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【ガストロノミー】緑川十影誕生日 記念Short Story:Wine of vice


このお話は【ガストロノミー】のある日のサイドストーリー、ヒロイン目線のお話です。
※アプリゲーム内ガチャシナリオの後半部分を改変、書下ろしています(アプリは現在サービス終了しています)。

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<アプリシナリオ>


Wine of vice



十影さんの行きつけのバーに誘われた。
店内は薄暗く、漂う大人の雰囲気に少しだけ緊張する。

マスター「いらっしゃいませ。……なんだ、十影か」

緑川十影「俺で悪かったな。……おい、これがさっき話していたマスターだ」

あなた「初めまして」

マスター「どうぞよろしく。なるほど、君が十影の……。噂はかねがね」

あなた「え?」

緑川十影「話は後だ。さっさと客をもてなせ」

マスター「ああ。いつものでいいか」

マスターがバーカウンターの奥へ行っている間に、十影さんに訊ねる。

あなた「マスターさんと仲が良いのですね」

緑川十影「子供時代からの付き合いだ。ここは良いワインが多いから仲良くしてる。亜蘭といい、持つべきものは美味いものを提供してくれる友だな」

あなた「またそんなこと仰って」

緑川十影「実はお前を紹介しろとしつこく言われてな。本当は会わせたくなかったんだが」

あなた「え。どうしてです?」

マスター「そりゃ、俺が寂しい独身男だからですよ」

いつのまにかカウンター越しに立っていたマスターが、ふたつのグラスに注いだ白ワインを手元に差し出してくれる。

マスター「友達だからって男には変わりない。ましてやこんな美人なら。どうぞよろしく。次からは一人で来てください。お代はいりませんから」

緑川十影「おい。あまり馴れ馴れしくするな」

マスター「はは。そこまでお前が女にベタ惚れなのは珍しい。だから、どうしても会ってみたかったんだよ」

緑川十影私怒「……ちっ。お前が酒屋の倅じゃなかったら紹介してやる義理はないのに」

あなた(十影さん、否定しないでくれたわ……『ベタ惚れ』って……)

緑川十影「おい、肉子。何、赤くなってる」

あなた「い、いえ」

緑川十影「酔うなら、飲んでからにしろ」

ほのかな嬉しさを胸に、白ワインで乾杯した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

時間も遅いし他の客もハケたからとマスターはバーを閉め、美味しいワインと料理でもてなしてくれる。

マスター「十影、彼女にアノ話はしたのか」

十影「いや、していない」

あなた「アノ話ってなんですか?」

マスター「おいおい、アノ話はしておいたほうがいいぜ」

十影「……」

十影さんは渋い顔になる。

マスター「なんせ前科が」

十影「おい、よせ」

あなた「前科!?」

十影「その話はいいって」

あなた「十影さんに前科があるだなんて……。さすがにそれはないと思っていましたけど、やっぱりあったんですね……」

十影「前科はない!」

マスター「あはははは!!十影、やっぱりお前、信用ないのな」

十影「笑い事じゃない。わざときわどい物言いしやがって」

マスター「十影のご面相じゃ前科のひとつやふたつありそうだからな」

あなた「あの」

マスター「ほら、彼女にもアノ話をしてやりなよ。俺とお前が知り合ったキッカケを」

あなた「ぜひお願いします」

十影「太平洋戦争中、俺はまだ小学生でな。空襲が激しくなってきたから、親が長野の親戚のところへ預けたんだよ。その時、この男も東京から長野に疎開してきていた」

マスター「東京から来た子供は地元の子供らにイジメられていたから、すぐ仲良くなったんだよな」

あなた「十影さんがイジメにあっていたんですか!?」

十影「いちいち驚くな。面と向かってケンカを売られるなら取っ組み合いするだけだが、遠巻きにされてヒソヒソやられるのは子供心に辛くてな。それで親戚がやっていたブドウ園でブドウの世話に没頭していた」

あなた(確かに陰で噂されるだけというのは十影さんにとって一番克服しにくい状況かもしれないわ)

十影「ブドウを収穫したら次にやりたくなるのは何だ?」

あなた「食べる」

十影「食べても食べても減らない。なんせ売るほどあるんだから」

あなた「うーん、お菓子に使うとか?」

十影「酒にするだろう」

あなた「小学生ですよね?」

十影「俺も最初は干しブドウにしてみたり、絞ってジュースにしてみたりだった。だが、そこにコイツが現れた」

マスター「俺が預けられていたのは酒蔵でね。発酵の知識も材料も道具もあった」

あなた「なるほど」

十影「俺たちは友達になったその日から運命に導かれてワイン造りを始めたんだ」

マスター「逆だ。ワイン造りをするために知り合ったんだ」

十影「とはいえ試行錯誤の繰り返しでな。最初に成功したワインは五合ほどだった」

マスター「でも、大人たちは大喜びで飲んだよ。俺たちは駄賃をもらった」

十影「熟成も何もしていないから、今飲んだら美味しくはないだろう。だが当時、近隣でワインを作っているところはなかったし、酒自体が貴重だった。ブドウ園の男衆は大喜びで俺たちに手を貸してくれて、とうとう樽一杯のワインを作ることにした」

あなた「はあ」

十影「けどある日、警察が踏み込んできた」

あなた「密造酒ですものね。それで逮捕されてしまったのですか?」

十影「連行されそうになったんだが、樽の中身を警察官が飲んだ瞬間、吐き出されてな……」

あなた「まだ発酵途中だったんですか?」

十影「逆だ。発酵が進みすぎた上に雑菌が混じって酢になっていたんだ」

あなた「まあ!」

マスター「酒じゃなくて酢を作っていたということで、俺たちは無罪放免。周囲の大人たちにもおとがめなし」

あなた「それは不幸中の幸いでしたね」

マスター「けど、そこで俺たちはこれの良さに気付いた」

彼はそう言って私たちの前に”Wine Vinegar”と書かれた瓶を置いた。

十影「ということは、そろそろアレが出てくるんだな?」

マスター「はい、どうぞ。白ワインが何杯でも進む、イカのワインビネガー煮だ。十影、少し早いが誕生日おめでとう。そして婚約おめでとう」


END

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