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1. メディアラボ [2020.5.26]

MITメディアラボについて

今日は、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究所「メディアラボ」(MIT Media Laboratory)について取り上げます。コンピューターサイエンスほか多くの分野で優れた研究成果を上げている研究所です。ユーザー・インタフェースや認知科学に関する研究の中から、著名な研究者数名と研究成果、関連する事例などについて学んでいきます。
もちろん、メディアラボ以外にも、世界には認知科学やユーザー・インタフェースに関する研究を行なっている多くの優れた大学や研究室があります。今回は、そのような「研究」の世界に触れる入口としてMITメディアラボを紹介していくことにします。
まず、マサチューセッツ工科大学とメディアラボのサイト(英語)です。

新館は槇文彦の設計。(かっこいい)

メディアラボについて日本語で読める本です(2012年刊なので研究内容は当時のものです)。

メディアラボの研究者

今回は、次の5名について紹介していきます。いずれも世界的に著名な研究者です(過去の在籍者を含みます)。
 ・マービン・ミンスキー(Marvin Minsky)
 ・シーモア・パパート(Seymour Papert)
 ・アラン・ケイ(Alan Kay)
 ・石井 裕(Hiroshi Ishii)
 ・ジョン・マエダ(John Maeda)

マービン・ミンスキー(Marvin Minsky)

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いまは、ニュース等でAI(人工知能)という言葉は普通に目にしますし、AIがチェスや囲碁の対戦で人間のプロ棋士に勝ったことを覚えている人も多いと思います。ミンスキーは、計算機(コンピュータ)で人間の知的な能力を実現するための研究を行い、Artificial Intelligence(人工知能)のもとになるモデルを考案して「人工知能の父」と呼ばれています。

ミンスキーは、著書「心の社会」の中で、心は「エージェント」が集まってできているというモデルを提示しました。

【エピソード】対面授業では本の現物を授業中に回覧していました。以前、メディア芸術コースの学生さんが授業で紹介した「心の社会」を読破して、「すごく面白かったです!」と報告しに来てくれたことがありました。他にも「読みました。」っていう人がたまに出てきます。かなり難しい本なのですが、美大生の中に時々ミンスキーに「ハマる」ひとがいるのが興味深いです。(僕は、むかし読み始めてみたものの途中で心が折れてそのまま本棚の中、です。)

ミンスキーのそのほかの著書も紹介しておきます。
「創造する心」は子供の教育について語ったエッセイを収録しています。

シーモア・パパート(Seymour Papert)

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パパートは、教育用のプログラミング言語 LOGOを開発したことで知られています。LOGOでは、画面上のタートル(亀)に指示を出して移動させ描画する(タートルグラフィックス)ことができるプログラム言語で、子供でもプログラミングの概念を楽しく学ぶことができます。

パパートの研究はまた、LEGO社によるLEGO MINDSTORM(レゴ マインドストーム)というプログラミング可能なロボットトイに結びつきました。リンク先でレゴブロックを使ったプログラムできるロボットの教材を見ることができます。

アラン・ケイ(Alan Kay)

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アラン・ケイは、パーソナルコンピュータの原形とも言える「ダイナブック(Dynabook)」構想を発表しました。いまの学生のみなさんは「なんだ iPadじゃないか?」と思うかも知れませんが、1972年、まだコンピュータが大きく高額で会社の業務にしか使われていなかった時代に「個人が使うコンピュータ」を構想したのは驚くべきことです。初代のMacintosh(9インチ白黒画面)が発売されるのは1984年のことですから、アラン・ケイの先見性と革新的なビジョンがわかります。
以下は、その「ダイナブック」についての記事です。

石井 裕(Hiroshi Ishii)

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石井教授は、現在メディアラボの副所長を務めています。「タンジブル・ビット」の研究を進めています。タンジブルは「触れる」という意味です。最近は、それを進めて「ラディカル・アトムズ」というコンセプトを提唱しています。

2000年にICCで行われた展覧会のサイトが残っていたので紹介します(リンクは作品ページ)。当時、会場に見に行って衝撃を受けました。カタログとして出版された書籍が本棚にあるので、興味のある人には学校に入れるようになったらお見せしましょう。2020年に見ると、学生のみなさんには驚きはないかも知れませんが、20年前の技術でこのような研究が生まれていたのです。

タンジブル・ビットの研究成果はメディアラボの tangible media groupのサイトでたくさん紹介されています。研究プロジェクトは以下から。(英語がわからなくとも映像でわかります。必見です。)

石井教授は日本でも多くの講演をしており、日本語での講演がネットにたくさんアップされています。時間のある時にぜひ見てください。ひとつだけ2018年の講演を紹介します。
MITメディアラボ 石井裕教授 基調講演(12月4日 イノベーションフォーラムin SENDAI 2018)

記事もいくつか紹介しておきます。石井教授のtwitterアカウントも。

ジョン・マエダ(John Maeda)

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IT分野で知らないひとはいないというくらい有名で、知ってますよね?で済ませたいくらいの研究者です。コンピュータサイエンスもデザインもわかる、美大の学長もやったことがあり、CXOでもある。肩書きを付けて型にはめるのは難しいですね。
上記の名前にもリンクを貼ってありますが公式サイトにこれまでの作品や研究がまとめられています。左側メニューの中ほど、TED Talksは自動翻訳の字幕付きでみることができます。下の方のMorisawa 10やSpace Diagramsは、illustratorのような描画ソフトではなくプログラムで描かれています(作品の発表当時は、コードでデザインするデザイナーはほとんどいませんでした)。

【エピソード】マエダ氏には、1990年ごろに多摩美の上野毛のキャンパスでお会いしたことがありますが(当時、筑波大学の大学院に在学していたかデザインの学位を取ったあとくらい)、持っていたノートには美大の学生のようにグラフィックのアイデアスケッチが描かれていました。そして(これが驚きでしたが)その横にいくつかの数式がさらっとメモされていたのが印象に残っています。

こちらも注目度の高い仕事です。テック分野におけるデザインの現状と未来を示す「Design in Tech Report」は毎年注目を集めています。

最新のCX Report(英語)、そしてデザインについて語る記事もひとつ紹介しておきます。

●調べてみましょう

興味を持った研究者や研究分野、トピックス等について検索してみましょう。
[検索のためのアドバイス]
海外の研究者について検索をする場合には、英語でも検索をする習慣をつけてください。日本語で読める情報は限られていますので、英語で検索をしてみるとたくさんの項目がヒットします。英語が苦手だと言う人もいるかもしれませんが、翻訳ソフトの性能も上がってきていますし、画像や映像は見ればわかるものもあります。Youtubeなどの動画サイトでは自動翻訳の字幕を付ければ(不十分ではあっても)大まかな意味はつかめます。おそれずに英語で検索してみましょう。
専門分野の勉強は、講義ノートさえ読めばそれでOKと言うことでもありません。説明文の中の下線が付いているところにはリンクが貼ってあります。必ずしも全部を読む必要はありませんが、より幅広く深く勉強したい人はリンク先を見てさらに探求をしてください。

まとめ

メディアラボの研究者、研究成果を駆け足で見てきましたが、そもそもとても1回では紹介し切れません。これをきっかけに興味を持った分野や研究テーマ、研究者を深堀りしてみてください。
美大生は(コンピュータサイエンスなどの)「研究」に触れる事はあまりないかもしれませんが、ユーザー・インタフェースの分野はテクノロジーの進歩と常に隣り合わせです。また、人間の認知や理解の仕組みの解明も進んでいます。美術やデザインの動向だけでなくこれらの研究についても関心を持っておくとよいでしょう。

配布資料について(Classroomより配布)

「メディアラボ」(「認知的インタフェース」より)
設立当初の雰囲気が伝わるでしょうか?内容が古いので参考としてざっと目を通してみてください。

●ミニレポートについて

Classroomから配信します。確認してください。

付記:

メディアラボは、昨年、未成年者への性的搾取の疑いがある投資家ジェフリー・エプスタイン氏から研究資金を調達していた件で批判を浴び、伊藤穣一所長(当時)が辞任しています。社会の中で研究所や大学がどのようにふるまうべきかが問われている、ということも最後に申し添えておきます。