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処刑少女の考察道:温泉街で日付が合わない理由
小説4巻は「湯けむり温泉街へ向かう旅情列車追跡ミステリー」。お風呂も浴衣も他の衣装もある『処刑少女の生きる道』です。
アニメでリベール編までをご存じの方には「そうやって旅が続いていくのかー」と想像してもらえるかもしれませんが、小説3巻の結末からすると逆に意味が分からない感じで素晴らしいですね。
「山」といえば、とある山間の町が舞台となる「処刑少女4」! 山中の温泉街で少女たちの思惑が交差する第4巻は8月に発売したばかりですよー!#山の日 #処刑少女 pic.twitter.com/QHDmTP8gpY
— 編集ぬる(GA文庫) (@GA_henshu_null) August 10, 2020
この巻では、登場人物が「追う側」と「追われる側」に分かれる要素があります。
追跡手段と両者の距離、いつどのように追い付けるのか――といった面白さがあるのですが……。
皆さん、謎は全て解けましたか? 犯人は、あの人……だけだったのでしょうか?
どうも謎が残っているように思える部分があるので、今回はそのことを考えてみたいと思います。
もちろん、この解釈が唯一と断定するものでは決してありません。
あなたの精神が閃き、あなたの魂が解き明かした物語。それこそが、あなただけの純粋で大切な温泉回のはずですから。
この記事のネタバレ警告
この記事は、小説4巻までの内容を考察しています。
小説2巻が港町リベール、3巻が砂漠で、その次の舞台での話になります。(コミカライズやアニメ派の方は参考にしてください)
現在、本編を読み進めている方。あるいは、情報はまず本編から得て楽しみたいという方。
本編を存分にお楽しみいただいてから、この記事に帰ってきてください。
日付が合わない? その部分とは
メノウはアーシュナの力を借りて特別列車に乗せてもらい、普通列車で先行しているアカリとモモを追いかけます。
モモとアカリが乗る普通列車の線路のはるか後方で、列車が走っていた。
著:佐藤真登/イラスト:ニリツ GA文庫/SBクリエイティブ刊
メノウとアーシュナの乗る豪華寝台列車へと視点が移る場面の記述です。
これは「普通列車が温泉街に着いてモモとアカリが下車するより前に、豪華寝台列車は線路上を走っていた」と読み取れると思うんですよね……。
そして、この部分はメノウの主観ではなく「神の視点」に近いものと考えてよいと思います。
モモとアカリが具体的にどの列車に、いつ乗ったのかということは、メノウもアーシュナも知らないためですね。それは次の部分から分かります。
「モモは間違いなく列車で移動しています。いまはその経路を、同じく列車で追っているのですが……ありがたいことにこの列車は普通の車両より足が速いので、それだけで距離を縮めることができています」
「彼女たちが徒歩のまま、あるいは馬車で移動している可能性はないのか? そうなると、私たちが追い越すこともありうるぞ」
「まず、ありえないでしょう。
では、列車は最大でどのくらい離れていたのでしょうか?
大陸中央部にある大砂漠を越えてから、列車に乗って約半日。モモが決めた目的地に着いたアカリのテンションは、異様といえるほど高かった。
アカリがモモと一緒に列車に乗っていた時間が「約半日」。
ということは、線路の後方を走っていたメノウたちも「約半日」以内には温泉街に到着するのが自然です。
しかも豪華寝台列車は「普通の列車より足が速い」とも書かれています。
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ところが……
旅館にアーシュナを案内したメノウは、早々に神官服へと着替えを済ませていた。
アーシュナはまずは名物である温泉に入浴したいとのことだった。一緒に入るのはどうだという要望は断ってから、メノウはモモを探すために町へ情報収集に向かった。
(中略)
「ああ、その人なら見ましたよ。女の子の二人連れでしょう? 三日ほど前に、この駅を降りています。やけに仲が悪そうなのが印象的だったから、よく覚えていますよ」
駅員に聞いてみれば、二人目で早くも目撃証言を得ることができた。
3日!? いつ時間が経ったの?
というのが、今回の問題です。
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列車が日を跨いで走ることは一般的なようだ。
ましてやメノウとアーシュナが乗ったのは寝台列車。とはいえ……
一か所だけならば単なる誤植ということもあり得るのですが、他にも時間の経過を表している記述があります。
列車が停車する音を聞いて、教典に宿っているサハラは無事に目的地の温泉街に到着したことを知った。
いまサハラの視界は機能していない。精神が宿っている教典ごと、メノウが腰に下げている荷物の底にしまわれているのだ。
人目につかない荷物扱いで運ばれているサハラは、逆算してモモたちにおよそ二日遅れだなと計算した。
サハラの感覚による「およそ二日遅れ」は、駅員の証言「三日ほど前」とズレているのです。もちろん「最大約半日」だったはずの差からもズレています。
また、本編中でモモとアカリが温泉宿に宿泊した描写は一夜しかありません。「夜這い」が来た時ですね。
明けて翌日、モモは「手配屋」を締め上げています。
昨日は立て続けに性犯罪者に襲われたとしか考えていなかったアカリとは違い、モモは相手の害意を敏感に読み取っていた。
「お前が『手配屋』ですよね。
その後の彼女たちについては次の通りです。
ここ数日、手配屋から聞き出してきた情報をもとに片っ端から悪党の居所に殴り込みをしているモモの声は晴れやかだ。
というわけで、この後で街まで戻ってきたところでメノウと出くわす二人ですが、『手配屋』から情報を得てから「数日」は経過しているはずなのです。
これらの「日付が合わない理由」を説明できる仮説を提案してみましょう。
あまりそういうことは気にしないなぁ、という方も、せめて目次だけでもご覧になってみてください。
作者側が間違えた?
全てを説明できる究極の一手です。
個人的には、ないだろうと思っています。
しかし「一字一句まで間違いのあるはずがない」という前提に立つのも、それはそれで良くないと思うので、可能性だけは考えておくことにします。
仮にこれらの部分に誤記があったとしても、小説4巻やシリーズ全体の物語の面白さは損なわれていません。
些末な部分の間違いを潰すことに時間を費やすより、先の物語を書いてほしいと私も思います。
ただ本シリーズでは、その時点では明示する必要のない具体的な数字については「ちゃんとぼかされて」います。登場人物の年齢、経過した年数、アカリが世界を回帰させた回数など……。
そんな中、小説4巻では妙に具体的な数字が出てくる印象があります。
もしかすると当初は他にも日数の経過に関わるトリックが考えられていたものの、文字数などの関係で削ることになり、変更部分を修正しきれなかったということは、あるかもしれません。
登場人物の勘違い?
「三日ほど前」は、あくまで駅員の発言です。彼が勘違いしていたとすれば、だいぶ違和感は減ります。
サハラも、モモとアカリが乗った列車を具体的に知っているわけではありませんから、見込みを間違えることは不自然ではありません。
モモとアカリが悪党に殴り込みをしていた「数日」も、1泊2日程度をそう表現したといえないこともないかもしれません。
何とか説明はつきますが、物語の中で駅員やサハラに勘違いをさせることの意味は見付かりません。
第一身分専用列車に割り込まれた?
第一身分専用の護送列車だ。
予想以上の大仰なものを見て、メノウは驚くより先にあきれてしまった。なにせ通常の運行ダイヤに割り込んで優先される権限がある特殊車両である。
第一身分専用列車がダイヤに割り込んだ影響で、当初は最大半日しか離れていなかったメノウたちの寝台列車が途中で足止めされていたことはあり得ます。
『陽炎』が、そこまで狙ったタイミングで割り込ませた可能性すらあります。
アーシュナに化けてアカリを連れ出すという方法は、本物のアーシュナたちが温泉街にいなくても成り立ちますからね。
サハラはモモたちの正確な動向を知っているわけではないので、その予想が駅員の証言とズレたということになります。
説明し難いこととして、足止めされたことにメノウたちが本編で一切言及していないこと、温泉に到着した時点で第一身分専用列車と『陽炎』の登場を予想していないこと――が挙げられます。
【時】の純粋概念が列車を遅らせた!?
【時】の純粋概念がアカリの願望をかなえるために、自動的に発動してしまうのだ。
冒頭試し読み無料公開部分より
アカリは、メノウを生かすために離れることを選びました。追い付いてこないで、という願望を持っているとも考えられます。
![](https://assets.st-note.com/img/1668222416406-U5SsPQFg1c.png)
確かに「死ぬ前まで時を戻す効果」も自動的に発動する。
いやいや、アカリはメノウの乗る列車を直に見てもいないでしょう?
仮にリベール城の会議室のように列車の時間を停められるにしても、さすがにメノウたちも気付くでしょ? っていうか後続の列車に追突されるでしょ!?
ところが……説明できてしまうんです。
あの場面に、もうひとつの意味があったとすれば。
そして山道といえば、と見えた景色にタイミングがよさそうだと口を開く。
「五、四」
モモがカウントダウンを始めた。突然の行動に意図がわからずアカリがいぶかしげな顔になる。
「三、二、一――ゼロ」
列車がトンネルに突入した瞬間だった。
車内に光が満ちた。
導力機関から排出される燐光が、トンネルの中で充満して窓から車内に入り込む。
アカリは、どこにいるかも分からないメノウの元まで純粋概念を飛ばすことは多分できません。
しかし「トンネル内という空間」に【減速】のような現象を残していくことならば……できそうな気がしませんか?
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アカリは任意の対象を【停止】させられる他、自身を【加速】することもできていた。
視界には導力光が満ちているので、【時】の純粋概念の発動にモモが気付かないことも自然です。
アカリたちの列車が通過した後のトンネルに【減速】(仮名)は残り、後続の列車、つまりメノウたちの乗る列車は時間の経過が遅くなります。
幾つもあるであろうトンネルをひとつ通過するごとに何時間もかかり、結果として、通常は半日程度の行程なのに3日ほど経過しているというわけです。
トンネルの中では、外の世界の時間の経過には気付きません。昼にトンネルに入って、翌日の昼にトンネルを抜ければ、まさか1日経っているとは思わないわけです。
後続の列車も同じ影響を受けるため、追突されることもありません。
(ひとつの列車の1両目が【減速】トンネルに入った瞬間、2両目が脱線するのでは――という点については、どこまでが「ひとつのもの」という概念になるかによりますね)
サハラの時間感覚が駅員の証言とずれていることにも、ちゃんと意味が生じます。
【器】の純粋概念の影響下にある彼女には【時】の純粋概念の効きが弱くなるのでしょう。オーウェルの儀式場で『星骸』から採取された欠片の落下が遅くなったように。
日付のズレが純粋概念によるものであったことのヒントだと考えることができます。
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真アカリの表情に魅入られて時が止まってしまった読者も少なくないだろう。
この説の苦しい点として、豪華寝台列車を含むひとつの路線が軒並み何日も遅れたことが、騒ぎにならないのか? ということが挙げられます。
一応、次のような理由が考えられます。(これらの内のひとつかもしれませんし、合わせ技かもしれません)
第一身分が技術を制限しており、かつ戦争が起きていない文明であるため、通信が発達していない。
そのため、メノウたちの世界の鉄道網は、故障や事故などによる列車の遅れが簡単には伝わらないことを前提として運用されている。(少なくとも地域によってはそういう路線がある)
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グリザリカ王都と旧王都ガルムという大国の大動脈ですら、
1日に2~4本の運行ではないだろうか。
第一身分専用列車でそもそもダイヤが乱れていたため、メノウたちの来た路線だけ取り立てて騒ぎにはならなかった。
日付が飛んでいるという荒唐無稽なことを乗務員が乗客に説明することができないでいる間に、メノウたちは下車した。
皆さんは、どう考えますか?
宿に着いた「アーシュナ」がメノウを温泉に誘った心境の方が気になりますか? 私もです。
『処刑少女の生きる道』では、答えの明示されていない言葉や行動が各所にあり、それらを考えていくことは本当に楽しいと思います。
よかったら皆さんの推理もコメントなどで教えてください。
今回の全てが盛大な勘違いだったら、申し訳ありません。
お読みいただき、ありがとうございました。
『処刑少女の考察道』では本編から材料を拾い上げて、物語をより深く楽しむきっかけになれるような考察をしていきたいと思います。
それによって『処刑少女の生きる道』の魅力がより多くの方々に伝わることを目的としています。
更新はTwitterでもおしらせします。
写真素材:写真AC kimura yuho 様
イラスト素材:イラストAC nag 様・龍樹&ゆう有(Feeling rich☆Digital content)様
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