海:2021/02/27

なぜ目を閉じるのだろう。ここに世界はあるのに。なぜ目を閉じるのだろう。なぜ自分を見つめるのだろう。ここに世界はあるのに。なぜ自分というものを探すのだろう。なぜ、「なぜ」と問いかけるのだろう。ここに世界はあるのに。なぜ、「なぜ」と問いかけるのだろう。指がうごく。目が開かれる。キーボードでばかり文章を書いていると鉛筆が持てなくなる。思考の速度が上滑りする。私は瞑想する。迷走する。瞑想するために暗い部屋にこもって目を閉じようとする。それなのに、以前のような安らぎはもうない。ただ書くしか私は心が落ち着かない。波。波。海に行く気も起きない。昼寝する気も起きない。その空白に私は手を動かして文章を書いていたのだ、と思う。ゆっくりと精神をたゆたわせて。私が高校生だった頃。わたが中学生だった頃。私が小学生だった頃。私が大人だった頃。私が幼児だった頃。私が親だった頃。私が老人になった頃。私が死ぬ頃。言葉の上では飛躍できる。いつもいつも飛躍できる。仕方がないから虫になった。私は草の上で海の匂いを嗅ぐ。私はさらに自分より小さい虫を食べる。そのうちにスズメが私の体を啄む。ついに動かなくなった。神経が切断されて、嘴の容赦ない動き、無駄のない動きに私は死ぬようだ。ぼつぼつと揺れる水面。水面に雨が当たると水が弾けて、もうちど波紋が広がる。水が弾けてもう一度波紋が広がる。私は逃げたくない。本当に心から出たことを書きたい。

かけることだけを書いていると、心が書けるものに劣化する。書けることしか書かないと、心が書けることそれだけの範囲に萎縮する。だから私はいつも打ちのめされて書きたい。書くことができないことに打ちのめされて。早くこの震えから脱出したい。どうしてか、本当のことを恐れて、本当のことは怖いから。自分をどこまでも見つめるのは恐ろしいから、私は書くことも怖かったんだ。その怖さを見つめずに、ただ「怖くない」となれるために意識を失うまで書き続けたんだ。その先にあったのは小さな小さな心で、それは私が書いたことはすなわち私である、という単純でつまらない事実だったんだ。私はまた地面に這いつくばって、落としてしまったペンを探す。落としてしまった言葉への景色を思い出そうとする。消えて行く、消えていく。消えていく。その探している動きだけは必死だった。何を書いてもいいはずなのに、私は私にしか書けないものを探してしまうのはなぜだろう。何を書いてもいいはずなのに、私は心が震えることを求めてしまうのはなぜだろう。誰が読んでもいいはずなのに、誰も読まなそうな場所に秘密のノートを作ってしまうのはなぜだろう。心に闇があるのはなぜだろう。突然声をかけられて、何も言えなくなってしまうのはなぜだろう。私が突然、何かを嫌いになるのはなぜだろう。私が妄想することが好きになったのはなぜだろう。

私の心の海という海は荒々しく、うねって言葉をどこまでも吸い込んでしまう。読まれないということに甘えて、私はずっと言葉をこぼす。まだ泣き疲れていないからだ。まだ絶望していないからだ。曇り空の海。荒れる海。命を奪う海もある。忘れられない海もある。地平線まで広がって、私たちをただ見つめるだけの海もある。だから私はこの踊りの中に、恐ろしいことを孕んでいると知る。私が私を制御できずに書くことができることを知る。私は書く。私は書く。私は書く。心臓の鼓動のように打つ言葉の鐘。言葉の鐘。繰り返す。繰り返す。繰り返す。その繰り返し、脱出するために飛躍する。溢れる。溢れる。囲まない。広がる。眠る。ゆっくりと目を閉じた時に、あなたは想像してもいいと言った。心配するのではなく、悲観するのではなく。私は私の自由に気がつく。私は折り畳まれた翼があることに気がつく。私は私の心の情景を好きに彩ることができると知る。それは生まれながらに得た自由なのではなく、縛られながらやっと気づいた自由だった。私は自由だった。子供が知らない自由を知っている。子供の時には戻れないけれど、今はずっともっと自由なはずだった。繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。私は自由だった。


波の。波の。波のように愛を。波の。波の。波のように愛を。波の。波の。波のように愛を。
    波の。波の。波のように愛を。波の。波の。波のように愛を。波の。波の。波のように愛を。
         波の。波の。波のように愛を。波の。波の。波のように愛を。波の。波の。波のように愛を。
             波の。波の。波の。波のように愛を。いくつもの消された言葉の方が、いくつもの書き残された言葉よりも私は愛おしい。いくつもの通り過ぎられた捨てられた時間が、私は私が節約した時間よりも愛おしい。いくつもの忘れられて書き留められもしない想いを、私は書き留めたい。いくつもの、忘れられた書くことができない若さを、私はずっと書きたいと思い続けたい。だから満ちてくるまでじっと待つ。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!