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いつになったらキャッチ&リリースの効果はわかる?

科学論文を釣り情報へ還元する第35回目の投稿です。

前回から釣りに関する規制(レギュレーション)についてご紹介しています。

キャッチ&リリース(C&R)はみなさんもよくご存知のレギュレーションですよね?

C&Rは、資源保護を目的に「釣ったサカナを元いた環境へ(やさしく)帰す」という行為として広く知られています。

釣りのレギュレーションとしては最もポピュラーであり、19世紀にフライフィッシングの本場イギリスが起源と言われます。

日本では1995年に北海道の渚滑川(しょこつ)でC&R区間が設定され、今では区間が設定されている滝上町の条例にも制定されています。

一方で、特外来生物に指定されているブラックバスなどは拡散防止の観点から、逆にC&Rが”禁止”という措置が取られています。

さて、資源保護を目的に行われるレギュレーションですが、C&Rの効果っていったいどれくらいでわかるものなのでしょうか?

そこで、今回はC&Rの効果について調べた論文をご紹介したいと思います。

Näslund, I., Nordwall, F., Eriksson, T., Hannersjö, D., & Eriksson, L. O. (2005). Long-term responses of a stream-dwelling grayling population to restrictive fishing regulations. Fisheries Research, 72(2-3), 323-332.

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この論文ではグレーリングという、大きな分類で言うとサケマスの仲間で、「カワヒメマス」とも呼ばれたりする河川を中心に生息するサカナを対象としています。

このサカナはサケマスの仲間の中でも(相対的に)最も釣られやすいサカナだそうで、そのためC&Rや他のレギュレーションをキチンと設定すれば資源保護の効果を発揮するのではないかと言われています。

この研究では、スウェーデン北部の河川で、C&Rなどのレギュレーションを設定してから10年以上継続してグレーリングの資源量を追跡しています。

さて、早速ですが、この研究の結論です。

”C&Rを設定してから、その資源の保護効果が確認できるまでは10年以上必要”

ということでした。

今回の調査区間では、1988年まで捕獲サイズ制限(25cm以下捕獲禁止)でしたが、それ以降は、人数制限(漁獲努力量:10人/日)や漁獲量制限(1尾/日)などの制限が追加で課されています。

また、捕獲サイズ制限が年々強化されていき、1995年以降は45cm以下捕獲禁止、2000年には完全なC&Rとなっています。

そのため、今回の調査期間中は完全なC&Rというわけではないですが、なかなか厳しいレギュレーションを設定していますよね。

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確かにこの図を見ると、サカナの資源量は増加傾向を示しており、別の結果では平均体長も増加し続けているそうです。

グレーリングは成長が割と遅く、繁殖可能な成熟期まで時間がかかる(およそ5年以上)だけでなく、寿命が10年以上とサケマスの仲間ではなかなか長寿なサカナです。

そのため、捕獲サイズ制限に加え、釣り人の数や漁獲制限の強化によって、大型のグレーリングは特に大幅に増加しています。

例えば1995年以降急激に大型のグレーリングが増加していますが、1989年に制限強化が始まってから高齢で生き残ったサカナたち(9歳以上)が大型化していることがわかっています。

しかし、いくつか懸念があります。

例えば、小型のサカナは1997年以降一時的に落ち込んだり、1989年以降の制限強化以降の10年では変動が大きく安定していません

これは制限を強化して以降、年々資源量が増加した結果、グレーリング同士の競合(種内競合)が激化し、生息地やエサの奪い合いが発生した可能性がありました。

その結果、比較的若いグレーリングがこの川へ定着するのに時間がかかるようになったと考えられます。

今回の調査地はエサが豊富ではなく、厳しい越冬もあることから、こういった寿命の長いサカナたちでは種内競争も激しく長期化する可能性もあります。

どのサイズのグレーリングもある程度増加した後、(自然環境の収容力にあわせて)一定の範囲の変動を示すことが確認できて初めて、C&Rやその他のレギュレーションが成功した状態と言えるでしょう。

これはいわゆる「平準化」という状況ですが、今回の研究ではそれに至っていないと結論付けています。

ちょっとした資源の増加だけでは喜んではいけないのがよくわかりました。

日本国内ではまだまだこれからC&Rなどレギュレーションの規制が増えていく可能性があります。

レギュレーションを設定して、サカナたちの増加を確認し、その資源が安定するまで見守る。

そういった姿勢がとても大切なのでしょうね。

それではまた次回お会いしましょう。

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