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大径管工場の建設 11.ホットラン

 各設備が出来上がり、試運転調整も最終段階まで来たので、実際の材料を使って熱間での試運転することになった。
 
 既設の圧延ラインを一時止めて、加熱炉から出た1200度の鋼片をクレーンで新圧延ラインのピアサの前面に運び、各圧延機(ピアサ・エロンゲータ・プラグミル)で順次圧延する。全て自動運転とし、設備の基本的な性能、自動シーケンスの完成度を確認する。この確認で完成度をブラッシュアップし、最後に旧設備を休止して新設備を稼働させる。
 
 新設備で初めての圧延をするとのことで、世間(所内)の注目度が高く、普段あまり見かけない所上層部の何人かが見学に来た。結果は大成功、4本の熱間鋼片はあっと言う間に圧延機を経由して、立派なシームレスパイプになった。
 
 私は設備中央の作業通路の上ではらはらしながら見ていたが、真っ赤に加熱された鋼片が思い描いた通りに次々とパイプに変わるのを見て、思わず涙ぐんでしまった。誰も見ていないだろうと油断していたが、あとで誰かにあの(いつも冷静な)秋山さんが泣いていたと言われて、しまったと反省したものだった。
 
 ホットランが成功裏に終わった直後、いつもの通り試運転調整の打ち合わせを行ったが、所の設備部門トップの奥山部長が顔を見せ、ホットラン成功のお祝い会の様相を呈した。稲山係長も珍しく参加し、突然、今日は俺がやるからと、いつも私がやっていた打ち合わせの司会を、自分がやっているかの如く始めた。普段参加している他の人も何が起こったのかと、一様に驚いたようだが、無難に打ち合わせが終わり、流石に頭の切れる稲山係長だった。
 
後日奥山部長が、私に、やはりいざという時に頼りになるのはイナちゃん(稲山係長のこと)だなと、真面目に言ったのには、何とも返事のしようがなかった。今は、奥山部長も、山上課長も、稲山係長も、とっくに亡くなっているからこういった文が書けるわけで、長生きするといいこともあるのだ。

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