アニメ『スーパーカブ』が予想以上に良い出来なので、原作のシーンと照らし合わせながら魅力を語ります
皆様、テレビアニメ『スーパーカブ』をご覧になっていますでしょうか?
現在4話まで放送されていて、今日の夜にも最新話の第5話が放送する『スーパーカブ』ですが、アニメファンの中でかなり評価が高いようで。
スーパーカブ
天涯孤独の女子高校生・小熊が一台の中古スーパーカブに出会ってから起こる小さくも実りある出来事を綴る作品なのですが、いやあ、まさかあんなアニメの出来が良いとは正直思っておりませんでした(笑)
元々原作が好きなもので、1ヶ月前、第1話が放送される直前にnoteで勝手にオススメ記事を書かせていただいたのですが。
オススメしたい春アニメ『スーパー・カブ』と、非ファンタジーラノベが好きなんですという話|二岡せきぬ
この時はまだアニメがどうなるかわからなかったので、「アニメが良ければ原作もお読みください」という内容に留めていたのですよ。
実際、原作は良くてもアニメの出来にガッカリしちゃった経験、皆様もおありかと思います。僕で言うと『イリヤの空、UFOの夏』という作品が昔からめちゃくちゃ好きでして、この作品が全6話構成のアニメになると決まった時凄く楽しみにしてたんですよ。
イリヤの空、UFOの夏(アニメ)
原作が全4巻のライトノベルでして、それが全6話でアニメ化するという時点で「ん?」って感じだったんですが(笑)悪い予感は当たりまして…。
細かな改変がとにかく酷かった(笑)
今回はアニメイリヤの悪口を語る話ではございませんので1つ2つだけかいつまんで説明しますが、ストーリーとしては主人公・浅羽直之の通う学校に伊里野加奈という女の子が転校してくる。しかし伊里野はとある事情から今まで一度も学校に通った事がなかったので、転校早々問題を起こして孤立しちゃうんです。
しかし浅羽は伊里野が転校する前日に偶然彼女と出会っていて、なんだか放っとけず自分の所属する新聞部に誘おうとするのですが、最終的には伊里野から入部届を手渡されるんですね。
原作ではその入部届が浅羽の下駄箱に入れられていて、ラブレターと勘違いした浅羽が1人になれる場所に行きドキドキで開ける。しかし中身は前述した通り入部届なのでがっくし脱力する…のですが、実は入部理由欄には、
浅羽がいるから
と書かれていると。でもそれを浅羽が目にするのではなく、「ちゃんと見ればいいのに。」という神の視点から読者だけが見れる作りになっていて、なんだかとても甘酸っぱいんですよ。
でもアニメはですね!今でもムカついているんで「!」を付けちゃうんですが!
浅羽が入部届を見るシーンでなんと…普通に「浅羽がいるから」まで見ちゃうんですよ!
…このやるせない気持ち、ちゃんと伝わってますかね(笑)まあ要するに原作ではこういった直接的な表現を避ける事によってストーリーから安っぽさを排除しているにも関わらず、アニメでは安っぽい演出をゴリゴリ入れちゃってると。
しかも6話構成なので原作の大事なシーンもカットカットの連続…と原作ファンからしたら完全に失敗しちゃってるわけです。
というようなケースもあるのでアニメ化といっても単純には喜べないわけですが、しかして『スーパーカブ』は良い意味で僕の予想を裏切ってくれました。
その主な理由がこちらになります。
・アニメ単体でも楽しめ、原作と合わせるともっと楽しめる上手い作りになっている
まずアニメを観た方ならわかっていただけると思うのですが、余計な演出が一切ないじゃないですか。
例えばラノベ原作のアニメにありがちなのが、合間合間に主人公の独白を入れて説明させる演出。ラノベって挿し絵はありますが基本文字だけなので、アニメにすると動きだけで説明するのが難しい。
だから主人公に説明をさせるのがダメだというわけではないのですが、ほどほどで良くてありすぎるとちょっとくどく感じてしまう。
その点『スーパーカブ』は小熊の感情の動きほとんどを絵だけで説明しきっていまして。
第1話で小熊がスーパーカブを買いに行くシーンがあるのですが、このシーンまでアニメの色彩が少しどんよりとしていたんです。
しかしスーパーカブに跨がった瞬間。
明らかに色が変わるわけですね。しかもこのシーン、BGMはたった一音のみで、小熊のセリフも「あっ…」くらいしかない。
それしかないんですけど、小熊の表情と背景の色で「この瞬間、何かが起こった」というのがわかるじゃないですか。僕このシーンを観た時思わず唸りましてね。これ凄いなと。
ちなみに原作ではこうなっていまして。
カブのシートに尻を乗せ、ハンドルを握り、センタースタンドで直立させられたカブの左右のステップに足を乗せた。
小熊の頬を風が撫でた。
停まってる原付。無風の天候。吹くはずもない風。これで本当に走ったらどんな気分なんだろう。
普通に心情を説明してるんですよ。
普通のアニメなら、ここで説明セリフを入れるかもっとわかりやすく演出するはずなんですよね。でもそれをせず敢えて地味でセリフのない、小熊の顔だけで表現する方法を取った事で、逆にこのシーンがくっきり印象に残るようになってるんですよね。
こういうシーンが『スーパーカブ』にはいくつもあるんですよ。
例えば3話で小熊がゴーグルを買いに行くシーンがあるのですが、買って装着した後に小熊がバイクのミラーで確認する場面があるんです。
可愛すぎませんか(笑)
でまあ可愛いのもあるんですが、この鏡を見るだけの下りで小熊のゴーグルを買ったウキウキ感や彼女の世界が充実していく様子を描ききっているんですよね。
原作ではホームセンターの鏡で確認しているのでアニメオリジナルといえばオリジナルなのですが、そんなの些細な事なので気になりませんしアニメでやるならこちらの方が画になると思うので、上手い改変だなと。
でこういう動きで見せる演出に合わせてアニメの魅力がもう1つありましてですね。
・原作では見れなかった小熊の表情が可愛くて面白い
顕著なのが2話でして、2話で小熊と友達になる礼子というキャラクターが出てくるのですが、カブに乗っている事をクラスメイトに何気なく話していたのを聞いた礼子が「後で見せてくれるかしら?」と言ってくる。
今まで友達付き合いのなかった小熊は「授業、終わった後なら」と言いつつ、放課後になるとトンズラかこうとするんですよ(笑)
しかし階段を下りたところでヘルメットバッグを置き忘れた事に気付き、取りに戻ろうとしたところで礼子と鉢合わせるシーンがあるのですが、原作だとわりとサラッと書かれていまして。
そこで小熊は、今日作った巾着のヘルメットバッグを教室に置き忘れたことに気付いた。
自分が焦って教室から逃げ出してきたことを半ば忘れ、廊下を引き返そうとした小熊は後ろを振り返る。
「はいこれ。忘れ物よ」
小熊のすぐ後ろには、オリーブグリーンのヘルメットバッグを持った礼子が立っていた。
これだけ読むと、小熊の感情の動きって特にないじゃないですか。
でも同じシーンがアニメだと。
情けな可愛くないですか(笑)
つまり原作を読んでいるファンだと、このシーンで気付くわけです。「小熊、こんな情けない顔してたのか」。
あとこの翌日礼子に昼御飯に誘われるシーンがありまして、小熊は不意打ち気味に誘われるのですが、原作だとこうなってます。
迷いない足音が近づいてくる。小熊の前に立った礼子は言った。
「じゃ、食べに行こうか?」
突然の言葉に困惑する小熊の腕を取る礼子。慌てて自分の弁当と箸を持った小熊を、礼子は教室の外に連れていった。
このシーンがアニメだとこうなります。
最後のカットこれですからね(笑)
というように、原作ではあっさりめに書いている分クールな印象を持つ小熊なのですが、アニメの小熊の顔って意外にもコミカルなんですよ。こういう違いを楽しめるのも良い。
極めつけは4話、ずぶ濡れになった小熊の顔です。
見てくださいこの情けなさすぎる顔(笑)
おそらくアニメのスタッフさん達がかなり研究したんでしょうね。小熊の状況状況での表情が本当に素晴らしくてたまりません。
やっぱ原作読んでると、少し解釈的にダメなとこがあると気になっちゃうじゃないですか。最初に紹介したイリヤでもそうなんですが、ラノベ原作のアニメって結構アニメスタッフが原作を勉強してないのがわかっちゃうんですよ。
という意味ではアニメ『スーパーカブ』は誰よりも原作を、小熊というキャラクターを研究しているのがわかりますし、僕の解釈の上を行く表現を連発してくれて非常に満足なんですわ。
更に小熊役の声優である夜道雪さんの演技も素晴らしいですね。彼女は本業声優ではなくYouTuberのようで、最初キャスティングを見た時には正直心配だったのですが(笑)これがまあ実際聴いてみると意外にも小熊とマッチしておりまして、素朴であり素人っぽさを全然感じない。
絵から声から小熊というキャラクターの表現が完璧で、よくぞここまでやってくれたなって思います。
今季のアニメなのでdアニメストアはじめ配信サイトを登録している方なら観れると思いますし、まだ観てないよという方も是非1度ご覧になってください。
よほどファンタシーものしか興味ないという方でなければ損はしないと思います。
今回は以上になります。最後まで読んでいただきありがとうございました。アニメの紹介を書きたくてnoteを始めたようなものなので、野球やvtuberの記事と比べるとどうしても伸びないわけですが書くと物凄く気持ちいいですし、やたら達成感があります(笑)
良ければ♥などを押していただければありがたいです。それではまた、お会いしましょう。
追記
5話『礼子』の1場面。
何気ないシーンだったのですが、このアニメを象徴するようなシーンがあったので追記として残しておきます。
それがこの場面なのですが。
礼子がカブでの富士山登頂失敗から帰ってきた夜、泊まり込んで真面目な顔で礼子と話している小熊なんですが。
この小熊…可愛くないですか(笑)
めちゃくちゃ真面目な顔をしているのにも関わらず、寝袋にすっぽり収まっていて少し間抜けな感じになっている。そのギャップがとても愛おしく映るわけですが。
このシーン、原作では「寝袋にくるまっている」以外の表現がないんですよ。
で先程書いたように、原作ではどのシーンでも小熊を可愛らしく表現してはいないんですね。むしろ原作だけだとクールなイメージを受けるんです。要するにですね…。
小熊が「かわいらしい」というのは半ばアニメオリジナルなんすよ。
ここがこのアニメの素晴らしさだと思っていて、アニメスタッフによる小熊の再解釈が行われている証拠なんですね。
それに加えて原作ではできないアニメ独自の表現をちゃんとやりきっているという事でもあるんです。どういう事かと申しますと。
原作はライトノベルなのですが、小説という文字だけでしか表現できない媒体ではアニメのような小熊のリアクションを逐一書こうとするとどうしても邪魔になっちゃうんですよ。アニメのように画で一発で頭の中に入ってくるならともかく、読んだ文字を一回自分で想像しないといけないので、どちらかといえば行動を描写するより心理描写で読者に伝えた方がよほど伝わりやすい。
なぜこう思うかと言うと、僕も一応10年くらいワナビをやっていたもので(笑)リアクションを大袈裟に描写しようとして失敗したのを何十回も経験済みなんです(笑)まあダメな経験なんですが。
一方でアニメでは小説のような文字、セリフでの説明をやりすぎてはダメなんですね。本来画で説明しきれているものをわざわざセリフで補足しまくられたらくどいじゃないですか。
もちろん要らないわけではないので、5話のように説明しないと伝わらなそうな話では積極的に入れる必要はあると思うのですが、なんでもかんでも入れりゃあ良いってもんではない。
つまりアニメ『スーパーカブ』では、極力セリフではなくキャラクターの行動や画で見せる努力をしていて、それがちゃんと実っている。だからこそ「真面目な顔をして寝袋にくるまる小熊」がかわいらしく、愛おしく描けているんだと思います。
以上追記でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?