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2. マッキントッシュ, 3. ヒューマンインターフェイス ガイドライン [2020.6.2]

2.  マッキントッシュ(Macintosh)

ガイダンスでの説明のとおり、認知の理論を学ぶ前にインタフェース。デザインの様々な事例を見ていきます。今回は、美大の学生にはおなじみのMac(マッキントッシュ:Macintosh)を取り上げます。MacはApple社が販売しているパーソナルコンピューターですが、コンピュータを製造・販売している会社はもちろん他にもあり店頭にはたくさんの製品が並んでいます。認知科学の講義で、個別の企業の製品名を出すのは、Appleの宣伝をしたいわけではなく取り上げる理由(わけ)があるからです。

今では、MacintoshやiPhoneに限らず、Microsoft社のWindowsやGoogle社のandroidなどのOS(Operating System:オペレーティングシステム)が動作するデスクトップ・コンピューターやタブレットPC、スマートフォンがいくつもあり、それらはみな直感的に操作できるため、たぶんそれが当然のことように思うでしょう。
みなさんがMacのOSXなどを操作しているときに見ているアイコンが並ぶ「画面」は、一般にGUI (グラフィカル・ユーザ・インタフェース)と言われています。今でこそいろいろなコンピューターがGUIで直感的に操作できますが、初めからすべてのコンピュータがGUIだったわけではありません。詳しくは授業の別の回で取り上げますが、GUI以前のコンピュータは、専門的な勉強をした上で使えるようになる機械で、「誰にでも使える」ものではありませんでした。

個人のツールとしての「パーソナルコンピューター(Personal Computer)」の歴史をひもといていくと、わかりやすさや使いやすさの実現に注力したApple社はその分野の先駆者であり、インターフェース・デザインの発展に貢献したことがわかります(注)。学生のみなさんがふだん何気なく使っているコンピューター(OSとアプリケーション)について、そのわかりやすさや使いやすさを重視して「誰でも使えるコンピューター」の実現を目指したAppleとMacintoshについて見ていくことにします。
(注:もちろん他にも貢献した企業や研究は数多くあります。GUIはAppleが発明したわけではなくMacintosh以前にもGUIを応用した製品は存在しています。)

3. ヒューマンインターフェイス ガイドライン

3-1. Human Interface Guidelines: The Apple Desktop Interfaces(日本語版,1989)

パーソナルコンピュータをわかりやすく使いやすくするために、Appleが行ったことの一つが「ユーザーインターフェイスガイドライン」の策定です。誰にでも使えるコンピューターを実現するために、様々な研究に基づいて使いやすくするためのポイント(重要な事柄)をまとめて、開発者やデザイナーに提示しました。このようなガイドラインを示すことによって、OSの上で実行されるアプリケーション・ソフトウェア(Illustratorのようなソフトのこと)もまた使いやすくわかりやすいものとなります。ここでは、その基本的な考え方や内容について学んでいきます。

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上の写真は、1989年11月27日初版の「Apple Human Interface Guidelines: The Apple Desktop Interfaces(日本語版)」です(講師私物)。1987年の英語版の日本語訳です。本書の「はじめに」には、以下のようなことが書かれています。(同書より引用)

アップルコンピューター社が創業時より持ち続けているビジョンがあります。それは、コンピューターが持つ多彩な能力と機能をコンピューターの専門知識をお持ちでない方々に容易に利用していただくと言うものです。この目的の達成の大きな布石となったものに、 Apple Desktop Interface(アップルデスクトップインタフェース)があります。(中略)本書は、Apple Desktop Interfaceの根幹をなす概念を明らかにし、これに対応したソフトや製品の開発をサポートする各種ガイドラインを提示するものです。(同書 はじめに  xiページ)
アプリケーションの開発では、その設計に先立ちApple desktop interface に関する理解を含め深めておくことが理想的です。また、インターフェイスの詳細を知るだけでなく、その背景にある開発の精神も把握した上で設計を行えば、最終的にはアプリケーションの品質を大きく向上させることになるでしょう。ヒューマンインターフェイスの設計は開発の最終段階で行うものではなく、開発の基本となるものだからです。(同書 はじめに xiページ)

ユーザーインタフェースガイドラインには、インタフェースデザインを考える前提となる設計想や、使いやすさのために考慮しなければならないことが提示され、インタフェースのデザインにおいて具体的に守るべき細かなルール(規則)が書かれています。

内容の一部を紹介すると「一般的な設計原則」として次の10個が示されています。

比喩の使用
操作の直截性
見たものを指示する(“憶えてキー操作する”かわりに)
一貫性
WISYWIG:スクリーンで見たままをプリントする
ユーザによるコントロール
フィードバックとダイアログ
寛容性
安定性
美的完成度

これら設計思想の多くは現在のガイドラインにも受け継がれており、この時代から現在まで、Appleがユーザーインタフェースをいかに重視してきたかを示しています。またこれらの原則は、Apple製品のみならず、多くのUIデザインに広く適用できるものです。

3-2. Human Interface Guidelines (2020)

では、現在のヒューマンインターフェイスガイドラインを見てみましょう。リンク先の多くのテキストは英語で提供されていますが、一部、日本語で読める部分もあります。

みなさんが、将来デザイナーになったとき、あるいは学生でもインターンやアルバイト先でiOSなどのアプリ開発やUIデザインをする場合には、このガイドラインに準拠することが求められます。デザイナーとしてUIデザインに関わる場合には、少なくとも重要な部分についてデザインの考え方や原則を理解しておく必要があります。
かつては、美しい表現と使いやすさのどちらを優先するか?という議論があった時代もありますが、今はこれら2つは相反するものではなく「美しくて使いやすい」というのが基本的なUIデザインの考え方です。かっこいいけど使いにくい、わかりにくいというUIが良いと評価される場面は、いまの世の中ではほとんどなくなっています。

授業でガイドラインのすべてを紹介することはできないので、一部のみ説明します。iOS(iPhoneのOS)のHuman Interface Guidelineを見てみましょう。

Themes(デザインテーマ)として、卓越したアプリをつくるためのポイントとして、
・Clarity(明解さ) 
・Deference(他との違い)
・Depth(深さ)
の3つが上げられています。

また、Design Principles(デザイン原則)として次の項目があります。
・Aesthetic Integrity(審美性)
・Consistency(一貫性)
・Direct Manipulation(直接操作)
・Feedback(フィードバック,反応)
・Metaphors(メタファー,たとえ)
・User Control(ユーザーによるコントロール)
いくつかの原則は、初めに紹介したヒューマンインターフェイスガイドライン(1989)のころから受け継がれていることがわかります。

3-3.詳しく学びたいひと向けの解説(記事)

より詳しく学びたい人は以下の記事や解説が参考になると思います。

3-4. WWDCの講演から

Appleでは開発者向けのイベントを開催していますが、その中でもユーザーインタフェースに関する講演がいくつも行われています。興味のあるいひとは観てください。

2018年のWWDC(世界開発者会議)から、iPhoneXの「滑らかなインタフェース(Fluid Interface)」のデザインについて(日本語字幕あり)

2017年のWWDCから、基礎的なデザイン原則(Essential Design Principles)について(英語と中国語の字幕のみ)

まとめ

MacintoshのUIとヒューマンインタフェースガイドラインについて見てきました。ガイドラインは守らなければいけない面倒な制約ではなく、ユーザーにとってわかりやすく使いやすアプリをどのように実現したらいいか?という助言でありまさにガイドになるものです。これから、学科の演習授業の中で、ウェブデザインや、アプリのUIデザイン、その他ユーザーが使うツールなどをデザインする場合には、これらのガイドラインにある考え方や知識、原則などを利用してデザインを考えていくと良いと思います。
また、これらは、将来アプリやUIをクライアントから依頼されてデザインする立場(デザインファームのUIデザイナー)や、開発する側(IT企業、事業会社などのインハウスデザイナー)、になった時に必要になる知識です。アプリを発注する側にいたとしてもある程度知っておくとUIをチェックすることでUX(ユーザーの経験価値)を高めることができます。

この先、VRなどの新しいデバイスが登場したりOSの機能が増えたりすれば、ガイドラインの内容も更新されていきます。技術は変わっても、インタフェースガイドラインを知った上でデザインすることで結果的にデザインや開発の試行錯誤を減らすことができます。使いやすいアプリが実装されればユーザーの離脱も減り、利用の満足度も上がります。自分がユーザーの立場なら、使いにくいアプリは即削除、わかりにくいサイトからはすぐ離れると思いますので、まだ作る側の立場でなくともその価値は理解できるのではないでしょうか。

今回は、OSXやiOSを中心に説明しましたが、Windowsやandroidにも同じようにインタフェースに関するガイドラインがあり,優れたユーザーインタフェースの実現に寄与しています。それらについてもぜひ調べてみてください。

●考えてみましょう

ヒューマンインタフェースガイドラインは重要だという話をしてきましたが、まれに、これまでにない革新的な機能や操作性を実現するために「ガイドラインをあえて守らない」アプリが登場することがあります。それらが市場に広く受け入れられる場合もあり何が正しいのか答えはありませんが、だからといってガイドラインを無視して好き勝手やっていいということでもありません。
以下は、TikTokやSnapchatを例にした記事です。みなさんはどう考えますか?また、もし自分が競合アプリのデザイナーだったらどのようなUIデザインを考えるでしょうか?(正解はありません)

おわりに

これまで、ユーザーとして見てきたMacintoshやOSのユーザーインタフェースについて、見る目が変わったでしょうか?あらためて、機能やGUI、操作や画面の動きなどに注目してPCやスマホを操作して観察してみてください。デザイナーの意図やそのUIデザインの善し悪しがわかるようになることが、この分野の専門家への第一歩です。