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【翻訳】Slavic Saturday:ドリアード

この記事は「グウェントで学ぶスラヴ文化」をテーマに2021年9月15日に Notion 上で公開されたものの移転記事です。原則として当時のまま転載していますが、ほとんどの画像は転載していません。

著者:DrDenuz 翻訳:nippongwent
この記事は「Team Bandit Gang」の記事「Slavic Saturday: Dryad (EP4)」の日本語訳です。元記事のURLは既にリンク切れとなっています。
URL:https://teambanditgang.com/slavic-saturday-dryads-ep4/

導入

昔のスラヴ人たちにとって、森とその中にある沼はどこにでもあるものでした。農場や村の周り、山でさえ、森に囲まれていました。それらの森には精霊が棲んでいました。スラヴの神話に登場する精霊は、ほとんどが友好的な存在ではありません。夜の影に潜む悪魔の話は、スラヴの部族や国中に広まっていましたが、その中でも最も恐ろしい話の一つがドリアードです。
ギリシャ神話ではドリアードはニンフや女神、半女神として描かれています。スラヴ神話身置いて、対応するものが「vily」(vilaの複数形)です。

「vila」または「víla」、「rusalka」、「diva」、「samojuda」または「samodiva」 は、スラヴの妖精で、超自然的な美しい女性です。

訳注:スラヴ系の言語では名詞が複数形になると語尾が「i」「y」「e」に変化するというパターンが見られます。今回の文章ではスラヴ諸語での綴りが単数形と複数形を混ぜた形で複数回提示されますが、原則カタカナに置き換えずに記載することにしました。第3回のキキモアの回と異なり、音が重要ではないためです。アクセントなどの発音区別符号が付く文字も出てきて驚きますが、ほぼローマ字読みが可能なので、なんとなく読んでみてください。
また、このシリーズは出典が明示されていないのですがチェコ語の Wikipedia の記述を参照したものが多いようです。絵に関してですが、元記事をそのまま転載していますが、出典が確認できたものについてはわかるように記載してます。時間をつくって過去の記事についても整備しようと思います。(転載注:この問題があるため、note に転載するにあたり絵は除外しています)

語源

スラヴにおいて「vila」という言葉は、憑依される、狂うという意味のある「viliti」から来ていると考えられています。「rusalka」は赤毛の女性を指すチェコ語の「rusovlasá」か、川を意味する「rusa」のいずれかが由来です。

その起源

歴史上の記述では「vily」は通常とは異なる形で早死にした少女たちの魂であり、とくに自殺や溺死した少女たちの魂であると主張するものがあります。
これは、洗礼を受けずに母親によって溺死させられた子から生まれる「Navky」と名付けれらた存在と似ています。どちらも小さな子供の姿をしていたり、美しい半裸の女性の姿をしていたりして、人に害をもたらします。

訳注:「Navky」の単数形は「Navka」であり、水に関係する精霊とされています。このパートの記述では、こうした精霊の起源となっているものが、様々な地域で様々な理由で行われていた「嬰児殺し」によるものだと示唆しています。
余談ですが、水に関係することから私は「水子」という言葉を思い浮かべました。ちなみに水子は胎児というイメージがありましたが、そのイメージがついたのは人工中絶が広まった戦後以降のようです。

スラヴ神話におけるドリアードの種類

山のドリアード
バルカン諸国には「山のドリアード」(Vile planinkinje、Samovile samogorske)がいて、洞窟に住み、蛇に変身できました。チェコ神話においては地底の支配者である Kovlad の妻である Runa が該当するかもしれません。 Runa は「ペルモニク」の女王でもあります。

訳註:「ペルモニク」はチェコ語の「Permoník」の英語表記で、鉱山を守る悪魔のことです。ドワーフ、ノーム、コボルドといった存在と混同されて解釈されていたようです。

空のドリアード
バルカン諸国には「空のドリアード」(Samovile oblankinje)もいました。それらは空を飛び、とくに雲を湧かせ雷雨を起こすといった形で天気に影響を与えていました。

森のドリアード
森のドリアードはクロアチアとスロヴァキアでは「žínky」または「žienky」と呼ばれています。これらは森に住み、金髪または赤毛で柔らかな服に身を包んだ透き通った美しい女性として描かれます。その髪が力の根源と考えられており、髪のおかげで、馬や狼、隼、白鳥のような数々の動物に変身できます。また、癒しと予知能力に長けています。
鹿や馬に乗って狩りをしたり、森の中で踊ったり歌ったり、露が落ちるときや虹が出たときにだけ現れたと言われています。

水のドリアード
水のドリアードは「rusalky」と呼ばれ、泉や川、湖の近くに住んでおり、人魚に近い存在です。
その髪は常に濡れていなければならず、そうでなくなると消滅してしまいます。そして、その髪をとかすと、洪水が起こることがあります。
「judy」や「jezinky」と呼ばれるドリアードや妖精もいます。とても美しい存在で、水源や森に住んでいますが、これらは非常に悪辣で人々を溺れさせ、旅人を道に迷わせます。

人間との関係

悪い影響
水のドリアードは(人魚と同じく)人を溺れさせることを好んでおり、人が井戸を使おうとすると激しく怒ります。レトニセ(ペンテコステ:キリスト教の聖霊の加護を祝うお祭り、イースターから50日後の日曜日に行われる)の時期にはとくに危険になります。なぞなぞを解けなかった旅人を溺死させるだけでなく、船を転覆させ、橋を壊し、堤防を溢れさせ、漁網を切り裂きます。
森のドリアードは、人を踊りの輪に誘い込み、死ぬまで踊らせます。
妖精やドリアードは揺り籠から子どもを攫ったり、子を自身の精神的にも肉体的にも醜い子と入れ替えたりしていると伝えられています。(マムーナとの類似性に注目) ラトビアではドリアード自身は子をなせないため、揺り籠には魂の入っていない魔法の作り物の子どもを置いていきます。
子どもは生まれてから2日目までが一番攫われる危険があるため、母親は子を一人にできませんでした。子どもが攫われた場合は、母親は入れ替え子を叩くことで妖精の同情を誘えれば、妖精が元の子を返しに来ます。ここでもマムーナとの類似性があるように、マムーナもドリアードの仲間の可能性があります。
ドリアードは、悪辣で復讐心の強い存在として描かれがちですが、必ずしもそうとは限りません。それらは人間の不注意や無謀さによって引き起こされています。ドリアードが復讐に燃えるのは動物が殺されたり、木が伐採されたり、ドリアードの平穏が脅かされたりするからです。

良い影響
ドリアードは害をもたらすだけの存在ではなく、とても親切でもあります。若い男を傷つけることはなく、むしろ安全を守り、贈り物をしてくれます。(セルビアではドリアードは「posestriny」と呼ばれ、仮の姉妹であり守護者です)
ドリアードと結婚(それが望んだものであれ、強制されたものであれ:ドリアードの所有物を盗むと夫にされ逃げられなくなります)することもできます。しかし、結婚が望んだものである場合には、通常、条件があり、それが破られると、この妖精は子どもを連れて夫の元を去ります。ほとんどの物語で、夫はその条件を破ってしまいます。(女の出身やドリアードであること問いただしたり、髪を切ったり、夜に鍵のかかった部屋で何をしているのかを探ってはいけないのです) もし条件を破らずにドリアードと一緒に過ごせれば、ドリアードは自分の知識や魔法で夫を助け、夫は裕福になります。そして二人の子どもはとても賢く記憶力の良い子になります。

訳注:世界的に見られる「異類婚姻譚」が展開されています。日本では「鶴の恩返し」が有名です。

結語

これは「Slavic Saturday」の4番目の記事です。ファンのみなさん、このほかにも多くの生き物たちについて語る予定です。3番目の記事を読み忘れた場合はこちらで読めます。来週の土曜日に皆さんにお会いできることを楽しみにしています。
DrDenuz は Bandit Gang のゲストライターです。 彼についての情報はこちら:TwitterTwitchYouTube

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※「日本グウェン党」の記事は「CDPRファンコンテンツガイドライン」に従って作成された非公式のファン作品であり、CD PROJEKT REDによって承認されたものではありません

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