甲子園の星

甲子園の星。

スターが好きだ。
毎年、夏の高校野球の季節になると、その年にきら星のごとく現れるスターを追う。

去年は、秋田・金足農業の吉田輝星にぞっこんだった。

そして、今年は、石川・星稜高校の奥川恭伸投手。

「死闘」と言われた三回戦の智弁和歌山戦では、延長14回までに23奪三振。いままで聞いたことのない三振の数だった。

「四天王」と呼ばれるスター候補たちが軒並み予選で敗退する中、奥川投手の星稜はきっちり石川県予選を勝ち抜き、あと一つで頂点というところまで勝ち上がった。

心配された打線も爆発しはじめ、優勝に向けて万全といった感じだった。

決勝の相手は、大阪・履正社高校。
昨年の大阪桐蔭に続き、今年もスターの前に、大阪代表が立ちはだかる。

午後二時からネット中継をつないで、ハラハラしながら最後まで観てしまった。

ものすごい試合だった。
こんなに緊張することは日常にないというくらい、緊張して泣きそうになったり、吐きそうになったりしながら観た。

一進一退どころか、七回以降は勝利の女神が「どちらにしようかな」と決めあぐねているような展開だった。あの一球、あの一打がなければ、という場面が幾度も積み重なって、最後のダブルプレーまで目が離せなかった。

それでも結末はおとずれる。
優勝したのは、履正社だった。

なにが勝者と敗者を分けたのか、素人のぼくには分からない。
昨年の大阪桐蔭は、誰が見ても圧倒的だったけれど、今年は本当に互角だったと思う。

強いて言えば、決勝の重圧からかそれまでに比べ、奥川投手も疲れが目立ったし、星稜ナインにミスも多かった。対して、履正社ナインは本当に崩れなかった。エースの清水投手もヘロヘロになりながら、なぜか「ここぞ」というところで踏ん張ってしまう。大阪代表のメンタル、ハンパない。

それでも奥川投手も「ここぞ」という場面、例えば、四番の井上選手との対戦ではグッとギアを上げて見事な三振を奪ったし、その力投によって何度も相手にいきそうな流れを奪い返した。星稜打線もあと一歩のところまで追いすがった。

ぼくは終始、星稜を応援しているつもりだったけど、最後の攻防を観ているうちに勝ち負けへのこだわりが薄れていった。あまりにも緊迫しすぎて、いい試合すぎて、それどころではなくなってしまったのだ。

とはいえ、勝ったのは、履正社。
甲子園の星はふたたび、大阪代表に栄冠を奪われた。

実況を聞きながら、面白いなと思ったことがある。

それは優勝した履正社が、去年の覇者である大阪桐蔭に負け続け、また春の選抜でこの奥川投手に17三振を奪われ、完封負けしたチームであったこと。

かつての敗者が、今日の勝者になる。
星稜もまた、昨年夏のタイブレークで奥川投手の足がつって敗戦したことを智弁和歌山戦でリベンジして勝ち上がった高校でもあった。

もしかしたら、あれほどの重圧と緊迫感の中で勝敗を決めるのは、もはや実力ではないかもしれない。こう言っちゃ失礼かもしれないけれど、2点取り返した八回表に奥川が打たれたとき、神様がこれ以上の重圧を彼に与えないようにしたのかな、という気すらした。一回からあまりにもピンチの連続だったから。

もちろん全力で勝ちに行って、でもそうはならなくて。

そう思うと、甲子園という場所は、敗者が映える。
判官びいきというやつなのかもしれないが、やはり負けたからこそ吉田輝星も奥川恭伸もより鮮明に記憶に灼きつくような気がした。

でも、勝ちたかったよね。
ぼくも観戦後、なんだか落ち込んでしまって、何のために観戦したのかよく分からなくなった。

でも、来年もまた、新しいスターを追いかけるんだと思う。

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