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上場企業5.虚礼(きょれい)

 年始は総務が調整したスケジュール通りに動く。本社での年始挨拶、工場での安全祈願と挨拶、銀行への年始挨拶、営業所廻りなどで1月の予定がほぼ埋まる。本音を言えば、あえて年始に一斉に挨拶する必要はなく、無駄だと思う。なかでも、銀行への年始挨拶は時間の無駄、もはや滑稽だ。

 4日の朝、某メガバンク(当社のメインバンク)に行くと、正面玄関に来客の黒塗りの車がずらっと並び、ダークスーツの紳士でごった返している。所定の階に行くと、順番待ちの椅子に数組の客が座っている。こちらも椅子に座り、暫し待たされた後、応接室に通される。

 担当の営業部長以下4名程が4斗樽の置かれた机の向うに立っている。こちらも私以下資金担当までの4名だから人数のバランスは取れている。横の女性が、柄杓で枡に酒を注ぎ、各人に配る。おめでとうございますといいつつ、ぐいっと、枡の酒を一気に呑む。相手は、次から次へと新たなお客様の都度枡酒を飲んでいるようで、既に顔が赤い。これを2日間繰り返すとか。4斗樽の酒の銘柄はどうとか、正月に何を飲んだかとか、話題が酒だけでは寂しかろうと、経済情勢の話などもして、歓談は10分ほどで終了、次の客に譲る。

 その足で、別のメガバンクグループの首脳が一同に会する銀行に行く。正面玄関前の黒塗りの車も、ダークスーツの紳士もこちらのほうが多い。最上階に行くと、20人ほどの首脳が序列順に並んで立っており、次々と来る客に挨拶をしている。名刺を女性に渡すと、こちらの肩書きと氏名を大きな声で読み上げるが、彼らが聞いているとは思えない。歩きながら次々と挨拶するが、誰が誰か分からない。勿論、先方も分からないだろう。
 
 この2メガバンク話は10年前のことだが、今も同じことをしているのではなかろうか・・・
 
 1月の2週目からは全国の4営業所を訪問し、その地方の販売店との懇親会に出席する。販売店の中には年に一度しか会わない人もいるから、銀行よりは意味がある。仙台に出張した時は、ホテルでシャワーを浴びてから雪のちらつく中を宴会場(蕎麦屋の2階)まで歩いて風邪をひき、治りきらないうちに名古屋に行くなど、体力勝負の様相、些か疲れた。
 
九州営業所に行ったときの販売店の会社が気になった。当社の九州地区の販売の全てを担当し、この数年、量を伸ばしている。会社を訪問して社長と話をすると、自社の営業担当者を私に紹介してくれるが、こいつらは出来が悪いからそれなりの処遇しかしない、と目の前で言う。親しく付き合いたい人ではないし、会社としても信用し難い。

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