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サックスの路上ライブ

 2008年暮の28日、サックスを聴きに代々木公園に行った。奏者は苫米地義久氏、ライブハウスで吹いたり、テレビドラマのバックグラウンドに使われたりする、それなりに知られた奏者だが、同時に東京都公認のヘブンアーティスト、つまり大道芸人で、ちょくちょく、路上ライブをしている。
 
 路上ライブは東京都が場所を提供し、上野、代々木公園などの数箇所、HPに予定が出ている。昨秋、上野公園散策中に、偶然聴いて以来、我妻は追っかけ状態だ。
  
 開始時刻の12時に代々木公園の中央にある噴水池に着くと、苫米地氏が一人ぽつんと立っている。歳は私より2学年上とのこと。妻を見ると挨拶し、今日は寒いし、少し風もある、客もいないから、どうしようかと思っていたと言うが、私たちを見て、直ぐに店を広げて用意し始める。
 
 噴水池は、大きさも形も50メートルの水泳プールもどきだが、水深は膝程度、中央の何箇所かに、三角状に配された3本のパイプが、水面から突き出ており、水が放射状に噴出し、絶え間なく音を発して、寒さを助長している。池の横は幅5,6メートル程の舗装道路で、両側に相対して石のベンチが並んでいる。苫米地氏はその石の上に機器を並べ、池に向かって演奏し始める。私たちは正面のベンチに座り、準備中に来たもう一人の追っかけさんも加えて、3人で聴き始める。
 
 曲は、自ら作曲したものが多いが、よく知られた、翼をください、いとしのエリー等も交え、アルトサックスと、ソプラノサックスの二つを使い分ける。冬の乾いた空気に響くサックスの音は、哀愁を漂わせ、冷たい石のベンチ座っていることを、忘れてしまう。道路には、ひっきりなしに人が行きかうが、なかには立ち止まる人、ベンチに座る人もいて、1時間後に聴衆は10人程度になった。
 
 小休止して、苫米地氏とわれわれでおしゃべりをしていると、3人連れが、駆けつけてきた。50代と思しき夫妻と高校生くらいの娘で、奥方が大きな声で、ああ、よかった間に合った、今朝熊本から出てきたと。以前、偶然にCDを買ってからはまってしまい、時々聴きに来るとか。苫米地氏はそれではと、気合を入れて吹き始める。ご主人は自分でも吹くのか、身を乗り出して、いかにも興味津々といった表情で聴いていた。
 
 更に1時間ほどライブが続き、聴衆が20人くらいになり、2時に終了。妻はCDを何枚か買い、二人の嫁にも上げるとか。この2週間ほど、夜、帰宅して玄関のドアを開けると、サックスが響いてくる。
 
♬ 〜Danny Boy〜 TOMA(苫米地義久) - YouTube
 

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