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文章を読む練習① 令和3年度共通テスト国語 第1問

前記事の実践編です。

香川雅信『江戸の妖怪革命』

1. 浅読み

①主題

近世において、フィクションとしての妖怪、とりわけ娯楽の対象としての妖怪が生まれた経緯

②仮想的な読者認識と筆者の主張

仮想的な読者の認識:近世において妖怪はリアルであり恐るべきものであったが、近代においては合理的思考によってその恐怖は消し去られた。

筆者の主張:妖怪が恐れられていたのは中世のことである。近世において妖怪とは「表象」としてリアリティから切り離された存在であったが、近代になってリアリティに回帰した。

③主張の示し方

フーコーの「アルケオロジー」を援用して、近世における妖怪観の変容を記述する

2. 深読み

1段落目 問いの提起 フィクションや娯楽としての妖怪はどのようにして生まれたのか。

2-3段落目 問いの説明 妖怪は昔から存在したが、それがフィクションや娯楽の対象になったのは近世中期ごろのことであり、フィクションとしての妖怪は歴史性を帯びたものである。民間伝承としての妖怪(≠フィクションとしての妖怪)はリアリティを帯びた存在であった。因果了解では説明のつかない現象への不安や恐怖に対処するために、人間が必要に駆られて作り出した文化的装置が妖怪のはじまりだった。

4段落目 問いの再提起 妖怪がリアリティを帯びた存在である限り、それはフィクションとして楽しむ対象にはなりえない。フィクションとしての妖怪が生まれるまでには、妖怪に対する認識の根本的な変容があったはずだ。

5-6段落目 議論の方針を示す 4段落目の根本的な変容とは何だったのか。それを「妖怪娯楽」の具体的な事例を通して探る。その際にフーコーの「アルケオロジー」の手法を援用する。

7-8段落目 用語の説明 アルケオロジーとは、エピステーメー(知)の変容として歴史を描き出す試みのことである。人は事物を直接認識しているのではなく、関係性を打ち立てる枠組みを通して認識している。この枠組みがエピステーメーであり、それは時代とともに変容する。つまり事物に対する認識はエピステーメーの変容に伴って大きく変貌するのだ。フーコーはエピステーメーの変貌を、「物」「言葉」「記号」「人間」の関係性の再編成として描き出した。

9段落目 議論の方針を示す このフーコー流のアルケオロジーを使って、「日本の妖怪観」の変容を記述する。つまり「物」「言葉」「記号」「人間」の関係性の再編成として記述する。これによって日本の妖怪観の議論を大きな文化史的変動の中でとらえることができるようになる。

※読みづらい文だが、日本の妖怪観の変容をエピステーメーの変貌ととらえてアルケオロジールケオロジーする、つまり中世〜近代における日本の妖怪観の変化と、その時代の「物」「言葉」「記号」「人間」の関係性の再編成を対応付けて記述する、と言っている。

11段落目 中世の妖怪観 妖怪は凶兆や警告などの心霊からの「言葉」を伝える役割を持った「記号」であった。人間はその記号を読み取ることしかできなかった。

12段落目 近世における妖怪観 人間が物そのものを認識するようになった(たとえば本草学など)ことにより、物が「言葉」や「記号」から切り離して考えられるようになった。その結果妖怪という「物」への関心が生まれ始めたことで、妖怪は嗜好の対象になり始めた。

13段落目 「記号」のあり方の変容、新しい単語「表象」の導入 中世においてかつて所与のもの、読み取ることしかできないものであった記号は、今や人間が作り出すことができるものになった(何故?)。つまり記号は人間の完全なコントロール下に入った。これを「記号」と区別して「表象」と呼ぶ。

14段落目 「表象」の説明 表象にとっては、意味よりも形象性や視覚的側面が重要な役割を果たす。現代におけるキャラクターである。中世における妖怪の表象化は、妖怪のキャラクター化とも呼べる。この表象化の流れは、かつて神霊が占めていた「物」を支配する立場を人間が占めるようになったことを示している。

15-17段落目 近代における妖怪観 近代においては、妖怪は以前とは異なる形でリアリティに回帰する。「表象」を成立させるにあたり、人間の絶対性という前提が存在したが、近代においてそれを根本的に揺るがされることになった。人間の不安定さやコントロール不可能な部分が明らかになったからである。これにより人間そのものの内部に妖怪が住み着くようになった(中世において因果の了解を超えた現象に対処するためにそうしたのと同じように)。同時期に「私」という近代特有の思想が生み出された。私は私にとって不気味なものであり、妖怪は不安定な私を投影した存在として現れるようになった。

要約

日本における妖怪観は一度リアリティから切り離されてフィクション・娯楽となったのち、再びリアリティに回帰するという歴史をたどった。この歴史をフーコーの「アルケオロジー」の考え方に基づいて記述すると、中世から近代にかけての「物」「言葉」「記号」「人間」の関係性の再編成の歴史が浮かび上がってくる。

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