海:2021/02/28

海だと気づいた。なんの気持ちもなく歩くこのきもちは海だと気づいた。私の柔らかい心を表すこの文は、海だと気づいた。私の少ない時間で書き表される、修正されないこの文は、海だと気づいた。私は時計を見て、潮を読む。この時間のこの時だけは海だと気づいた。私はいつも。こうして書くことを求めていた。その気持ちは、海だと気づいた。私はお腹が空いていて、今朝飲んだコーヒーの味を下の上だけの余韻で味わう。それから他の飲み物は飲んでいない。マグカップの中は空。それでも私の口にはコーヒーは残っている。私は飲んだと思ったコーヒーを味わう。私は黄色い半透明の腕時計を持っている。それは5分早く時間が表示されていて、今9:44である。秒の単位はキーボードを打っている時間に進んでいってしまうので記述することができない。書くと言うことは分単位で進んでいるのだろうか。それとも物理的に時間というものとは全く別の仕組みで動いているのだろうか。宇宙を表す言葉とは別の言葉で、書くことの宇宙は続いているのだろうか。そう思うことにする。私の傍には日記帳が置いてある。できればこれを嘘にしたい。突飛のないことを言って、話の構成を一気に破壊したい。私の傍には地球の水溜りが置いてある。私の母は火星人である。私の父は蟻の王様である。私の弟は、寅年である。

海だと気づいた。波が寄せて引いていく。

海だと気づいた。しぶきが立って、私は空想の区切りを一つ終わらせる。

海だと気づいた。いつものことだから、わたしは今さら驚かない。

海だと気づいた。うねりくねって、元に戻る。

海だと気づいた。布団の中で一人、寝返りを打つ。

海だと気づいた。堤防の向こうには何もないように見える。

海だと気づいた。空は曇っていて、光がぼんやりと微笑む。

海だと気づいた。ここにいない人のことを思い出して、面倒くさい。

海だと気づいた。私は私であることを、まだ気にしている。

海だと気づいた。踊ることをどこまでも極めて、体を忘れてしまいたい。

海だと気づいた。花火が散った火花が帰ってくる場所は。

海だと気づいた。私がいつも懐かしいのは。

海だと気づいた。自転車をこいで、ここに着く。

海だと気づいた。一定のリズムで、揺らぐ揺らぐ。

海だと気づいた。それでも、それでも、にもかかわらずとある。

海だと気づいた。


私が道の脇でなっている波の音に気づいたのは、確かこの海にき始めてしばらくした頃だった。初めは静かすぎるその音に気付きもしなかった。波が堤防に当たる音に気づいたのは、堤防の上を静かに静かに歩いてからだった。空が高い高い壁の向こうにあることは知っていたけれど、その空の下に広い広い海が広がっていることまでは想像できなかった。想像できて初めて、私は波の音を知ったんだ。そしてそれから私は壁の向こうの海を想像する。波の音を頼りに。本当の海のことは一切知らない。もう堤防の上に立つつもりはない。その上を歩くつもりもない。ただ、ただ満月の空を見て、私は思い出すだけ。ありきたりに思い出すだけ。言葉を繰り返すだけ。その場所を思い出すだけ。その場所は海だと気がついた。

最後までお読みくださりありがとうございます。書くことについて書くこと、とても楽しいので毎日続けていきたいと思います!