風見鶏ローディー 毎週ショートショートnote
「フーッ」
俺は誰もいない観客席に座ると、ここまで来た、の意味の息を吐いた。
「なんだ、もう満足か?」
近くに来たのは、同じバンドのギターのジョー。
「ウチのボーカルが、野外のワンマンくらいで満足されちゃ困る。武道館もドームもまだだぜ」
ジョーの指摘が俺に刺さる。
「ハハッ、これだけ沢山のスタッフが俺たちのコンサートのために準備してくれてるかと思うと、ありがたいと思ってただけだよ」
「フッ」
俺の言い訳をジョーは理解したふりをした。
「そうだ1つ聞きたい事があるんだ」
「どうした?」
俺の問いかけにジョーは笑顔を返してきた。
「機材搬入や設営のローディーさんに知らない顔の人が一人いるんだけど?」
「ああ、鳥谷さん」
「鳥谷さん」
「そう、野外コンサートに強くて、天気や風を計算してスピーカーとか楽器の位置を決めてくれるんだ」
「へぇ」
「通称、『風見鶏ローディー』。あの人を入れるのは結構揉めたけどな」
「どうして? プラスしかないだろう?」
「いや、ここだけの話、鳥谷さん、雨男なんだ」
「ああ、明日ビミョーだもんな」
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