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THE WHOのLIVE AT LEEDSとJIMI HENDRIXの話

ザ・フーの『ライブ・アット・リーズ』は、1970年に世に放たれた、60年代の混沌を包括して音で表現しパッケージングした稀有な作品でしょう。英国リーズ市にあるリーズ大学で行われたパフォーマンスは、凄まじく暴力的で有機的です。その有機性こそ60年代後半のロンドンが『スウィング』していたという事実を物語っており、フーがそれを世界に知らしめたといって良いでしょう。

この作品の、とりわけピート・タウンゼントのギタープレイの背景には、ジミ・ヘンドリクスの存在が大きく影響していると思います。このアルバムとジミ・ヘンドリクスの関係を理解する事で、60年代後半から70年代初頭の音楽シーンにおけるジミの影響力と、ジミと当時のイギリスのミュージシャンとの間で生まれたバイブスの一端を見ることができるでしょう。

初めてジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンスのステージを観たピート・タウンゼントが、エリック・クラプトンと共に『あんな奴が来たら、俺たちの仕事が無くなるかもな』なんてことを語らったというエピソード(事実かは不明)が有るように、ピートはジミのギターから影響を受けていました。クラプトンもジミに強烈なほどのリスペクトを抱いていて、同じブルース・ギタリストとして深い交流を重ね、かなり影響を受けていたようです。クリームの『カラフル・クリーム』のギター・サウンドを聴くと、その影響が顕著に伺えます。彼は後にリリースされる『愛しのレイラ』がサザン・ロックやスワンプのようなアメリカンなサウンドになっている事などから分かる様に、親交のある周りのミュージシャンからの影響が分かりやすく作品に現れる人だということが分かります。

ピートがジミから受けた影響は、クラプトンとは少し異なるというのが僕の仮説です。
ピートとジミの類似点の一つに『ラウドなサウンド』というのが有るかと思いますが、この要素に関してはジミが渡英する前からピートは持っていましたし、あまりジミからの影響は関係無いように思います。ザ・フーのデビュー・アルバムである『マイ・ジェネレーション』でも、咆哮するディストーション・ギターが聴けると思います。

ではどのような影響を受けたか…それは、今まで聴衆が体験したことの無いような、人智を超越したあのエレキ・ギターの新しい奏法による『ライブでのカオスなインプロビゼーション』だと私は思います。ビートルズは録音技術を駆使してロックにアートの要素を見出した功労者だと思いますが、ジミのこの発明には、ビートルズと同等の功績があるでしょう。
ザ・フーの『カオスなインプロビゼーション』を最も分かりやすく体験出来る音源が『ライブ・アット・リーズ』です。フーのライブ・アルバムは他にもありますが、あそこまでアグレッシブなアンサンブルが聴けるアルバムは『ライブ・アット・リーズ』だけでしょう。その由縁は、あのライブが録音された1970年の時代性が大きく関係していることは否定出来ません。今まで人々が体験出来なかった宇宙的なまでの音楽/パフォーマンスを目の当たりにできた時代を作ったのが、紛れもなくジミ・ヘンドリクスだったのです。
その証拠に、ジミの死後、音楽シーン自体が大きく舵を切ることになります。ザ・フーも1971年リリースの『フーズ・ネクスト』では、シーケンスの導入や、先述のエリッククラプトンのようにサザンロック的な要素が聴くことが出来ます。


ジミ・ヘンドリクスのサウンドは数えきれない程のフォロワーに影響を与え、今もなお息づいていますが、60年代の時代性を道連れにして葬ったのも、またジミ・ヘンドリクスなんだろうと思います。
だからこそ我々は、60年代に対して極彩色のような華やかさや、未知のロマンを感じるのでしょう。

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