番外編*おもしろ教育法

連れ子の私が随分「出来が良い」ことで、母親の再婚相手(以下、Xと記す)はたぶん、妙に盛り上がったのだろう。
「福高に行って九大に行くんだ」とよく言っていたが、別に塾に行かせるわけでもなく、勉強道具を与えるのではなく、謎の教育を行っていた。

その中で特に虚無だった記憶は、”フリーハンドで完璧な平行線を引ける練習”だ。

当時9歳だった私は、当時は人より少しだけ絵が描けた。といってもクラスで三番目くらいに絵がうまい女子、程度。少女漫画のキラキラした女の子を描くのが好きな普通の子供だ。だがそれに目をつけ、色々訓練しようとした。その訓練のひとつがそれだったのだった。

突然のことだった。廊下にあるホワイトボード。ここに線を描け、と言われる。まっすぐな線を描く。まっすぐじゃないと言われる。私は、床に座って、立てかけてあるホワイトボードに線を引き続ける。ずっと。ずっと……
当然完璧な平行線なんて引けるようにはならない。そしてできないことは私自身もわかっていた。なんどもなんどもやり直す。平行な線が引けるまで終わりはないし、平行にやっと引けたと思っても、歪んでいると消される。
9歳児がフリーハンドで完璧な平行線を引けたらとんでもない天才であるだろう。

私が線を描く練習をしたいと言ったわけでもない。ちょっとした時間を決めて練習したわけでもない。「引けるようになるまで」と廊下に放り出された。
意味不明な記憶すぎて、「絶対このことは大人になっても忘れないだろう」と幼心に思った。

この練習、Xはその日限りで飽きたので助かった。



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