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着床前診断と出生前診断の違いとは

医療・検査技術の進歩などにより選択肢が提示されるようになったため、高齢出産などの理由から、生まれてくるお子さんの病気や障害を前もって検査するという選択をするご夫婦が増えています。 

生まれる前のお子さんの遺伝子を調べる方法には、着床前診断と出生前診断の2種類があります。 

それぞれの診断方法の違いや検査方法、またリスクについても正しくご理解いただくためのポイントをまとめてみました。 

着床前診断と出生前診断の違い 

着床前診断と出生前診断の違いは、検査のタイミングと検査対象です。 

着床前診断では、体外受精で得られた受精卵が胚になるまで育てて、胚から取り出した一部の細胞の染色体や遺伝子を調べます。 

一方、出生前診断では、妊娠後に検査を行います。子宮内の胎児の染色体・遺伝子を検査します。 

着床前診断とは 

着床前診断は、体外受精で得られた受精卵(胚)の検査です。 

検査対象は、子宮に戻される前の胚の染色体と遺伝子です。 

着床前診断では、胚が持つ染色体の数・構造の異常、また重い病気にかかわる遺伝子変異の有無を調べます。 

検査によって、流産などが起こる可能性の高い染色体異常や、重篤な遺伝性疾患を引き起こす変異が見つかった場合には、対応について慎重な検討が行われます。 

実施にあたっては遺伝カウンセリングが必要となることから、日本では2022年5月現在、認可施設として承認された医療機関において、条件を満たす患者さんのみを対象に実施されています。 

着床前診断の種類について 

着床前診断には3種類の検査があり、それぞれ検査対象などが異なります。 

詳しい内容をみていきましょう。 

先述の通り、以下の3つの検査はいずれも体外受精で得られた受精卵(胚)の染色体・遺伝子の情報を調べる検査です。 

胚の外側(胎盤へと成長していく部分)から細胞をいくつか採取し遺伝情報を解析する、という検査手法は共通しています。 

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査) 

PGT-Aは、胚の染色体の数を調べる検査です。 

検査の主な目的は流産の回避です。 

染色体数にエラーを持つ胚は、出産まで妊娠を継続する力がない場合が多く、流産してしまう可能性が高いことが分かっています。 

そのため、下記の状況があてはまる方はPGT-A検査の対象となります。 

  • 体外受精において2回以上続けて胚移植が成功しなかった方 

  • 流産や死産を2回以上繰り返した方 

PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査) 

PGT-SRは、胚の染色体の形を調べる方法です。 

染色体はその一部が入れ替わったり、消失したり、過剰になることがあり、それが受精卵に引き継がれた場合は流産の原因となります。 

染色体の一部が相互に入れ替わったり反転している場合、ご本人の遺伝子の機能には問題が起こらないことが多く、生活への支障はありません。しかし、お子さんを持とうとしたときに、流死産を繰り返してしまうことがあります。 

下記の状況があてはまる方はPGT-SR検査の対象となります。 

  • ご夫婦のいずれかに染色体構造異常が確認されている不育症・不妊症のご夫婦 

PGT-M(着床前単一遺伝子疾患検査) 

PGT-Mは、重篤な遺伝性疾患を対象とした検査です。  

お子さんが重い遺伝性疾患をもって生まれてくる可能性のあるご夫婦のみを対象としています。 

  • ご夫婦のいずれかが、重篤な遺伝性疾患がお子さんに引き継がれてしまう可能性のある遺伝子変異を保因するとき 

日常生活を強く損なう症状が出たり、生存が危ぶまれる疾患であるにも関わらず、有効な治療法がない、もしくは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要がある場合には、適応となる可能性があります。 

適応の可否についは日本産科婦人科学会によって審査が行われます。 

出生前診断とは 

出生前診断は、妊娠成立後に行う検査です。 

妊娠中の胎児の発育状況を観察したり、染色体や遺伝子の情報をもとに胎児の状態を把握し、分娩方法・治療法・療育環境について適切に検討することを目的として実施されます。 

生まれてくるお子さんに対してどのようなケアが必要とされるのか、患者さんへの正確かつ適切な情報提供が求められるため、実施にあたってはガイドラインに規定された指針にもとづいて慎重な審査が行われます。 

出生前診断の種類について 

出生前診断には超音波(エコー)検査としてよく知られる画像検査と、お子さんの染色体や遺伝子の状態を確認するための検査があります。 

超音波(エコー)検査は、お子さんの身体つきや臓器に、病気が疑われる症状が表れていないかを確認するための検査です。体の表面に機械をあて、超音波を用いておなかの中の赤ちゃんの様子を三次元画像として観察します。 

一方、遺伝学的検査では染色体や遺伝子の情報から、お子さんの疾患の状態を確認します。出生前遺伝学的検査には、検査によって診断を確定できるものと、そうでないものがあります。 

各検査の特徴と、検査方法を以下でご紹介していきます。 

確定的検査 

検査の結果に基づいて疾患の診断を確定することができる検査を確定的検査といいます。 

出生前診断の確定的検査には後述する2種類の検査がありますが、それらはどちらも胎児のDNAを直接検査する手法です。侵襲性が高く母体に負担のかかる検査であるため、わずかですが破水や流産、感染症などのリスクがあります。 

また、胎児の染色体疾患を高精度に判定することができますが、検査技術には限界があり、まれに正しい結果が得られない場合もあることを理解する必要があります。 

染色体の変化および特定の遺伝子の変異に起因する疾患以外は調べることができません。 

染色体に変化を持つ胚・胎児が出産まで成長を続けられる確率は決して高くありませんが、21・18・13番染色体の数の変化、また性染色体の構造の変化については出産に至る例も少なくなくありません。 

これらの染色体の変化が引き起こす病症には以下のものがあります。 

  • ダウン症候群 

  • エドワーズ症候群

  • パトウ症候群

出生前診断の確定的検査には以下の二つの検査があります。 

羊水検査 

羊水検査は妊娠15週以降に実施可能な検査です。 

子宮内から取り出した羊水に含まれる胎児由来の細胞を検査することで、染色体の形・数の変化、特定の遺伝性疾患の有無を調べます。 

羊水検査は検体の採取から検査結果が判明するまで、2〜3週間かかることが一般的です。 

絨毛検査 

絨毛検査は、施設によっては妊娠9週頃から、一般的には11~14週前後の頃に実施される検査です。 

絨毛とは妊娠早期における胎盤のことで、胎児由来の細胞が含まれる絨毛組織を調べることにより、胎児の染色体の形・数の変化、遺伝性疾患の有無を調べます。 

検体の採取から診断結果が出るまでには、平均2~3週間かかります。 

非確定的検査 

出生前診断のうち、検査の結果だけでは診断を確定することができないものを非確定的検査といいます。 

非確定的検査は、お母さんの血液に含まれる胎児のホルモンやたんぱく質、DNAなどを調べる検査です。 

採血のみで実施できるため侵襲性が低く、母体・胎児への負担はとても少ないとされていますが、あくまでも胎児が疾患をもつ可能性を評価するための検査であり、診断を確定させるものではありません。非確定的検査で陽性が出た場合は、確定的検査に進んで診断を受けるのが一般的です。 

染色体・遺伝子を調べる出生前診断のうち、非確定的検査は以下の3種類です。 

  • 新型出生前診断(NIPT) 9~16週頃 
    母体血中の胎児のDNAを調べることで、胎児が染色体の変化や遺伝子の変異を持つ可能性を確認する方法 

  • コンバインド検査 11~13週頃 
    超音波検査と採血による母体血清マーカー(PAPP-A, hCG)計測を組み合わせた方法 

  • 母体血清マーカー検査 15~18週頃 
    母体血に含まれる胎児由来のたんぱく質(AFP, uE3, hCG, InhibinA)を計測することで、胎児が染色体の変化やその他の疾患を持つ可能性を確認する方法 

冒頭でご紹介した超音波(エコー)検査も、非確定的検査に分類されます。 

染色体について 

染色体は細胞の核の中に存在する構造体です。DNAがコンパクトに折りたたまれ収納されています。 

人間の細胞一つの中には23対46本の染色体があり、そのうちの22対は常染色体、性別の決定に関わる残り1対の染色体は性染色体とよばれます。 

子供の染色体は、1対2本の染色体のうち1本は父親から、もう1本は母親からという風に、父母の染色体のペアで構成されます。しかし、親から子へと染色体が受け継がれる際、稀にエラーが起こることがあるのです。 

例えば、どちらか片方の染色体を2本まとめて受け継いでしまった場合には、ほとんどの方が通常2本持つ染色体が3本になる「トリソミー」という状態が起こります。その他にも、染色体の一部または全体が本来とは違う場所にくっついたり、欠けてしまったりすることもあります。 

染色体に重複・欠失を持つ卵は着床できない、または妊娠早期に流産してしまうことが多いため、不妊治療の体外受精で流産を繰り返してしまった場合などには、着床前診断(PGT-A/PGT-SR)によって着床率の向上を目指すことができます。 

お子さんに重篤な遺伝性疾患が引き継がれる可能性が高いことがすでに分かっているご夫婦も、着床前診断(PGT-M)を検討することができます。 

一方、染色体の変化や遺伝子の変異を持ちながらも、出産まで成長を続けてくれた場合には、出生前診断でお子さんの状態を事前に把握しておくことで、その後の対応に備えることが可能となりま

着床前診断と出生前診断、そのどちらにおいても、検査を受ける際にはさまざまな意思決定が伴います。検査によって得られる選択肢や疾患に関する知識、また支援体制等について、十分な情報提供を受け納得のいく決断を行えるよう、検査にあたっては臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーとよくご相談ください。


患者さんからのご質問も受け付けています。
どうぞお気軽にお声がけください。


監修
池田 真理子 先生
藤田医科大学病院 臨床遺伝科 准教授
藤田医科大学病院 臨床遺伝科科長 病院准教授|人類遺伝学会臨床遺伝専門医・指導医・評議員|日本小児科学会専門医・指導医|日本小児神経学会専門医・評議員|日本遺伝カウンセリング学会・評議員|身体障害者指定医|産科医療補償制度診断協力医|小児科学会認定 出生前コンサルタント小児科医


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