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日記 2023.11.30(木)

台所に戻ってきた。
台所はわたしの冒険の起点になっている。今週は出かけることが多いので今日はぜったいに家にいるぞ、そんな気持ちだ。

実家の近所のすてきなご夫婦のお屋敷。大きな家の玄関を開けると元は土間だった広い空間がある。かつてはかまどもあって、台所でもあったのではないだろうか。靴のまま入れる広々とした空間の一角に来客用のソファと机があり、コーヒーセットとポットが置かれていた。おじゃました人がコーヒーを淹れて飲めるようになっていたのだ。わたしはその空間が大好きで父や母についてその家に行くのが楽しみだった。ちょっとお茶でも飲んでいきなさい、が気軽にできる場所。いつかこんな空間が欲しい、そう思っていた。お父さんは用事がなくてもよくおじさんの家に行っていた。
土間は台所として、来客と家主が話す空間として、作業をするガレージのような場所としてフレキシブルに使われてきたのだそうだ。家の中ながら、来客者は靴を脱がずに気兼ねなく話をすることができ、また家主は創作の手を止めずに対応することもできる。すごく気軽な場所。土間はいつでも開かれていた。カフェや喫茶店のような役割もはたしていたのかもしれない。わたしがもしも家を建てるならば、土間を中心にした家を建ててみたい、そんなことを思った。

憧れの土間を想像しながら台所で日課。ピアノの練習をする。明日の寺尾紗穂のコンサートに向けて、寺尾紗穂さんの曲はなるべく聴かないようにしている。今日は坂口恭平さんの曲を聴きながらメロディを鍵盤で叩いてみた。間違えても坂口さんと一緒に弾いているような気持ちが楽しい。自然と寺尾紗穂さんがコーラスで参加されている曲を選んで弾いていて、笑った。

お昼ご飯は傷みそうだけどたっぷりとあるニラを使いたくてニラうどんにしてみた。お母さんが送ってくれた細麺のうどんがあった。白菜、セロリ、うどん、最後にニラをたっぷりのせて、フライパンで熱した太白ごま油をニラめがけてジュッとかける。しょうゆと出汁、お酢を少しかけて混ぜて食べたら美味しかった。中華っぽい気分が満たされて満足したけれど、親指を少し切ってしまった。動かすと痛い。

昨日は新しい絵に取り掛かりたかったのだが、眠気と描きたいものがないのとで休んでしまった。描きたいものに出会いたい。今もまだ描きたいものは見つかっていない。

思い立ってお母さんに電話をかける。珍しく3コールぐらいで出た。第一声で最近描いた絵がいいと褒めてくれた。それからお父さんがお米を研いでくれている話を聞いた。お米を研ぐだけでなく朝、鍋でご飯を炊くところまでお父さんがやってくれるようになったらしい。ものすごい変化に驚いた。水加減がなかなか掴めなかったらしいが、昨日ようやく分かったと言っていたらしい。微笑ましくて思わず目尻がさがる。お米を炊くのは面白い。元住人も、土鍋でご飯を炊く方法を伝えると興味を持ってやってみるようになったし、お父さんにも合っている家事だと思っていたのでぴったりはまってうれしい。
今日はお父さんとお母さんの結婚記念日。結婚して43年だという。お母さんは、夜ご飯を食べに誘われたとわたしに教えてくれた。あまりにも嬉しそうに言うので、わたしが提案したなんて野暮なことは言わないで何も知らないふりをして話を聞いていた。いろいろと変化があって面白いとお母さんは言っていた。なんだかわたしはうれしくなってきた。楽しいこと、面白いことを目指して動けば、ほんとうにそうなってくるのだと思った。
実家の電話が鳴って、お母さんとの電話を切った。短時間の電話だったけれど、心地よい余韻が残っている。

夕方、水と牛乳がなくなったので買いに出る。途中で近くの古着屋さんへ寄りたくなって前を通ってみた。外に置いてあるフリースが良さそうだったので中ものぞいていくことにした。メンズがメインの古着屋でわたしにちょうどよいサイズのものもある。ここではどれくらい服を買っただろう。今日もメンズコーナーでミリタリーなキルトのアウターに一目惚れしてしまった。大好きなアウトポケットが両脇に付いてリバーシブルの仕様。色も緑寄りのカーキとイエロー寄りのカーキで、丈感も程よい長さだった。持っているネイビーのスカートに合わせやすそう。7,300円、悩んだけれど買うことにした。
コーディネートの幅が広がるアウター、大きめなので中にたくさん着込むこともできそうだし、暖かそうだ。明日のコーディネートに合えば着てみたい。ハンガーはもう増やさないことにしているので、可愛いけれど合わせにくかったスウェットをフリマサイトに出品することにした。
なんだかおしゃれが楽しくなってきたところで前髪をつくりたくなって切ってみた。昔から前髪は自分でよく切っていたので油断していたら、思いっきり失敗してしまった。短くなった前髪をひっぱりながら、久々の前髪も新鮮でよいということにしておく。

夕飯は特に食べたいものがなかった。ご飯と炒め物にしようと冷蔵庫をみる。ニラの香りがぷんっとしてきて、早く使わなければという気持ちになってきた。細かく刻んで半分はしょうゆに漬け、半分は大根の甘辛炒めの仕上げに入れた。ご飯と一緒にキャベツと坂出金時のさつまいもを蒸して、豆腐も出した。今日はそれぞれ、小皿に盛って食べた。我ながらメインのない、質素な夕飯がおもしろい。昔から作るのも食べるのも、メインよりも副菜が好きだったので満足だ。
今ごろお母さんとお父さんはお寿司を食べに行っているだろうか。電話ではこれから予約すると言っていたので、当日の予約でいいのと聞くと、あんまりお客さんいないから大丈夫よと呑気にお母さんは言っていた。歩いていけるような場所に飲食店などない田舎町で、夕飯を外で食べようと誘ってくれたことがうれしくて、お母さんはもう十分満足しているのだなと思った。食べに行けても、行けなくても、どっちでもいいのだ。

外は風が強く吹きはじめた。足元も冷たくなってきて、空気もひんやり。明日は寒くなりそう。それでもわたしはあたたかい気持ちでいっぱいに満たされている。
今日の話をまたお母さんにも、お父さんにも聞いてみよう。


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