『共産主義革命論』第7章

第7章 共産主義の理念に基づく制度の基本設計~必要議会、能力議会、奉仕ポイント制度~


この章では、共産主義の具体的な制度をどのように設計し、運用していくかについて前章の議論を土台にしていくつか提案していきます。より詳しい内容については『共産主義の理念に基づく社会の基本設計』で論じる予定です。

・能力と必要の区別


従来の共産主義を目指す政党の理論的な過ちは、能力と必要を区別しなかったことにあります。
共産主義において、能力の卓越した指導者集団が必要であることは疑いようがありません(指導者が必ずしも人間であるとは限りませんが、人間も必要です)。
もし優れた指導者集団がいなければ、労働者階級はなにを目標にして勤労すればいいのかがわからなくなります。自然的な手段で解決しようとすると市場原理を取り入れるしかありません。けれど、市場原理を取り入れると、ソ連のように指導者集団は崩壊するか、中国共産党のように指導者集団が資本家階級を統制するシステムのどちらかを選ぶことになります。
しかし、すべてを指導者が決定すると、指導者集団と労働者階級の間で階級的対立が生じ、それが資本家階級と労働者階級に代わる闘争を生み出しかねません。
なぜこのような問題が生じるのかというと、それは物事の判断をする主体を取り違えているからです。
物事には決定するのにふさわしい人物または社会集団が存在しています。
一国の中には指導者が決定するべき領域と、党などの指導者集団でない一般の労働者階級、人民が決定するべき領域があるのです。旧来の共産主義を目指す指導者たちは、それらをごちゃまぜにし、すべてを党指導者主導で決定しようとした結果、現場の問題を取り逃すことになりました。トップダウンの弊害といってもいいでしょう。
誤解しないでほしいのは、トップダウンが悪いのではなく、トップが自分の知らないことについてあたかも知っているふりをして指導するところであり、自分が知らないことについて詳しく知っている人や集団の意見に耳を貸さないことが問題だということです。
では、なにが問題だったのでしょうか。それは、能力と必要の区別です。
誰がいつどれくらいどのような理由で必要なのかを知るのは誰でしょうか? それは党指導部ではなく労働者1人1人です。なのに、労働者階級にどれくらい必要なのかを問うことなく、党が方針を決定して押し付けると、両者の間に大きな摩擦が生じます。摩擦はいずれ無視できない大きさとなって、社会の発展を阻害することになるでしょう。
逆に、組織にとって誰が優秀で、各分野にどのような能力を持った人材を配置するかに関しては、労働者個々人の判断にゆだねることはできません。もし個々人の能力を1人1人に判断させれば、とんでもない間違いを犯しかねません。
能力については実績などを考慮して、指導部が判断し、その能力をどうやって用いるかは指導部が評価する仕組みを作り、運用する必要があります。
労働者たちは、自分に何が必要なのかはわかっているから、労働者たちの必要分は労働者たちが決定するのが理にかなっています。
対して、労働者がいつどこでどれくらい、能力を発揮して働くかについては、指導部が客観的で分かりやすいやり方で能力を評価して、方式と人材の配置を決定しなければなりません。
結論を言うと、経営権のうち人事権を指導部が掌握し、労働者の給与や報酬額に関しては労働者側が決定し、両者の重なる部分については両者の話し合いによって決定するのが理にかなっています。
どれくらいのものが必要になるのか必要に関する決定権を労働者階級全体、あるいはその代表者に与えるべきです。そのうえで、供給、生産計画に関しては優秀な指導部が決定するべきです。21世紀においては人工知能の発展や、ビッグデータの活用など、様々な方法で、運輸をはじめとする供給部面の方針の決定の補助を受けることが可能なはずです。
いま説明したような必要と能力について決定する共産主義の根幹システムが、必要議会と能力議会です。
必要議会は、労働者階級、人民がなにをどのくらい必要なのかを把握し要求する議会であり、広く国民の必要を集める議会です。
能力議会は、必要議会の求める要求を満たすために、能力の卓越した人物を議員として、担当する国、地域に必要な分を供給するための計画を策定する頭脳を担う議会です。
この2つの議会が共産主義体制における政治部門を担当します。

・必要議会と能力議会


必要議会は、ボトムアップ型のシステムです。
まず最も小さい行政単位ごとに設置した必要議会で、地域の要求を上にあげます。それを次々と上の行政単位に要求を上げて、各国の必要議会が要求をまとめます。
このように、地域ごとに要求を上げて、それを集約したものをもとに必要議会で審議し、国家予算の大部分を決定します。

対して、能力議会は、トップダウン型のシステムです。
能力議会の上には最高能力議会という議会が存在し、最高能力議会は人類全体の方針を決定します。
各国の能力議会は最高能力議会が決定した方針に従い、必要議会が決定した予算に基づき、生産計画、分配計画を立案、実行していきます。その計画は、より下の能力議会に降りていき、最後にそれぞれの現場で生産が実施します。
突発的な出来事(食糧生産地の大干ばつ、工場の大規模操業停止、大災害による生産活動、輸送活動の転換が必要になった場合)によって大きく生産計画が狂った場合に限り、各能力議会が状況に応じて生産計画に人を動員します。
必要議会は生きるために必要な需要を決定し、能力議会は、自己実現、世のために役に立つ能力の育成と人材配置を決定します。
大きく見ると、必要議会が立法府の中心的役割を、能力議会と従う官僚が立法府の一部と行政府の役割を果たすことになるでしょう。
このようにして、役割を分担することで社会主義、共産主義を目指す政党が抱えていた問題を解決することができます。
ただし、その代償として、民主的なため決定までに旧社会主義圏と比べるとやや時間やコストもかかります。しかし、そのコストは民主主義と平和のために必要なコストなのです。

・経済格差が生じる根本原因~貨幣の価値貯蔵機能、貨幣の万能性~


次に共産主義体制における貨幣について考えてみましょう。
当然ですが、生きていくためには食べ物や衣服などの物質が必要です。
それを手に入れる購買手段が必要です。購買手段となる貨幣と商品を交換することで必要なものを受け取ります。しかし、現状の貨幣制度を維持しようとすると、貨幣をたくさんため込む人々、集団が現れて経済格差が拡大してしまいます。
経済格差が生じる最大の問題は貨幣の価値貯蔵機能にあります。貨幣は保存できるためにいくらでも蓄えておくことができます。そのため、ため込んだ貨幣を投資に回すことで、一方では貨幣をたくさん持って、さらに増やすことができる人と、余分な貨幣を持つことができない人たちとの間で経済格差が生じてしまうことになります。
資本主義最大の問題点は、なんでも、時間でもなんでもほしいものはすべて金で買えてしまうという金の万能性にあります。金で何でも買えるようになってしまったがゆえに、人々は金を稼ぐように強要され、金を稼げない人間がダメ人間扱いされる拝金主義の極端な世界が出来上がってしまったのです。
貨幣貯蔵機能と、貨幣の交換機能が組み合わさった結果、わたしたちの世界は、金がすべてという拝金主義の極めて貧しい社会へと堕落してしまいました。こうした問題点を解決しなければ資本主義の問題を解決したとは言えないでしょう。
ではどうすればこの問題を解決することができるでしょうか。問題の簡単な解決方法は、貨幣の価値貯蔵機能と交換機能に制限を加えることです。
第1の問題を解決するためには貨幣の機能に制限を加えることが必要です。特に、貨幣の価値貯蔵機能を制限することと、そもそも貨幣を貯蔵できないようにすれば問題は解決できます。
具体的には、巨大な収入を得た場合、一定以上の収入や資産については全額税金として徴収する(所得税、資産課税税率100%)という案が考えられます。
このようにして貨幣の貯蔵機能を制限することで、経済格差が広がらないようにすることができます。
第2の問題点については、貨幣でなんでも買えることができないように制度を変えればいいのです。貨幣に代わる第二の貨幣を導入して、第二の貨幣でなければ変えないようにして貨幣の交換機能を制限するのです。
第二の貨幣には有効期限をつけたり、時間がたつごとに減るようにすればいいでしょう。

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