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タオルの名産地の母たちが作るスタイーニッポンのヒャッカ第13回ー

 瀬戸内海の美しい海を臨む愛知県今治市。「今治タオル」で知られる国内有数の高級・上質タオル生産地だ。市内にはメーカー、縫製、刺繍、染色など、さまざまなタオル産業に携わる企業や工場が集まり、100年以上の歴史の中で技術を育んでいた。
 そんな今治に暮らす母たち3人が集い、「今までにない今治発のブランドを作りたい!」
との思いで11年前に起業した会社がある。
 その名は「クレシェンド」。音楽の強弱記号「だんだん強く」の意味に、思いが込められている。


「私たちは今治に暮らす主婦で、息子の子育て中に知り合った母親同士です。タオル産地のこの地で、主婦として『あったらいいな』と思うものを純粋に実現することに取り組んできました」と、代表の阿部さん。
 学生時代を東京で過ごした阿部さんは、今治タオルの産地出身でも、意外と地元について知らないこと、男性の職人が多いことから、女性目線での商品開発の発展性に気づいた。そして経験も技術もある職人さんも多い今治だからこそ、自分たちが作りたい商品を作れる環境が整っていたことも起業を後押ししたと言う。

p1-打ち合わせ中

スタッフと打ち合わせ中の阿部さん(向かって左)

 そんなクレシェンドの人気商品のひとつが「2wayスタイ」。
スナップで留めるとスタイになり、広げると四角いタオルハンカチとしても使えるうえに、スナップ部分がループ状なので、フックなどに掛けてもOKというスグレモノ。パステルカラーのことりのアップリケもキュートで洗練されたデザインだ。子どもの頭脳や情緒の発達に良い影響をもたらすことから、カラフルでポップな色にもこだわった。

p2-スタイ表

「2wayスタイ」の表側


「小さな子を持つママの荷物を少しでも減らしたいと、使い勝手の良さを工夫しました。『三角にハンカチを折って首に巻けたら便利だよね』というアイディア出しから、バンダナ風のよだれかけが実現しました。アップリケには、ママの手作り風のテイストを出し、この部分も早く乾くように、ズレ防止のための裏地をあえて付けない『置き刺繍』という手法にしました」
 一般的なタオルの刺繍は、刺繍糸の部分が固くなって乾きにくい。アップリケや刺繍は欲しいけれど、生地の裏も早く乾いてほしい!そんなママのニーズ、カユイところに手が届くような気配りなのだ。
 アップリケのデザインは、美術大出身のママが担当し、裁縫が上手なママが見本づくり。それをさまざまなプロがいる今治の地で、自分たちの商品イメージを具体的に伝えて生産してもらったという。
「私たち主婦は欲張りですから(笑)」と阿部さん。
 しかも、ループ状のヒモ部分は、百貨店の期間限定ショップでのお客様とのやりとりから気づいたアイディアで、すぐに取り入れたのだとか。小さな会社だからこそ、お客様の声をすぐに反映できるフットワークの良さはさすが。
固定概念にとらわれない着想で、発売した商品を随時グレードアップさせていく姿勢こそ、「クレシェンド(だんだん強く)」の真骨頂だろう。

p3-タオルとしてのスタイ

タオルとしてのスタイ。端にループ状のひもはお客様のアイディアの賜物



一番のこだわりはタオル生地そのもの

「技術がないからこそ、自由なアイディアを出して職人さんたちの力をお借りできるのだと思います。最初は私たちの手づくりサンプルを持参しても『できない』と言われたことも何度もあります。それでも『どうして、できないの?』と。
 そうしたやりとりを通じて技術的な理由を理解し、また相談しながら解決の糸口を探して作っていただいています」


 デザインも形も色も、ママたちが欲しいものを追求しつつも、一番のこだわりは生地だと言う。
「実際にタオルを一番使うのは女性ですよね。タオルひとつに対してでも、いつまでも柔らかい、早く乾くなど、女性はいろいろな希望があります。タオルは撚っていない糸を使うと柔らかくなるのですが、洗濯をしたり、繰り返し使っていくうちに毛羽立ち、繊維が抜けて他の衣類にも糸くずが付いたりしてしまいがちです。
 そこで、撚っている糸を使いつつ、毛羽立たない生地ができないのか、と試行錯誤しながら取り組みました」

p4-生地とアップリケ

生地とアップリケ部分のズーム。やわらかくて吸水性も抜群

 男性の職人さんたちを相手に、なんと1年ほどかけて理想のタオル生地を実現したとのこと。しかし、阿部さんは苦労の様子を少しも見せない。そして自分たちがおもしろいと思うことこそ、エネルギーになると話してくれる。
「タオルはお客様が触ってみて、実際に使ってもよいと思っていただくまでが大変です」と阿部さん。
 店頭で目に留まり、手に取っていただくためのデザインや色の努力はしながら、生地という本質の妥協もしない。

「今年は、接触冷感機能のある、綿100%の生地づくりに取り組んでいます。シーツなど涼しい寝具が既にありますが、ポリエステルなんですよね。子どもにも安心して使える天然素材の生地を目指しています」
 どこまでもエネルギッシュで「クレシェンド」。
 主婦は欲張り。でも、その欲張りはすべて愛情100%なのだ。


クレシェンド:公式サイト

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