絵を破られたことがある
心の端っこに残っているだけのただの苦い思い出話です。
絵を破られたことがある。小学生の頃の記憶は曖昧であることが多いのに、その瞬間のことはちゃんと覚えているのである。
破られたのは、当時から大好きだった鏡音○ンのファンアートだった。ご丁寧にカラーマーカーで塗った絵だったと記憶している。
私は当時、絵が上手かった。
この年でこんな絵が描けるなんて天才!と称えられるレベルでなく、漫画のキャラが少し描けるだけだったが、みんなは優しいから褒めてくれていた。
経緯は忘れてしまったが、一つ上の部活の先輩二人が私のクラスに遊びに来ていた。
その二人がVOCAL○IDが好きだったことを知っていたから、その鏡○リンの絵を見せたのか、あちらから私の絵を見にきたのかどうかは覚えていない。その二人のうち一人が、私の友人が上手いねと褒めてくれた私の絵を取り上げて、
こんな絵破いちゃえ、
と、絵をびりびりに破いて、ゴミ箱に放り投げた。
私は一瞬、何が起こったかわからなかった。
二人は笑いながらそのまま教室を出て行った。
空気が静まり返るなか、友人達に心配をかけてはいけないと思い、「あんな絵破られて当然だし落書きだし適当だったし大丈夫!」と笑い飛ばし、昼休みを終えた記憶がある。
小学4年生の時のことである。
その先輩らと、そのあと仲良くしたのかどうかもはや覚えてない。しかしその先輩らが卒業式で私に対して、「これからもオタクとしてがんばれよ!」的なことを言ってきた記憶がある。
私はそのときも笑って誤魔化したと思う。
私の創作活動の結果である絵を破いたのに、よく言えるな…と思いながら。
その人らは私の絵を破ったことなんか覚えていないだろう。いや、そもそも今になっても、なぜその人らが私の絵を破いたのか、理由がわからない。私の絵が気に入らなかったのかもしれない。子供というのは純粋なゆえに残酷である。
でも私は10数年経った今も、その瞬間を鮮明に覚えている。
いまさら怒りとかそういう感情は湧いてこない。
ただ、小学生にして、周りの空気を読んで、悲しいという本音に蓋をして気づかれないように、「こんな絵破られて当然だから大丈夫」と元気なふりをしていた当時の自分が、可哀想だと思っただけである。頑張って描いた絵を、否定されるだけでなく、ビリビリのカケラになるまで裂かれたのだから、とてつもなく絶望したはずなのに。「悔しい」「悲しい」の感情を抑え込んでまで、その場の空気をなんとか明るくしようと努めた自分が可哀想で仕方ない。今なら目の前で自分の絵を破られたら、キレ散らかす自信が大いにある。当時はよく耐えたと思う。私の描いた絵を否定されたのは、これが初めてだった。
この他にも絵に関して悲しい思い出は沢山あるが、一番ショックだったのはこの思い出である。それでも今も、趣味で絵を描いているんだからすごいと思う。
私はこれをいじめだと思ったことはなく、ただ、「絵を否定された」という経験、思い出があったな、というだけの認識のまま、今の今まで生きており、趣味で絵を描いている。
今でも鏡○リンを見ると、たま〜に、この時を思い出す。それでも、鏡音リ○は今も大好きだし、絵を描くことも大好きなのである。
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