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大径管工場の建設、3.工期と予算の決定

 大雑把なレイアウトが決まり、次は工期と予算の作成になる。ここでも案の作成は私が1人で担当した。山上課長は、ちょくちょく口を出すので、相手をするのが面倒だがサラリーマンだからやむを得ない。私の検討が進むにつれ計画の精度が上がるが、彼はその都度関係者に報告、説明していわゆる根回しをする。はからずしも役割が分担されて、効率がいい。
 
 最初に、新設備の主要圧延機の骨格を決める。新設する圧延機は基本的に現設備のサイズアップだから、現有設備の消費電力や圧延反力等の各種データを採取して、塑性加工解析を行い、サイズアップした新設備の骨格と主電動機の容量などを決める。これには学生時代に塑性加工学を専攻した経験が役立った。本来、この検討は操業サイドの技術チームが対応すべきであろうが、彼等に塑性加工技術の素養はないから無理なのだ。だから、私が出した主圧延機のスペックには誰も口をだせず、そのまま決まる。本当はそれこそ初体験で不安があったが、そんなことはおくびにも出さず自信満々・・・・のふりをして押し通した。
 
 並行して主たる圧延設備一式をどのメーカーに発注するか、その際の予算の目安はどの程度か確認するために、日本の重工業3社に参考見積をお願いした。特にⅠ社を本命とし、それなりの打ち合わせをすすめ、Ⅰ社も本気になって対応してくれた。当時国内鉄鋼3社が当社と同様にシームレスパイプ設備の増強に走っており、重工メーカー3社がそれぞれどの鉄鋼会社に対応するか、(暗黙の)話し合いがされていたようで、当社にはⅠ社が組み合わされていたらしい。私の作成した設備の発注仕様書にのっとって、打ち合わせが進んだ。
 
 設備の骨子を決めて全体スケジュールを作成し、電気、計装、土木、建築の各チームにデータを提供して工事工程と予算の作成を依頼、同時に機械の予算を算出して全体を纏める。私にとってすべてが初体験、見落としていることも多々あるだろうと、全体の予算はたっぷり水増しして300億円とした。諸々の不測事態への対応には、金で何とかなることが多い。工期は2.5年として正式な稟議書を作成した。
 
 因みに私の経験は1億円程度の設備工事を何件か担当しただけ、落差が激しく、かえってどうとも思わなかった。まさに若気の到り、その後張り切り過ぎて何でもかんでも自分で背負い込み(あるいは背負わされて)、結局心身の限界まで追い込まれることになるとは思いもよらなかった。

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