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【隠れた傑作】モンスター収集系RPG『おす♂モン』のレビューをするよ

モンスター収集系のRPG『おす♂モン』を50時間ほどプレイして完全クリア(全おすモン回収)したので感想を書きます。

一言でまとめると、一発ネタゲーっぽい雰囲気に反して、高いゲーム性と中毒性を持つ隠れた傑作です。

どんなゲームなのか

「♂」が目を引くタイトル画面

「おす♂モン」は2022年5月にフリーゲームプラットフォームの「ふりーむ」、2022年8月に同じくフリーゲームプラットフォームの「夢現」にて公開された。製作者はtabin5801氏。

これは、とある世界的に有名なモンスター育成系RPGを強く意識したゲームだ。

どこかで見たことのある絵面

「(なぜか)とっても馴染み深い戦闘システム」を自称している通り、大体のシステムは、ある世界的に有名なRPGと酷似している。

最大4つの技を覚えさせられるモンスターを6体まで連れ歩いて戦わせることができるといえば、大体の戦闘システムについて理解いただけると思う。

では世界的に有名なとあるRPGと何が違うのかというと、登場するモンスターはすべて「男の子」の姿をしているのだ。

主人公は「おすモン調教師」として、男の子のようなモンスターに首輪を投げつけて捕まえ、調教していく。

ちなみに「調教」はおすモンを強く育てていくことを指しており、まったくいかがわしい要素はない。その証拠に、「ふりーむ」では全年齢対象のゲームという判定を受けている。

一見すると、有名なRPGのモンスターを男の子に変えただけの一発ネタゲーに見えるが、完成度が異様に高くて遊びごたえがあるので、私のように50時間ほどやりこんでしまう人や、YouTubeでも数時間のライブ配信を連日繰り返す人が出てくるなど、一定のファンがついている。

たぶん私はまだライト勢な方で、SNSで他のプレイヤーのコメントを見ていると、少なくとも100時間以上プレイしないとたどり着けないのではないかというレベルのやり込みをしている方もいる。

それでは、具体的にこのゲームの魅力や特徴を書いていこう。

設定が作りこまれた個性的な男の子たち

ライバルのアリサが愛用するモンスター
「ウィスキティ」

このゲームの最大の特徴が、男の子の姿をしたモンスター「おすモン」だ。作中では59種類のおすモンが登場する。

プレイしていくうちに分かるのだが、登場する59体のおすモンはかさ増し感がなく、1体1体作りこまれている。

当然それぞれ能力値や覚える技は異なるし、最低1つは固有の専用技を与えられている。またそれぞれが戦闘に影響を与える特質を持っており、一見似たような能力値や技を持っていても異なる戦い方ができるように差別化されている(この辺りは次項でくわしく解説する)。

キャラクター造形のセンスも良い。ただ男の子に耳や尻尾をつけて擬人化ということにするという雑なものではなく、デザインやコンセプトに落としこんでいる。

治安の悪い都市エリアで出現するバーニー

例えばこのバーニーというモンスターは、ウサギの耳が生えており、防護服やマスクで体を保護している。また、基本的に炎の属性がついた技を覚える。つまり、バニー(ウサギ)とバーニング(燃えている)のダブルミーニングだ。

このキャラクターは、きれい好きで何でも炎で消毒しないと気がすまないというキャラ付けがされている。炎タイプの技を使うと攻撃力が上がる「ほうかま」という特質を持っているほか、炎をまき散らして自身が火傷を負う代わりに攻撃力を上げる技を持つなど、「炎であらゆるものを消毒する放火魔」という設定通りの戦い方を得意としている。

防護服を身にまとっているためか防御力が高く、しばらくの間物理攻撃によるダメージを半減させる技も習得することができる。

また、仮面をしている理由や素顔は、裏設定として製作者様のブログで公開されている。

これだけの設定や能力値の作りこみが、59体ものキャラクターで行われているのだ。

同行しているおすモンと会話できる

さらにこのゲームは、連れ歩いているおすモンと話すことができる。基本の会話はわずか2種類だが、特定の条件を満たすと会話のパターンが増えていく。台詞の端々から、世界観やおすモンたちの裏設定が明らかになることも少なくない。また、好感度が上がってくるとおすモンから贈り物をされることもあるが、贈られるアイテムの種類や手渡す時の台詞も個性が出ているので注目したい。

女の子にしか見えないキュピリアと
怪しげな青年の姿をしたペスティ

おすモンたちもキャラが立っており、あどけないショタっ子から、正統派な美少年、逆に主人公をリードしてくれそうな頼もしいイケメン、どう見ても女の子にしか見えない子(いわゆる男の娘)も複数登場する。

性格や思想も様々で、主人公にペットのように懐く従順なおすモンから、友人のように気さくに絡んでくるおすモン、別の種族として一線を引いたつき合い方をしてくるおすモン、人間を嫌ったり見下しているおすモンも存在する。

ただ、どのおすモンも調教していくうちに友好的な台詞が増えていき、最後は「あなたのことが大好き。あなたとずっと一緒にいたいと思っている」状態にすることができる。

予想以上に戦略的

実はこのゲームの主目的は、かわいくて個性的な男の子たちに首輪をつけて調教することではない。メインのコンテンツはあくまで戦闘である。

ベースはとある世界的に有名なモンスターを戦わせるRPGに酷似しており、野生のおすモンと遭遇したり、他の調教師と目があったら戦闘になる。

一発ネタっぽい見た目のゲームだがかなり練られた作りになっていて、とある世界的に有名なRPGと同じような、スリリングでヒリヒリとした戦闘が展開される。

前述の通りおすモンたちは、それぞれ明確に差別化が図られている。

HPが自動回復する特質とHPを吸い取る技で
粘り勝ちする戦法を得意とするエレント

何となく攻撃力が高かったり素早さが高かったりなどといった適当な違いではなく、みんな先ほどのバーニーのように、それぞれ異なる特質や専用の技を持っているので、単純な上位互換や下位互換が発生しづらくなっているのだ。

また、技に「ほのお」「みず」などの属性があってそれぞれのおすモンに得意または苦手とする属性が設定されていたり、アイテムを使って本来は使えない技を習得させたり、一度忘れさせた技をアイテムを使って再度思いださせたり、アイテムを持たせて戦闘力の底上げをしたり、おすモンに性格の概念があって能力の伸び具合に補正が働いたりなどと、とある世界的に有名なRPGと同じような要素も盛りこんでいる。

きちんと理解して上手く立ち回れば、1体のおすモンで複数のおすモンを倒せたり、多少レベル差があっても押し切れる。

例え序盤に野生で登場するようなおすモンでも、レベルを上げるにつれて強力な専用技を覚えたり、低い能力ながら強力な特質を持っていたりと、立ち回り次第で十分に終盤で通用するようなバランスになっている。

自分のお気に入りの子だけでもそれなりに戦うことができ、パーティー編成の幅がかなり広くなっている。

かなりのやり込み要素と中毒性

釣りではおすモンやアイテムが手に入る

ゲームの紹介文にも書かれているが、このゲームは意外とやることが多い。おすモン集めだけでなく、購入した別荘の飾り付け、植物の栽培、釣り、闘技場やアリーナでのバトル、色違いおすモン収集、バッヂ集めなどいろいろなことができる。

ネタバレになるので具体的には書かないが、飽きるまで無限にチャレンジできるようなローグライク的な要素も用意されている。

また、細かいがよくできている要素として、おすモンのレベルの上がり方の仕組みがあげられる。一般的なRPGでは、レベルが上がるほど必要な経験値が増えて徐々にレベルが上がりにくくなっていくが、このゲームではある程度まではサクサク上がり、あるレベルを境に極端に上がりにくくなるという独特な仕組みになっている。

この「あるレベルを境に突然上がりにくくなる」という仕組みにより、おすモン間でのレベル差が生まれにくくなるので、いろいろなおすモンを気軽に戦いに参加させやすくなる。

手軽に新しいおすモンを育てて戦闘に投入できる仕組みと、いくらでも攻略ができるやり込み要素がそろっており、しかもおすモンは差別化されておりそれぞれ得意な戦い方が異なるので、極めようと思えばいくらでも極めることができる。

かわいらしくも闇を感じる世界観

このゲームの特徴のひとつとして、その世界観があげられる。とある世界的に有名なモンスターを戦わせるRPGは、かわいらしい世界観とは裏腹にブラックな要素や不気味な描写をふくんでいるが、このゲームでもそれをリスペクトしているのではないかという一面がある。

こういうRPGに必ずいる悪い連中

このゲームに登場するおすモンたちは、それぞれ思想は異なるものの、基本的には人間に好意的だ。それに対して人間側は、おすモンを人間に近い形の動物と見なしている。家族の一員として大切にあつかう人物や、犬や猫のようにペットとしてかわいがる人物、家畜としてではあるが大事にあつかう人物、人権のない何をしてもいい存在として非人道的なあつかい方をする人物も登場する。おすモンが現実にいたら起こりそうな問題が、このゲーム内でも起こっている。

ただ、とある世界的に有名なRPGとは違ってこのゲームではその問題に対して介入することはほぼできないし、当の主人公のゲーム上での行動も、決して善人ではない。

そもそも、なぜおすモンが存在しているのか。なぜおすモンは人間に対して好意的なのか。人間は時におすモンの好意につけこんで非道な行いをすることがあるが、いつか大きなしっぺ返しを食らうことはないだろうか。不穏な設定が見え隠れする。

ネタバレに配慮しているのでさっきから遠回しなことしか書けず申し訳ないが、人によっては設定にアクの強さや悪趣味さを感じるかもしれない。

とはいえ、表面上はかわいい男の子たちとキャッキャしながら戦略的な戦いを楽しめるゲームなので、あまり深いことは考えず遊ぶだけでもいいだろう。

気になる部分について

せっかくなので、べた褒めするだけではなく気になった部分についても書こうと思う。

まず「とある世界的に有名なRPGを強く意識した男の子を捕まえて育てるゲーム」というところからも分かる通り、少し世界観の癖というかアクが強いことがある。ネタバレになるので具体的には書けないが、全体としてNPCの言動がエキセントリックだったり、倫理観が希薄だったり、メタネタが少なくないなど、インディーズゲームっぽいノリなので合わない人もいるかもしれない。

また、どんなおすモンも育てれば一定の強さになる反面、一部のおすモンが極端に強かったり、ダンジョンのギミックでワンパターンなものが繰り返されて冗長気味になっていたり、延々と回復アイテムや瀕死時に復活できるアイテムを使用して遅延行為を行なってくる敵がいたりと、少し調整不足かなという点もあった。

ただ、その辺りは個人制作のフリーゲームであればよくあることだし、むしろ全体のクオリティが高すぎるため目立ってしまっているだけだと思う。総合的には、個人制作のフリーゲームとしては粗が少なく非常に丁寧に作られている印象を受けた。

まとめ

一発ネタっぽい見た目に反して、設定やゲーム性が作りこまれており、男の子たちも個性的でかわいく、戦略的な戦いが楽しめる。

それでいて、とある世界的に有名なモンスターを戦わせるRPGよりはシンプルなのでとっつきやすいゲームだ。

さらに、直接ストーリーにつながりがない続編として『おす島。』というゲームが登場しており、『おす♂モン』に登場したおすモンたちと、無人島でスローライフが送れるという。そのような続編が存在しているということで、ますます『おす♂モン』を遊ぶ意味が増してくる。

※補足として、『おす♂モン』シリーズとは別に、新たに2023年11月に『ふらふあ!』というゲームの体験版が期間限定配信されている。ケモノ耳を持つ住人と友人あるいは恋人になりつつ牧場を経営するシミュレーションだという。主人公以外がケモノ耳持ちであることと、性別関係なく恋人になれるなど、『おす♂モン』シリーズと近い雰囲気を感じる。

プレイすれば分かるタイプの傑作だが、見た目がイロモノっぽいのでわざわざ手に取るところまで行かなそうなのが惜しいところである。

「おすモン」自体がコンテンツとして非常に魅力的なので、引き続きこの世界観とキャラクターを流用してシリーズ化してほしいし、有名な実況者に見つかったら流行するポテンシャルを秘めていると思うので、まだそこまで話題になっていない今のうちに遊んでみてほしい。

↓おすモンのダウンロードはこちら(ふりーむ)

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