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ドラッカーのパラダイムが変わった

2024年9月14日、福岡県福岡市にある九州大学伊都キャンパス内の椎木講堂で、「ドラッカー大会糸島大会」が開催される。私、岩崎夏海はその運営委員長を務めている。今回は、この大会の開催意図とコンセプトについて記したい。

その最大のコンセプトは、「ドラッカーが社会に果たす役割のパラダイムが変わったのではないか」と提言することだ。どう変わったかというと、これまでは「マネジメント」中心だったのが、これからは「すでに起こった未来」が中心になるのではないか。

ドラッカーは、数々の未来を予測したことで知られるが、自身は「予測していること」をあえて否定していた。代わりに「それは『すでに起こった未来』である」と述べた。つまり、現在すでに起こっているものの中に、まだ小さくて潜在化しているが、やがて大きくなって顕在化するものがある。それを見抜くことで、ある程度「未来」に起こることが分かる。だから、それは「予測」なのではなく、むしろ「観測」なのだ、と。

この考え方が、これからの時代、重要になるだろう。というのも、これからの時代は、「未来予測」が重要になるからだ。裏を返すと、未来予測は今現在、まだ軽視されている。

なぜかといえば、それはほとんどの人が「未来など予測できない」と強く思い込んでいるからだ。そのため、はじめから未来予測の存在を拒否している。そうして、現在ばかりを見ようとする。「今を生きる」という言葉が人気なのは、その証左の一つといえよう。

ドラッカーも、未来予測が嫌われること——特に知識層から嫌われることを知っていた。だから、彼は反論をあらかじめ避けるため、「未来予測」という言葉をあえて使わなかった。そうしてわざわざ「すでに起こった未来」という言葉を作った。

それでもなお、ドラッカーのこの考え方——すなわち「すでに起こった未来」は、彼の業績の中で軽視されてきた。しかしながら、ドラッカーの死からしばらく経って、彼の人生をあらためて俯瞰してみると、実は一番重要だったのがこの「すでに起こった未来」を観測する能力——ここからはあえて「未来予測」という——だったことが分かる。

ドラッカーは1933年頃、ヒトラーが首相になるかならないかのタイミングでドイツを脱出し、国外へ逃げている。それは、ヒトラーがドイツに禍をもたらすことを「未来予測」できたからだ。

さらに、第二次世界大戦中の1943年に、マネジメントの研究のためにGMに入る。それは、マネジメントの知見が近い将来、世界中で必要とされると「未来予測」できたからだ。

その他にも、戦後の日本復興や20世紀末のNPOの台頭など、いち早く「未来予測」し、誰よりも先にコミットしている。こうしてみると、ドラッカーをドラッカーたらしめたものは、何よりも彼の「未来予測」だったということが分かる。けっして「マネジメント」ではない。マネジメントは、彼の未来予測に基づいて研究を行った数ある成果の一つに過ぎなかった。

そうして今、未来予測が水面下で重要になりつつある。その理由の一つは、現代の起業が「未来予測に基づいて行われる」ことが主流になったからだ。そういうゲームチェンジが起こっている。

20世紀までは、「今現在足りないもの」がいくつもあった。だから、それを供給するためのソリューションがだいじだった。それが整えば起業できた。
しかし今、「今現在足りないもの」はなかなか見つからない。それよりも、ジョブズの作ったiPhoneやGoogleやAmazonが供給するサービスのように、できてみて初めて「あ、これが足りなかったんだ」というプロダクトが求められている。

だから、そういう「今現在足りないもの」ではなく、「未来において足りない」ものを作らなければならない。そうなると、未来予測が不可欠となってくるのだ。

そうして今、多くの起業家が「未来予測のメソッド」を欲している。しかし、それはまだまだ知識化、体系化されていない。そればかりか、概念として成り立つことさえ、多くの人から否定されている。それは、最初に述べたとおりだ。

それにもかかわらず、その需要は水面下で高まる一方だ。そのためこれは、やがて資本家や投資家などにも不可避的に広まるだろう。そうしてやがては、政治家や教育者など、あらゆる分野の人たちに必要とされるようになる。

つまり、「未来予測のメソッドが求められる」という状況が、ドラッカーのいう「すでに起こった未来」そのものなのである。だから、その方法をいち早く体系化し、メソッドとして確立していくことは、ドラッカー学会にとって、きわめて重要なミッションとなるのではないだろうか。

そういう思い、あるいはコンセプトをもとに、私はドラッカー大会糸島大会を開きたい。そこでは、「未来予測のメソッド」を構築するためのヒントや具体的な方法論など、可能な限りつまびらかにすることで、さまざまな人がこの研究を始めることのきっかけにしたい。

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