【ガストロノミー】江川亜蘭誕生日 記念Short Story:ヒミツのShangri-La
このお話は【ガストロノミー】のある日のサイドストーリー、ヒロイン目線のお話です。
※アプリゲーム内ガチャシナリオをアレンジして再掲載です(アプリは現在サービス終了しています)。
ヒミツのShangri-La
今夜は亜蘭さんと中国料理店で夕食。
まるまると太った北京ダックを中心に、豪華絢爛と言った風情の料理の数々が並ぶ。
亜蘭「どうした? 食べないのか」
あなた「本格的な中華料理なんて初めてなので目移りしてしまって。盛り付けがとてもきれいですね」
亜蘭「北京料理は元々宮廷料理だったからな。他の地方料理に比べると見栄えの良さも重視される」
あなた「あの、中華料理ってひとつじゃないんですか?」
亜蘭「北京、広東、上海、四川……さまざまだ。ちなみにこの店は中華料理ではなく中国料理」
あなた「あの、中華料理と中国料理ではいったいどう違うんですか?」
亜蘭「中華料理は中国料理を日本流にしたもの。中国料理は中国本場の料理……解説していると長くなる。料理が冷めないうちに食べたまえ」
あなた「はい。頂きます」
亜蘭「おっと、円卓の回し方が逆だ」
あなた「えっ」
亜蘭「基本的に時計回り。それに取り皿も持ち上げてはいけない。日本人の癖だから仕方ないが、取り皿を持ち上げて食べる和食は世界から見れば稀らしい」
あなた「そうだったんですか……ごめんなさい、無知で……」
亜蘭「気にしなくてもいい。誰にでも初めてはあるのだから。……ほら、そんな顔してないでこれでもお食べ」
亜蘭さんは笑って蒸しパンのようなものを半分に割った。
それを口元に持ってこられて、私はおずおずと口を開けた。
あなた「わわ、ほんのり甘くて、ふわふわです」
亜蘭「饅頭(マントウ)だよ。中国料理のパンみたいなものかな」
あなた「これは手づかみで頂いて良いんでしょうか?」
亜蘭「ああ……とはいえ、私の手からお前の口に饅頭を運ぶことはマナー以前の問題だがな」
あなた「亜蘭さん、もう自分で食べますから大丈夫ですよ」
亜蘭「いや。お前の肩の力が抜けるまで食べさせてあげよう」
あなた「……け、結構です」
亜蘭「他のマナーを教えるついでだ。椅子をもっと近づけようか。幸いここは個室だし」
あなた(……いたずらっ子みたいな顔をする時の亜蘭さんって、止まらないのよね……)
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それから私は亜蘭さんにマナーを教わりながら料理を味わっていった。
水餃子もおすすめだと亜蘭さんが言うので、レンゲを手にとる。
あなた「そういえば、レンゲの使い方も決まっているんですか?」
亜蘭「ああ。人差し指を溝の中に入れ、柄の部分を親指と中指ではさむように持ってごらん」
あなた「こうですか?」
亜蘭「いや、こうだ」
亜蘭さんの掌が私の手に添えられ、そのまま耳元で説明された。
亜蘭「スープを飲むときはそのまま右手で飲めばいい。汁物の時は箸を右手、レンゲを左手に……」
あなた(み、耳に吐息が……)
亜蘭「聞いているか?」
あなた「す、すみません……亜蘭さん、言葉で教えて頂ければ分かりますから、その、手を離していただけると」
亜蘭「お前の手は震えてるから、このまま離せばレンゲを落とすだろう」
あなた「……っ」
ちゅっと耳元にキスをされたかと思うと、耳朶を甘噛みされ、そこから熱が広がってしまう。
亜蘭「ふ。緊張をほぐしてやろうとおもったが、余計力が入ったみたいだな。耳が真っ赤だ」
あなた「亜蘭さんのせいです……」
亜蘭「かわいいことを言う」
亜蘭さんのもう一方の手が頬に添えられ、ふいにくちびるを引き寄せられた。
しかしその瞬間、コンコンとドアを叩く音がする。
店員「点心をお持ちしました」
亜蘭「……間の悪い」
あなた「そ、そんなこと仰らず……美味しそうですよ、杏仁豆腐。それに、こちらの焼き菓子も……」
亜蘭「それはフォーチュンクッキーだ。中におみくじのような紙が入っていて、それで運勢を占ったりする」
あなた「へえ、面白いですね。さっそく開けてみましょうか」
そして、ふたりでクッキーを割ってみると……。
あなた「『You learn something new』」
亜蘭「新たに何かを知る事が出来るでしょう……か。当たってるな」
あなた「本当。中国料理のテーブルマナーのことですね。亜蘭さんは?」
亜蘭「『You become something of a mentor』」
あなた「良き指導者となるでしょう……凄い! ふたりともぴったりです」
亜蘭「そのようだ」
すると、何を思ったか、亜蘭さんは後片付けをしていた店員さんにこそこそと耳打ちする。
心得たように頷いた店員さんは、扉を重々しく閉めて去ってしまった。
あなた「あの、亜蘭さん、聞き違いかもしれないんですが、人払いって聞こえたような」
亜蘭「ああ。そう言った。しばらく誰もこの部屋に近づけないように、と」
あなた「ど、どうしてですか」
亜蘭「知っているか? フォーチューンクッキーの占いで、アメリカ人がよくやる遊びがあるんだ」
私の問いに、問いで返されてしまったが、素直に首を横にふる。
亜蘭「簡単な遊びだよ。ここに書いてある英語の語尾に、『in bed』を追加してみたまえ」
あなた「え?」
亜蘭「つまり、お前は『ベッドの中で、新たに何かを知る事が出来るでしょう』。私は『ベッドの中で良き指導者となるでしょう』」
あなた「……っ!?」
亜蘭「まあ、ベッドの中じゃなくて、店の中だがな」
驚く私に構わず、彼は私のくちびるをあっという間に奪った。
あなた「こ、こんなところで……」
亜蘭「大丈夫だ。そのために人払いをしたんだからな。誰も寄り付きはしない」
私を甘やかに見つめ、彼は恐ろしく楽しそうに微笑んだのだった――。
END
シナリオ:NINOYA
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