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松原聖弥が推しになった日

 2005年から始まった育成ドラフト制度。

 支配下ドラフトでは指名されずとも育成選手という形でチャンスを貰え、三桁番号を背負って二軍の試合に出れるこの制度でかつて読売ジャイアンツから2人の新人王を輩出しました。

山口鉄也


松本哲也


 巨人黄金期の象徴ともいえる山口現一軍投手コーチと2番打者として2度の日本一に貢献した守備の名人松本現二軍野手総合コーチですが、かつては2人とも育成選手だったんですよね。

 10年くらい前までは育成選手といえば巨人だと言えるぐらいには他球団より一歩抜きん出ていて、これからも山口さんや松本さんみたいな選手が育成から出てきてくれるだろうなぁ…と、そう思っていたんです。

 ところが現在では福岡ソフトバンクホークスに立場を逆転されまして(笑)育成選手の象徴といえば千賀滉大投手になってしまいましたし、野手では同じくホークスの甲斐拓也捕手が育成No.1野手に。

 巨人では毎年のように支配下に昇格する選手が出るものの2010年代で一番台頭したのが育成外人として入ってきたC.C.メルセデス投手、ドラフトからでは2019年に優勝の殊勲打を放った増田大輝が一番マシくらいの結果に終わり、完全に遅れを取ってしまったと。

 もう山口や松本みたいな育成スターは生まれてこないのかなぁ…とそう思ってたんですが、去年から今までノーマークだったある選手がまさかの覚醒を果たしまして。

松原聖弥


 先日セ・リーグの育成ドラフト出身選手としては史上初の二桁ホームランを放ち、規定到達まで見えてきたこの松原選手、去年の開幕頃はまさかこんな活躍をするとは夢にも思っていませんでした。

 松原選手は大坂生まれで、名門仙台育英高校に入学。しかし3年間でベンチ入りもできず最後の夏はスタンドで太鼓係をしていたというのは巨人ファンの方であれば皆様ご存じかと思います。

 野球部引退後同校の陸上部に助っ人として入りますが、助っ人なのに予選メンバー落ち。つくづく主役にはなりきれない高校時代を送っていたと言えます。

 その後明星大学という、東都だか首都リーグの2部か3部にある大学に入学し野球を続け、5季連続でベストナインを獲得した実力が目に留まり2016年ドラフトで巨人から育成5位指名されたわけですが、マジで無名だったんでしょうね。当時の担当スカウトすらわからないという(笑)

 僕も正直この頃は全然注目してなくてですね、この年ドラフト1位で獲得した吉川尚輝選手だったり2位の畠世周投手にしか目が行ってませんでした。

 まあなんというか、左の巧打俊足系の外野手なんか腐るほどいるわけですよ。だいたいみんなパワー不足で率もそんな残せるわけでもなく、守備や走塁でもあまりアピールできぬままひっそりとユニフォームを脱いでいく。代わりが次から次へと出てくる分、淘汰されやすいタイプの選手だったわけです。

 しかも前年の2015年にドラフト2位で同タイプの重信慎之介選手を獲得してましたし、チャンスないだろうなとかいう以前にまったく注目すらしてなかった。

 僕が初めて松原選手を意識したのは2018年。

 2年目の夏に支配下を勝ち取り、イースタンで最多安打に輝くも一軍昇格はできなかった松原選手。3年間指揮した高橋由伸さんが監督を辞任され原辰徳現一軍監督が現場に復帰した2018年の秋、東京ドームで日米野球が開催されたんですよ。

 松井秀喜さんがコーチとしてやってきて、当時ロサンゼルス・ドジャースにいた前田健太投手やヤディエル・モリーナ捕手、ロナルド・アクーニャ選手やフアン・ソト選手なども参加したこの大会で、巨人はメジャー軍団との前座試合を行ったんですよ。

 その試合で原監督が抜擢したのが松原選手。当時一軍経験すらなかったのでどんな選手なんだろうと、正直わかりませんで。球場で観戦していたのですがあんまり期待してませんでした。

 ですがその試合で松原選手はまさかのランニングホームラン(笑)

 マジでびっくりしましたよ(笑)左中間に放った打球がレフトとセンターの間に落ちてそのままフェンスまで。どちらかがボールを追ってる間に俊足を飛ばして三塁を蹴った松原選手はそのままホームベースまで到達。

 素直にすげ~(笑)と。

 普通、小兵タイプで実績もない選手がメジャーリーガー相手に活躍すると思えないじゃないですか。それがあの注目される場でまさかの一発回答を見せたわけですから、本当にびっくりしましたね。

 それでその後彼の二軍成績を改めて調べてみたのですが、ここでもまた驚いた。

 普通、小兵タイプの外野手って肩があまり強くないイメージではありませんか?名手と言われた松本さんでも肩は弱く、センターかレフトしかできませんでした。

 で、外野手の肩力を一番シンプルに推測できるのが補殺という記録です。守備の記録には補殺と刺殺という、なんとも物騒な名前のものがありまして(笑)刺殺はボールを受け取って直接アウトにすると記録されるもの。つまりファーストが多めになる記録ですね。補殺は逆に、送球でアウトにした選手に付く記録ですね。

 だから補殺というのは内野手が多めになり、外野手はバックホームで刺すとかイチローみたいにレーザービームで三塁アウトにするとかじゃないと普通付かない記録なんですね。なので数個ぐらい付けば上出来ぐらいの数字なのですが。

 2018年の松原選手、補殺を10記録したんですよ(笑)

 どんな状況かはわかりませんが、単純に考えるとシーズンで10回バックホームやらで打者をアウトにした事になります。

 それまで僕は松原選手ってセンターとかレフト守ってるのかなと勝手に思ってたんですね。

 でもこの記録を見た後で出場ポジションを見てみると、ライトが多めだった。ここで完全にイメージが変わりましたね。この人肩強いんだと。

 ですが結局翌年の2019年も一軍には上がってこず…。まあいくら肩強くても打てそうになきゃ無理だもんなと普通にクビ予想してたんですが。

 4年目の去年。パンデミックで開幕が遅れに遅れ6月にやっと開幕してから約1ヶ月後の7月25日、ようやく一軍初出場を果たします。

 その時プロ初ヒットを打ったみたいなんですがそれは全然覚えてなくて(笑)代わりに覚えているのがセンターでのエラー。

 明治神宮野球場だったんですが、センターに上がった飛球をジャンプして捕ろうとしてミットで弾いちゃったんですよね。いや松原よと(笑)4年目でそれかと正直笑っちゃったんですが、まさかその時彼が球界屈指の名外野手になるとは想像だにしなかったですわ。

 先程書いた通り育成ドラフト出身選手としてセ・リーグ初の二桁本塁打を記録した松原選手なんですが、彼の魅力は守備にあると思ってます。

 レフト、センター、そしてライトどこを守っても一流。守備範囲の広さ、打球判断の良さ、そして類いまれな強肩。どれを取っても一級品でして、その身のこなしはまるでイチローさん。

 これ言いすぎじゃないです。守備だけならマジでイチローです

 僕が彼に惚れたのも守備力からでして、試合中継や現地で彼の守備を見るのが本当に楽しい!

 そして打撃。去年少ないチャンスをモノにして同期の吉川選手と1、2番を組んでいた松原選手なのですが、正直打撃面では「小兵タイプにしてはパンチ力があるな」程度だったんですよ。

マツナオ


 巨人ファンの間ではこう呼ばれてるみたいで僕もこのコンビは凄く好きなんですが、結局彼は外野手なので、いくら守備で良いところを見せても打撃で抜きん出なければレギュラーの座に就き続けるのは難しい。

 2020年オフには横浜DeNAベイスターズからFAで梶谷隆幸選手、外国人選手のエリック・テームズ選手などを獲得した事もあって、まあ今年は第4外野手が関の山かなと思ってたんですね。

 それがテームズ選手が出場1試合目で怪我離脱(その後途中で退団)、梶谷選手も怪我で長期離脱、更にはファーストのジャスティン・スモーク選手退団でレフトが主だったゼラス・ウィーラー選手がファーストに戻ったり、丸佳浩選手が不調でスタメンから外れたりと予想外の出来事が続きまくった結果、松原選手はレフト、センター、ライトどのポジションでも出場しまくり。

 それでも打てなければ居続けるのは無理だったでしょうが、今日現在まで.270 10本塁打30打点OPS.764と普通に打撃力が成長しレギュラーを掴み続けるという、素直に尊敬しかない状況になってるわけです(笑)

 まったく期待されてないところから自力で這い上がり、名門大学出身でもなく雑に扱われても文句言えない立場だったのがいつの間にかレギュラーまで登り詰めたというストーリー性もあって、いつしか彼の虜になってしまいました。

 僕がしっかり「松原、好き…♥️」となったのは4月20日の阪神戦。その時巨人は負けていて、なんとなくつまらない雰囲気が漂ってたんですよ。

 しかし途中で出てきた廣岡選手が8球粘ると、続く1番の松原選手も7球粘って最後は凡退。


 凡退こそしたんですが、廣岡選手も含めてこの2人の粘りを見てたらなんだか泣けてきちゃいまして。

 というのも僕はこの時巨人というチームに絶望しておりました。2年連続で日本シリーズ4連敗。それを引きずっているかのような試合を4月中ずっとしていて、フラストレーションも溜まるし「意地見せてくれよ」と。

 その中で一軍が確約されていない2人が大敗の中でも必死になってなんとか食らいついてやろうという姿勢を見た時、僕はもう一度このチームを信じようという気持ちになれたんです。

 誇張でもなんでもなく本当にそうで、野球って勝ったり負けたりするスポーツですし相手がいて初めて成立するものですから、まあボコボコにやられる時もあってそれは仕方ない。

 でも僕らは決して好きなチーム、好きな選手達がファイティングポーズを崩すようなところだけは見たくないわけじゃないですか。

 精神論は僕あまり好きじゃないんですが、やはり負けていても立ち上がり続けてほしいし、その姿勢を見ることで僕らも応援できる。

 興行としての野球ってそういうものだと思うんです。

 だから僕は凄い選手より頑張ってる選手、諦めない選手の方が好きですし、もちろん凄い選手が頑張ってないわけではないですが真の意味での粘り強さ、諦めない心を見せてくれる選手にどうしても惹かれてしまう。

 それが僕の場合、松原選手だったんですよ。

 本当に彼は凄いと思いますね。育成ドラフト入団でも、一番淘汰されやすい左の外野手であっても、頑張っても補強選手が次々来るような環境であっても、彼は決して諦めない。

 常に少ないチャンスをモノにし続け、結果を出しスタメンを掴み取る。

 こんな選手巨人では久しく見ませんでしたし、本当に応援しがいがあります。

 もちろんまだまだ課題だってあるわけですが、そんなもんを補えるほど彼は魅力の詰まった選手だと思いますね。

 それに彼が一番良いと思うのは、今まで書いたすべてのものよりも魅力だと言えるのは頑丈だって事ですね(笑)

 やっぱ怪我しちゃうような選手はレギュラー掴めないので。これまで彼より才能があるように見えても怪我でチャンスをふいにしてきた選手もたくさんいた中で松原選手は怪我をせずに今日までいられた。

 それ自体が才能だと思いますし、怪我しない選手は首脳陣からも重宝されますわね。

 今年からの推しなのでまだユニフォームとかは買ってないのですが(笑)来年はユニフォームとワクチン接種証明でも持ってまた球場に通いつめたいと思います!

 今回は以上になります。優勝争いが少し厳しくなってはきましたが、引き続き松原選手の活躍を願い、そして規定打席に到達してもらいたいですね。そして来年以降も厳しい競争に勝ち続けてもらいたいです。

 最後まで読んでいただきありがとうございました!

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