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紫檀(したん)の机

 2008年、暮れの日曜日、
日本橋の三越に和家具展を見に行った。
(人形町の我家から徒歩15分程度)
会場は7階の奥、誰でも見学できるオープンスペースに
大小の和家具が並んでいる。
 
 赤茶の木目が鮮やかな欅(けやき)の長火鉢、
白木の香りが漂う桐の和箪笥、
分厚い一枚天板の大きな食卓はいかにも重量感がある。
どれも素晴らしく、何か購入してもと思ったが、値段をみて止めた。
 
 一角に、紫檀(したん)の机と飾り棚のコーナーがあり、
総白髪の年配の職人が立っており、
前に彼のネームプレートが置いてある。
いい機会だと、我家にある紫檀の机について、
天板と枠組みの間が少し開いているので、
修理できないだろうかと、聞いて見る。
 
 修理は出来ないことはない。
全てをばらばらにして、ほんの少し、
隙間の分だけ小さくして、再度組み立てる。
机の裏に、製作者の名前が書いてあるから、
確認すれば、どういったつくりになっているか、分る。
 
 今、紫檀の職人は日本に3人、一人は高齢(80過ぎ)、
一人は病気で、活動していない。現在は自分だけだ。
自分も75歳になり、あと数年すると、だれもいなくなってしまう。
机は、長い年月で、どうしても隙間が広がるが、
本来の価値は変わらないのだから、
そのまま大事に使われたら如何か、と。
成程・・・と、筋の通った説明に納得する。
 
 展示してある机は、我家のものよりやや小ぶりで、
天板が薄く、足も細い。
最近は、住宅事情から、少しでも軽くするためにこうなっているとか。
元々、紫檀はかなり重く、我紫檀の机は1畳ほどの大きさだが、
起こすには、相当な力を要す。
 
 最近は材料としての、紫檀が手に入りにくい。
木そのものが、なくなりつつある。
机に加工できる紫檀は樹齢千年が必要だから、
今、植樹をしても材料として使えるのは、千年後だ。
(その時はこの世がどうなっているか分らない、)
 
 我家の机と飾り棚は、展示してあるものより、黒っぽいのだが、
年月とともに、黒くなるものと、赤茶けるものがある。
専門家でもどうなるか分らない、紫檀は生きているのだとか。

紫檀の飾り棚

 
 いかにも一流職人の、含蓄のありそうな話だった。
当家のものは、父方の祖父の時代からだから、百年くらいになる。


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