いきてるふたり

 私の祖父母は一緒にお風呂に入っていた。
 今まで、洗濯に風呂水を使っていたのだがドラム式に変わってからは追い焚きをするようになった。私は2日目のお湯を使いたくないので、祖父母が先に入る。するといつもお湯がいろいろな色に変化している。
 祖父は耳が遠くなってしまったので、祖母がうんざりしながらも大きな声を出している。
 祖父が頑固にも毎食米を炊くので、祖母はいっぱい炊いて冷凍すればいいのにと愚痴を言っている。
 祖母は72歳で胃がんのステージ4だった。
 余命宣告された期限から半年過ぎた。
彼女は好き嫌いが多い。まず野菜を好きではない。思い出してみると、夕食に出てくるサラダは、レタスとトマトと薄く切ったきゅうりだった。そしてさらに、3日に1回は揚げ物が出てくる。そしてお菓子を食べる。
 
 ふたりは東京で出会った。
青森から高校に進学せず東京に出稼ぎに来ていた世間知らずな女の子と、これまた出稼ぎに来ていた京王線の下請け小僧は、ある知り合いを通して知り合ったという。それは熱く雄上がる自由恋愛の象徴であった。
 
 ふたりの挙げた式場も、建てた家も、通った職場も、使った商店も、信用金庫も学校も銭湯も蕎麦屋もヤマザキショップもクリーニング屋も薬屋も、お墓さえもこの町にある。

あの世にもお風呂があったらいいな。
 

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