海:2021/02/24

いつも。ここにくる。歩いてくる。昨日は自転車で。来た。夕方に来た。海はそこにあった。海が好きだ。波が走っていた。風といっしょに。手が濡れて。指が風を掴もうとする。そこにあるだけのもの。そこにあるだけだもの。わずかに音がする。いつもここにある。帰ってくる。帰ってくる場所。帰ってくる場所に思えるのは、きっとそれがいつもそこにあると思うから。そして、思う通りにそこにいつもあるから。帰ってくる。帰ってくる場所。帰ってきたと思えるのは、私が変わってしまったから。どういうふうに? それは海にはわかる。空にはわかる。私を包む感触で。風は知っている。知っているとはどういうことか。言わなくてもわかるということ。そもそも彼らは「言葉」を持っていない。「言葉」というもので理解しようとしていない。ただ、現象が海の中に積み重なって広がっていく。ただ、思いが空へと投げかけられておおきく響いていく。それだけ。風は私の耳にささやく。それだけ。

海に、きた。

私はこの文体で、淡く淡く書き続けようと思う。私がもう一度帰ってくるまで。私はこの体で、長く長く生き続けようと思う。私がもう一度間違うまで。私はこの言葉で、いつもいつも息し続けようと思う。繰り返し繰り返し、日が登って夜が開けていくように。夜のうた。それは開けていく歌でもあるから。私は歌いながら時間を忘れる。繰り返し繰り返し、その意味を忘れるまで。波が言葉。波は昔は泣いていただろう。しかしいつの間にか波はただ、ひいては寄せるだけの繰り返しになった。波はただ、風に吹かれて遠くへ行く。遠くから来る。それだけのものになった。

私は、疲れている。

かじかんだ手でキーボードを叩く。薄い簡易式のものだ。強く押したら指が壊れてしまう。だから私は優しく優しく叩く。書き続けるために。ゆっくりと力を込めるのは、強く力を込めるのとは別の優しさが必要になる。だから、指はゆっくりと熱くなってくる。指先がじんじんと痺れて来る。それでも言葉は溢れてくる。溢れるという言い方は正しくないと思われる。私の中からくるものではなく、私の外に取り巻く言葉を、私は勝手にも私が書いたものとしてここに記しておくだけ。ずっとずっと書きたかったのに書けなかった言葉を、リズムのようなうねりの力を借りてただただ書きたかったの。言葉たらずに。意思足らずに。

もう、われない。

我。われ。我。われ。割れる。何かの片割れとしての私。私はそう思いたがる。私はそう思いたがっている。我。われ。我。われ。割れる。何かの片割れとしての私。私はそう思いたがる。そう思うと懐かしくなる。あなたのことも。きっと遠い昔のことも。私が関係ないと言って配られた本を閉じたとしても。私が関係していると思わないほど深く見えないところで、私と私は関係している。我。われ。我々はうちゅーじんである。なんて言ってみたことがある。喉を手刀で叩いて。我々は、我々我々である。我。我。我。我。私は殺意を持って繰り返す。私は、淡々と願いを込めて繰り返す。最近覚えたことがある。何度も何度も言葉を書くと、その形が私には見えなくなる。「ゲシュタルト崩壊」という現象だそうだ。ええ、だからその通り、私は殺意を持って繰り返す。私は言葉を何度も打ち付ける。私な殺意を持って繰り返す。私は何度も繰り返す。我。我。我。我。私はそう思いたがる。その私を。

わたし

私。私。私。わたし。渡し。私。私。私。わたし。渡し。殺意を持って繰り返す。今となってはこれがしたかったことなのだと思う。私。私。私。わたし。渡し。どこかへと行く過程が「わたし」ということなのかな。だとしたら、わたしの後には何がある? 私。私。私。私。殺意を持って繰り返す。コンクリートに波が何万回何億回何兆回何景回当たったことで、海はちゃんと現象になった。言葉を忘れて。私。私。私。私。私。いつもそこにいる私。いつも鼓動する私。心臓は諦めたように突然止まる。私。私。私。私。いつもそこで見つめている私。心臓は飽きたように突然止まる。私。私。私。私。私は確信する。その繰り返しには意味があったのだと。もう意味がないと思うに至らせる何かの意味があったのだろうと。私。私。私。私。殺意を持って繰り返す。今となってはもう、私。私。私。私。不吉な実験のことを聞いたことがある。鏡に向かって「私は誰だ」と言い続ける。すると人間の心は壊れるのだという。「誰だ」とは問わないまでも、何かを問うことには心を壊すある方向性があるのだと思われる。ではゆっくりと溶かすことはできないだろうか。「問う」のではなく、寄り添うことで、何かと溶け合って忘れることはできないだろうか。ただ、鏡に向かって問うのではなく、ただ一人紙に向かって「私」と書き続ければ、いつかはそれが、踊りになる。私。私。私。私。殺意を持って繰り返す。私。私。私。私。それは殺意ではないと、私は気がつく。私。私。私。私。過程を見ることができない大人にならないように。私。私。私。私。愛をもって繰り返す。私。私。私。私。私。私。私。私。

わたし。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!