ネットワークコンピュータは、次の発行されるBTCを獲得しようと
   未確認の新たなブロックの作成を開始


<取引の開始> 
 以下のシーケンスで実施される。

秘密鍵をPC上で入力
   ↓
BTCソフトが一連の複雑な方程式で演算
   ↓
演算結果が「デジタル署名」と呼ばれるコードで出力
   ↓ 
この署名がネットワークに流れる

<取引の確認> 

デジタル署名を受領
   ↓
デジタル署名とBTCアドレスを別な数式群にかけ、デジタル署名が公開鍵に対する秘密鍵から生成されたものである事を確認
   ↓
ネットワーク上のすべてのコンピュータが確認
   ↓
送信者のBTCアドレスに送ろうとしているだけのコインがあるか、
そのアドレスの過去の入出金記録を確認


 BTCは、分散型ネットワークの中に存在する。インターネットの場合、
ユーザーを結び付けるのは、インターネット・プロトコルというソフト。BTCにも、独自のソフトウェア・プロトコルがある。

 BTCは、ロンドンからニューヨークに運ぶのに、船や飛行機は必要ない。秘密鍵とマウスが有ればよい。クレジットカードは、決済した時点で、
カードがスキャンされ、カード番号と有効期限が信販会社に送られる為、
誰が何時何にいくら使ったかを、簡単に当局に把握されてしまう。
ところがBTCは、ネットワーク上のBTC送受信に関する秘密鍵を持った
人だけがBTCを送受信できる為、その秘密鍵をだれが持っているのか
特定できない。
故に、送受信者を特定する事は難しい。この国籍の無い通貨は、送受信者の秘匿性から、麻薬取引に使われた。だが、現在ではその価値は、
11.5兆ドルにもなり、主に、外貨の持ち出しが制限されている中国で
9割が使われている様である(‘16/12/18の日本経済新聞)。

 BTCは、コインの希少性から将来の値上がりが期待され、保有者による
コインの抱え込みが起こり、通貨としての役割に疑問符が付くところも
ある。2013年から14年にかけ、FRBの複数の地区連銀がブロックチェーン
技術を適切に活用すると、金融システムからリスクを排除できる可能性に
ついて論じている。
 一方で、銀行業界は、BTCに対して一歩引く所がある。
かつて、サブプライムローン危機でアメリカ経済が破綻の瀬戸際に追い
込まれるまで、ウォール街は世界中から飛び切り優秀な若者を集め、利益を稼ぐための革新的な方法を研究させた。この若者達の生み出した高度な
イノベーションが経済崩壊の引き金になったことから、生き残った銀行は
金融における実験がどれほど悲惨な事態につながるか思い知った。
(JPモルガン・チェース ジェイミー・ダイモンCEO)
これ以降、銀行業界の関心は、いくら儲かるかから、規制当局がどう思っているかに変わっていった。
 でも、最近は、JPモルガンでは、「BTC作業部会」を立ち上げ、同社の
戦略責任者が座長となり、世界各地の社員20人余りがBTCの中心技術を金融産業に生かそうと検討している。他にも、証券会社ウェドブッシュや、
バンク・オブ・アメリカ・メルリリンチの調査報告書でも、BTCは、新たな低コストの決済ネットワークの可能性を秘めていることを指摘している。

 一方でBTCの発掘には、コンピューターで延々と演算をして答えを探す
必要があり、電力コストの安い中国で石炭で発電された電力を使いなされて
いるそうである。環境に優しい通貨とはとても言えないのである。
 また、価格変動が大きい事が課題である。有名な企業家や投資家の発言で
大きく価格が変動する。2020年初めに120万円前後であった価格がここ数か月のうちに最大700万円越えまで価格が上昇した。
下のグラフは最近の価格変動のチャートである。

画像1

 暗号的ハッシュ関数の数式は、一つでなく、いくつも作ることが出来る。その為、様々なBTCが世に出てきている。

 金融には、全くの素人の私であるが、日米欧の中央銀行による金融緩和の
あだ花に思える。米国の連邦中央銀行であるFRB(The Federal Reserve Boardの略)が緩和縮小を言い出しそうに皆が感じ取った時期に急落する様に
思えてならない。
 そして、BTCには、その価値の裏付けとなる実物資産がない。売買している方たちの思惑だけが実態である。当局に知られたくない資金の送金やダーティマネーの資金洗浄にも使われているという事も気になるところである。

金融に素人の私には、”実態資産の裏付けがない” という処が一番引っ掛かる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?