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文章を読む練習

はじめに

 この記事では、文章、特に論説文を読んで理解する方法について考察します。そして、その練習として、丁度いい長さの論説文である共通テスト国語の過去問題を読んでみようと思います。

1. 文章を読んで理解するということ

・論説文の目的

 論説文を書く目的は、筆者独自の主張によって読者の認識を覆すことです。誰もがわかっていることや、意味が定まっている知識をそのまま伝えることには、論説文としての価値はありません。また、独自の主張が十分な根拠に支えられていなければ、読者の認識を覆すことはできません。読者の認識に比べて筆者独自の主張が優位であるということを示すための論証を行う必要があります。

 例えば、令和2年度共通テスト本試験の国語 第1問で出題された、河野哲也『境界の現象学』の一部を見てみましょう。ここでは「レジリエンス」という概念が説明されていますが、筆者が伝えたいのは「レジリエンス」という言葉の辞書的な意味ではありません。「レジリエンス」について読者が持っているであろう認識=辞書的な意味だけでは捉えることのできない、「レジリエンス」の本質的な意義を伝えているところに、この文章のオリジナリティがあります。そして、現代において様々な分野で「レジリエンス」が使われている実例を挙げながら、筆者が言うところのレジリエンスの本質的な意義の正しさを裏付けているのです。

 文章を読む際には、この「読者の認識」に対する「筆者独自の主張」が何であるか、その主張をどのように裏付けているのかを理解することが肝となります。

・文章はあなたに向けて書かれたわけではない

 ここで、論説文において覆されるべき「読者の認識」について掘り下げて考えてみます。

 論説文は不特定多数の人に向けて書くという性質上、文章を読む人がどのような知識・考え方を持っているのかを筆者があらかじめ知ることはできません。筆者独自の主張によって読者の認識を覆すことが書くことの目的だと言っておきながら、その読者がどんな人なのかわからないというのは、一見すると矛盾しています。そしてその矛盾が論説文の持つ性質に関わっていると、私は考えます。

 つまり、筆者は論説文を書くにあたり、ある一定の知識・考え方を持った読者像を仮想的に設定して、その仮想的な読者の認識を覆すような論証を行っているのです。当然ながら、「仮想的な読者」と「あなた」が完全に一致することは、普通はありません。したがって、筆者の書いていることを受け入れ、理解するためには、あなた自身の持つ認識から一旦離れて、「筆者が想定する仮想的な読者はどのような認識を持っているのか」を読み取ることが必要になります。

・自分の意見を持たなくていいのか?

 この記事を書いているときに、タイムリーにこんな動画がアップロードされました。


※「ゆる言語学ラジオ」という、言語学の世界をゆるく楽しく語るチャンネルのサブチャンネル「ゆるコンピュータ科学ラジオ」の雑談回です。

 動画では、外山滋比古『異本論』を引き、本を読んで解釈した瞬間に「異本」(原点と異なる本をこう読んでいる)が生まれる。つまり、読書とは異本を生み出すことである。という主張から、「誤読」(原典には書いていない、読者による勝手な解釈)こそが読書の本質であると述べています。

 この「異本」が生まれる原因は、まさに「仮想の読者」と「実際の読者」が完全に一致することはないというところにあるのではないでしょうか。知識や思想の違いによって、読者の数だけ解釈が生まれうるということになります。

 動画内でも指摘されているように、文章に書いてあることをそのまま解釈すること(読解と呼ぶことにします)と、あなたなりの認識において原文に対してある種の「翻訳」を行い、解釈すること(動画内で読書と呼ばれているものです)は、全く別の行為であるといえます。その違いは、「仮想的な読者」として読むのか、「あなた自身」として読むのかにあります。

本記事は、「読書」の価値を否定するものではありません。読解においては読書とは異なる観点が必要であるから、読解ができるようになるための訓練をしよう、という趣旨です。

2. 文章の読み方 浅読みと深読み

 1の議論を踏まえて、文章を読解する方法について考えてみます。ここでは浅読みと深読みという2ステップに分けて文章を読む方法を提案します。

・浅読み
 文章の概略を押さえるために、全体をざっくりと読みます。
①主題
 何について書かれた文なのかを把握します。
②仮想的な読者の認識と筆者の主張
 筆者が想定している仮想的な読者像を読み取ります。「〇〇だと思うかもしれないが、むしろ△△だ。」のように、文中に明示されている場合もあります。この場合〇〇が仮想的な読者の認識、△△が筆者の主張ということになります。
③主張の示し方(概要)
 筆者が②の主張をどのような方針で示そうとしているのかを大まかに捉えます。

・深読み
 
浅読みで把握した②の主張を検証するため、文章を注意深く、批判的に読みます。③の方針に則って自説の優位性を正しく示すことができたのか、根拠が足りているのかを確認します。批判的にと言いましたが、もちろんこのときあなた自身の知識・思想に基づいて検証してはいけません。仮想的な読者の認識と比較することを忘れないようにしましょう。

3. 実践

 2で述べた上記読解法の実践として、大学入試共通テストの過去問題から、国語第1問で出題されている文章を読んでみようと思います。

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