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だれかとの間に橋を架ける。

この本がすごく面白い。

経営学者、宇田川元一さんの対話と組織論に関する本。

その中に、こんな文があった。

対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味します。(P.22)

そして、このプロセスは相手との溝に「橋を架ける」ことに例えられる。

溝に落ちるか

この図は、とても印象的だった。
この図のとおりに溝に落ちた経験を、何度もしてきたからだ。

本文では、哲学者のマルティン・ブーバーの定義を用いて、左側の「相手のナラティブを見ずに、技術的に問題解決を試みて失敗する」のを「私とそれ」の関係性、右側の「相手のナラティブを観察して解釈し、新しい関係性を築くよう技術的に介入する」ことを「私とあなた」の関係性と呼んでいる。

「私とそれ」は人間でありながら、向き合う相手を自分の「道具」のように捉える関係性のことです。

(略)

ビジネスにおいて、このような関係はよくあることです。友達ではなく、仕事の関係なのですから、私情は抜きにして、立場や役割によって「道具」的に振る舞うことを要求する。人間性とは別のところで道具としての効率性を重視した関係を築くことで、スムーズな会社の運営や仕事の連携ができます。

逆に期待していた機能や役割がこなせなければ、信用をなくしたり、配置換えにあったり、解雇されたりします。これ自体は悪いことではありません。そのように私たちは社会を営んできました。(P.20-21)
一方で、「私とあなた」の関係とは、相手の存在が代わりが利かないものであり、もう少し平たく言うと、相手が私であったかもしれない、と思えるような関係のことです。(P.21)

このあたりを読みながら、僕は「私とあなた」の関係に強く惹かれる傾向があり、仕事において「私とそれ」で関わろうとする人と軋轢を生んできたな、と気づいた。

例えば、レストランでオーダーをするとき、僕は店員さんと「私とあなた」の関係になりたがるところがある。相手が「道具」としてしか対応しなくて「人間らしくない」とがっかりすることも多い。

同じように、自分の仕事において「道具」としてサービスを提供してさえくれればいいと思う人がくると、ひどく落胆してしまう。

でも「私とそれ」で関わろうとする人が悪いわけではない。むしろ、そちらの方が一般的だし、僕だってバイトで単純作業をしているときには「道具」になった方がやりやすい。

その相手のもつナラティヴに不寛容だったんだな、といまは思う。

それでも、やはり対話を通じて架橋できて「私とあなた」という関係になれる魅力は、なににも代え難い。

そしてそれは、一度ならず、何度も起きるプロセスだ。

昨日書いた

だってまさに、未二観を通じて相手の身になれたことで、はじめて奥さんのしゃべることに架橋できた話だし、

この話で出てきた「準拠枠をはずす」ことも、それをすることで「自分の中に相手を見出す」ことがしやすくなる。(実際、宇田川さんの本でも橋を架けるための最初のプロセスとして「自分のナラティブを脇に置いておく」ことが強調されている。)

橋の向こうに渡って、相手の目で景色を見たときの「そういうことだったのか」という驚き。

今日も奥さんの話を聞いていてそんなことがあったけれど、それは焦点が合うまでは決してわからない、けれど、わかるととんでもない解放感をもたらす。

正直、それを組織の中に入ってやれる宇田川さんが、ちょっとうらやましい。大変なこともあると思うけれど、絶対面白いと思うから。

そうして、対話によって、相手との間に橋が架かるとどうなるのか。

あなたやあなたの所属している組織は対話を通してとても強いものになっていくでしょう。厳密に言えば、強い、というよりも、反脆弱的な組織に変わっていくはずです。

「反脆弱性」とは、ナシーム・ニコラス・タレブの著作に示された概念ですが、簡単に言えば、色々な問題や困難に直面すればするほど強くなる性質のことを反脆弱性と言います。(P.69-70)

これはものすごくよく分かる。
うちの夫婦がまさにそんな感じだからだ。

けんかして、トラブルに遭って、右往左往して、大変な経験をいっぱい共にしたからこそ、なんだか足腰が強くなっている。そんな感覚がある。

やってみるまでは、そんなふうになるとは思わなかった。
だってもっと「仲良く」したかったから。

でも、この率直で真剣なやりとりを通じて育まれていくもの、そこで発見するものの魅力はたまらない。

できたら、しんどい思いなしでそれができたらと思うけれど、たぶんそうもいかないんだろうな。笑

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