それは一つの事件、或いは熱狂!〜青年講釈師・神田伯山〜

 皆さん、講釈という芸をご存知であろうか?落語・漫才・漫談・曲芸に比べて、寄席芸としては、ちょっと地味な位置に居たのだが、此処に来て講釈・講談と言う芸が、にわかに盛り上がっている。
 それはともかく一人の青年講釈師のおかげと言って過言では無い、男の名は神田伯山と言う。松之丞改メである。
 講釈と言う芸は、釈台の上で張扇と扇子で調子を刻みながら、物語を読んでいくものである。軍記物、一代記、一席物、伝記。色々あるが、基本、物語である。稀代のストーリーテラー誕生の物語。
 もうこれは衝撃である。浅草演芸ホールにて、人が大挙していた。朝の十時についた僕は、百四十番目の整理券であった。
 近年の真打昇進で、これほど売れた奴がいただろうか?山陽?いやいや、一之輔?いやいや、もっと。
 次元違う。並ぶ列が違う。素晴らしい売れっぷり。熱狂、事件と言って良い。
 午後四時半、入場の為の列が並ぶ。僕は、前の方の席を手に入れた。
 芸協の人達の、力の入れ方が違う。すぐにわかった。
 前座もとより、二つ目真打。力の入れようが違う。芸協の芸人さん達、こんなに面白かったっけ?そんな、幻覚に惑うくらい、笑った。今日は僕は良い客だった。普段はムスッと笑わず、黙って聴くのがマイスタイル。しかし今日は違う。客がみんな明るい。よく笑う。つられて僕も笑う。一番太鼓がなったその時から、笑いの渦に巻き込まれる。
 鯉英さん、新作面白かった。南なんさん良い雰囲気だった。文治師匠さすがだ。ねづっち、うますぎる。米助、落語だ!ボンボンブラザーズ、客をわかってる。松鯉先生、名人芸。口上、賑々しいッ!
 もう、熱狂は絶好調!出たトリは神田松之丞改メ神田伯山。出し物はボロ忠売り出し。笑わせる、うまい。調子が良い!
 良いよねぇ、粋だねぇ、芸は真打になったからって、いきなり上手くなるとは限らない。名前が伯山になったからって、急に名人になるわけではない。
 あとは本人次第である。
 厳しくも、暖かい世界。行ってよかった。一期一会だ。
 六代目、浅草千秋楽は中村仲蔵〜淀五郎。恥をかいて恥をかいて、上手くなるんだ。
 中村仲蔵と淀五郎は落語にも音源がある、志ん朝師匠で是非聞いていただきたい。芸談である。
 まさに芸に生きる、伯山の骨頂。事件・熱狂は池袋に舞台を移し、コロナ何するものぞと真打披露目興行は続いていく。
 そして、一大ムーブメントは疫病より激しく舞い踊るのだ!

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