【食|麺】冷やし中華6 夏のおわり
その6
一月前のこと。
9月も最終営業日を迎え、荒々しくも切ない風が吹きぬける夜。今年もまた男としての敗北をかさねたまま、終わり行く夏を見守るだけに留まろうとしているボク。
飲み会の帰りしなに小腹が減って、後輩と二人、軽くチャーハンを食べようと立ち寄った都内屈指のチャーハンの名店にて「冷中華」の文字。
毎年8月31日にまっさらな夏休みの宿題に着手しだす小学生だったボクは、大人になった今でも8月30日が夏の終わりという感覚を拭えないでいるが、大人のビジネスマンにとって昨今のクールビズは8月や9月に終ることはない。そんな大人の流儀に則ってボクは素早くメニューの再考に取り掛かる。夏の名残にふと訪れた邂逅。ここはやらない後悔よりやって後悔だ。
幸い向かいの席には食欲旺盛な若い後輩がいるためシェアすることも可能だ。腹具合を気にしながら瓶ビールを差しつ差されつ、メンマなんかをチミチミつまみながら待つことしばし。
運ばれてきた彼女は、錦糸卵、もとい錦帯卵とでも言うべき黄色いリボンを華やかにまといつつ、薪を連想させるぶっといチャーシューとキウリを装備したしごくワイルドな女だった。そして追従する、これまたチャーシューがゴロゴロ入ったチャーハン。
彼女のやや濃い目ながらさっぱりしたスープに浸した錦糸卵とチャーシューに恐る恐る手をのばしながらも、もはや見た目だけで越えられぬと確信させる満腹感の壁に阻まれて、そこにロマンスの生まれようもなかった。
さようなら今年の夏。
さようなら冷やし中華。
また来年逢えたら。
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