統合失調症
統合失調症は人口の約1%が発症すると言われ、稀な疾患ではありません。私自身何となく、妄想、幻覚があらわれる疾患という事は情報として聞いた事はありましたが、当事者の声や体験を聞いた事はありませんでした。精神疾患を理解するには参考書上の勉強で学ぶだけでは充分ではなく、リアルな当事者の体験を聞く事も欠かせないと思います。
今回「統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません)」という漫画を読んだので、読んだ感想を投稿したいと思います。
まず初めになぜ、私が漫画スタイルの本を読んで見ようと思ったかといいますと、どの病気もそうだと思うのですが、当事者の体験を言葉だけで表現するのは難しいですし、読む側も言葉だけだとイメージが湧きづらく理解しづらい部分もあると思ったからです。その点でこの本は主人公の幻覚のイメージが描かれていたり、仕事場での状況、入院病棟での状況が視覚化されていてとてもイメージが湧きやすかったです。
このような当事者経験の漫画スタイルの本を読む事はリアルに近い状況を体験できるので、様々な疾患のイメージを得るのに良いのではないかと思います。
それでは、下記に主人公がどのような体験をしたのかを書き、感想も少し書いてみたいと思います。
主人公
主人公の名前はズミクニ。
思いついたら即行動な介護福祉士。32歳の時に統合失調症を発症して措置入院となる。
統合失調症の陽性症状、陰性症状あるいはうつ病に悩まされていたが、様々な人々のおかげで寛解の道へと進んでいく。この道のりを他の人に知ってもらうきっかけとなればと思い、実録漫画を描く事にした。
※措置入院
自殺のおそれや自傷・他害の危険性が高い時に、本人や家族などの同意がなくとも、都道府県知事の診察命令によって、2名の精神保健指定医が必要と判断した場合、強制的に入院させることが出来ます。
※陽性症状・陰性症状
陽性症状は主に妄想・幻覚。陰性症状は主に意欲減退、集中力低下、感情平板化などの症状です。
ストーリー
・閉鎖病棟への入院
ズミクニは職場との給料トラブルで無職だった。そして統合失調症を発症した。
そんなズミクニの統合失調症から社会復帰までのストーリーです。
日々幻視や幻覚の症状が現れ、ある日路上で症状により動けなくなり、通りがかりの夫婦に救急車を呼んでもらい病院に搬送される、しかしそこでの病院での診療された記憶や薬の説明を受けた記憶もなく、診察が終わるとすぐに帰らされてしまう。この後タクシーで交番に行くが、思考困難になり気づいた時には閉鎖病棟の保護室に措置入院させられていました。
ここでの保護室に7日間入っていたみたいですが、刺激が少なく薬の効果もあってか思考がだいぶクリアになって総室に移る事になりました。そこでは他の患者さんとの交流などがありました。また院内のテレビで主人公がファンであるバンドのRASの曲が流れ、いつかライブに行くという希望が出てきました。そして病状が安定して退院する事になりました。
この漫画では保護室でのトイレ事情やお食事事情、保護室から個室に移ったがプライベートがあまりない個室の現状、脱出が出来ないような病院の作りになっている様子、入浴事情、情報源が新聞くらいしかない現状だったりが描かれています。
※閉鎖病棟
原則として、「措置入院」など強制的な入院形態で入院してくる患者さんが入ります。
基本的な病棟の構造は、数人単位の病室に洗面所、トイレ、食堂、デイルームなどの設備を備え、職員が鍵を管理し、患者さんの出入りの自由が制限されています。自殺企図、錯乱、器物破損など、自分の行動がコントロールできない患者さんの場合、閉鎖病棟に設置されている「保護室」と呼ばれる個室を使用する事があります。
保護室では一時的に外界の刺激を遮断する事により心身の安静を図り、集住的に治療を行います。自傷・他害の危険性が高い時には身体拘束を行う場合もあります。
・退院後
退院後は働ける場所を探し、就労活動をするが、中々統合失調症で受け入れてくれるところがありませんでした。ある介護の事業所が採用してくれてその職場で働き始めます。その職場では人間関係も良好で、仕事にもやりがいを持っていたが、病気による集中力や記憶力などの機能低下で病気以前のように働けなくなって失敗を続けてしまう事があり、そんな状況が苦しく自殺未遂を図ろうとします。しかし、そこでも希望を持たせてくれたのは、スマートフォンでたまたま出会った主人公の推しの存在でした。更に新型コロナで延期されていた同人誌即売会がついに開催される事になり、本人の趣味である同人誌を描くという事に意欲が湧き、数カ月間描き、イベントの即売会に参加する事になります。自殺を思いとどまらせてくれた救世主的な出来事でした。
※同人誌
同人(同じ趣味・志を持っている人)が資金を出して、自ら執筆・発行を行う雑誌の事。
・福祉に支えられる
しかし、介護の事業の仕事は夜勤もあり、仕事内容も負担となり、退職する事になります。
その後、「精神科」「就労」で検索をしたところ、「就労移行支援事業」というワードが見つかり、その事業所に行く事になりました。就労移行支援事業所は就労に向け職業技能を身につけたり、面接の練習を行ったり、様々な就労に関する相談にものってくれる事業所です。そこの事業所で職業技能を身につけたり、面接の技術を身につけたりしていきます。更にその事業所の方から障害者手帳や障害者年金についての助言をしてもらい、様々な福祉サービスを受ける事になります。そして主人公は新しい人生に向けて出発していきます。
感想
私自身この本を読んで、統合失調症の当事者の一部の体験ですが、想像上で体験する事が出来ました。
当事者が普段の生活でどのように幻視、幻覚が見えているのかを知ったり、上手く思考を働かせたりする事が出来ないという状況を知る事で、私自身の世界では理解できない様な事が起こるという事実を知る事が出来ました。
統合失調症は精神病圏と言うカテゴリーの疾患に分けられます。精神病圏の疾患は、患者さん本人に病識がなく(病気だという認識がなく)、周りの人が病気の症状を理解不能という特徴があります。
本人に病識がないので、医療に繋がらない場合や、繋がるまでに時間がかかったりします。治療の開始が遅ければ遅いほど、統合失調症は治りづらく、再発もし易くなります。
また周りの人が病気の症状を理解不能な為、患者さんの症状を見て、「何を言っているんだ」と冷たい言動で対応をしたり、妄想や幻覚を否定する事もあります。このような対応は患者さんにとって否定されたと感じストレスが溜まり症状悪化につながるかもしれません。
このように、統合失調症を発症した際にある程度、「自分は統合失調症かもしれない」と疑う気持ちを持つためにも、周りの人の病気の理解不足から、周りの人が誤った対応をしないようにする為にも、普段から病気の理解をする事が大切であると思います。その一助として、この本は当事者の経験を下に統合失調症を学べる道具になり得ると思います。
また、この本には、医療だけの治療だけでなく、周りの仲間や、福祉制度、更には主人公の推しの存在に支えられ希望を持ち前に進んでいく様子が描かれています。どの精神疾患にも言える事かもしれませんが、疾患の治療には医療や福祉、地域が連携してサポートをする事で、患者さんが身体的、心理的、社会的の充足が図られ、健康や希望を維持する事が出来るのだと思います。このような視点を当事者の方が持つ事も大切かもしれませんが、周りにいる方々一人一人がこのような視点を持つことが、当事者の心理的、社会的、身体的な充足にも繋がってくるのかもしれません。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?