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なぜアスカはグンペイをプレイしていたのか

※ タイトル以上のネタバレはありません
※ 余談のところに少し追記しました。
※ ネタバレを含む続編へのリンク最後に追記しました。(2021.03.19)

「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の中でアスカがレトロな携帯ゲーム機で遊んでいるシーンがある。ゲーム画面がはっきりと出るシーンもあるが、見るからにワンダースワンのグンペイである。はい僕が一匹釣れました。

なぜワンダースワン(以降WS)のグンペイなのか。レトロゲームファンの筆者としては、この理由を考えずにはいられない。
最初にゲーム機がチラリと映った瞬間、「あ、これはワンダースワンだ。そしてソフトはグンペイだ」とピンと来るものがあった。それには理由がある。

まず劇中の状況的に、現代のネットゲームのようなものは機能していないと考えられる。となれば登場する携帯ゲームはスタンドアロンのものが自然だ。ボタン形状も独特なのでWSがモデルだとすぐわかる。そして単三電池だけで動くWSをアスカが何らかの形で入手し、暇つぶしに遊んでいるというのは理にかなっている。

電池で動くということであれば初代ゲームボーイシリーズも候補に挙がりそうなものだが、ここではWSがチョイスされている。あえてWSが選ばれたということは、そのゲームカートリッジはWSにしかない特殊なものであることが必然で、数あるWSのソフトの中でも特別な意味を持つグンペイが有力候補となる。
そして実際にアスカはそのグンペイらしきゲームで遊んでいた。
グンペイ風とかではなくむしろグンペイそのものが出てきてしまったことに正直驚いたが、大事なのはグンペイに込められているメッセージである。


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そもそもグンペイとはどういうゲームか。
グンペイはテトリスのような落ちものパズルに分類されるゲームである。
ブロックの列が下から競り上がってくるが、そのブロックの中には線が描かれている。プレイヤーはボタン操作でブロックの位置を交換し、線を左端から右端へと繋ぐことでその線を消すことができる。線の種類は4種類あり、いろいろな方法で接続できる。新しいブロックは延々と出現し、消し残した線が画面上部に達するとゲームオーバーとなる。

グンペイに何を象徴させているかの推測はシンプルだ。
作画や演劇の作法では、向かって右側を上手、左側を下手と呼び、それぞれ過去と未来を表す。
演劇は能の作法から、漫画では右から左へ読む流れから左が未来となる。逆に日本語や英語の文章、数学のグラフなどは左から右へが未来となるが、いずれにせよグンペイのゲーム画面の左右の壁は、過去と未来を象徴しているということが見えてくる。

つまり、左と右を線でつなぐゲームをプレイし続けるアスカの姿は、過去と未来をより完全な形で繋ぐことを試行錯誤をしているというメタファーであると捉えることができる。

ご存知の通りエヴァという作品自体が、繰り返しというモチーフを持っている。マルチエンディング式のゲームのように、ストーリをどう分岐させどう結末させていくかという試行錯誤を重ねていく物語である。

そして今回の映画は「さらば、全てのエヴァンゲリオン」というキャッチコピーが示すように、伏線を回収し、全ての登場人物があるべき形で本懐を成就させていくという真エンディングへの試行という位置付けであろう。

実はグンペイにはパズルモードがある。
パズルモードでは画面にあらかじめたくさんの線ブロックが配置され、左右の接続が許されるチャンスは1回。その1回の接続で全てを完全に連鎖させることができれば、画面の線が一掃されてクリアというモードである。

このパズルモードはエヴァンゲリオンのテーマにより相応しく感じる。
完全連鎖を狙って周到に準備をしようとしても、プロセスの中で一度でもミスをすると不完全なままで連鎖が発生してしまう。連鎖が発生してしまうともはや止める術はなく、いくつかの線が残ってしまい不完全なままゲームオーバーとなる。
しかしゲームであるから、コンティニューで同じ面に挑戦することができる。成功するまで何度でもだ。

グンペイで線の連鎖させる方法は左から右への一方通行ではない。あるときは枝分かれしたり、逆戻りしたり、また1点に集まったりしながら進むことができる。とにかく全ての線が繋ぎ合わさり、全ての線が両端と繋がっていればよいのである。このゲームルールが、これまで作られた全てのエヴァンゲリオンの辻褄を繋ぎ合わせ、連鎖させていくというテーマのアナロジーになっていると見ることができる。

グンペイをプレイするアスカは、エヴァンゲリオンの作中においては世界のプレイヤーでもあり、またピースの一つでもある。
彼女は自分自身の立場、世界の中で試行錯誤する役割をこのゲームに投影し、繰り返しプレイしているのだ。たぶん。

今劇場版で試行される世界において、彼女もようやく関係者や世界と正しく接続され、あるべき形に成就していくのであろう。


余談

・コメント欄でご指摘を受け改めて破を確認してみましたが、ピピンのロゴやファミコンカートリッジのラインがありました。劇中に登場するアイテムはTV版が作られた95年の時点から予想可能だったものでないと繰り返しの物語としてはフェアではない気がします。pipinは96年3月発売でロゴはギリギリ存在可能と言えそうですが、そもそもワンダースワンとグンペイは99年の発売でした。WSは2015年の時代設定での登場物しては整合性がありますが、95年に作られたSFアニメの平行世界に出すアイテムとしては若干チート感があります。まあ細かい話です。(2021.03.18追記)

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・縦持ち、横持ち、スティックについて。破では上記のようにWSを縦持ちで遊んでいます。シンではたしか横画面バージョンでした。自分は目視しそびれましたが、ボタンの代わりにスティックがついているという情報もネットにありました。PSPぐらいの時代になってもWSが新型機を投入しつづけているという素敵な世界観かもしれません。(2021.03.18追記)

・WSが登場したのは単純にバンダイがスポンサーだからという話もありますが、出資関係についてエンドロールを確認しそびれました。(2021.03.13追記)

・前作ですでにWSが登場しているようです。完全に忘れてました。なのでゲームタイトルについては前作が伏線、今作がそのネタバラシという位置付けのようです。(2021.03.13追記)

・今作の出陣時、プラグスーツを装着するシーンでWSの起動音がミックスされていたような気がしますが、パズルに再挑戦、という意味かと思います。(2021.03.13追記)

・個人的にはグンペイの画面を出すのは親切すぎると感じたが、これが最終回であり謎を一切残さず完結させるという意味では正しいとも思える。

・エヴァの初放送が1995年、WSの発売が1999年、そして初代ゲームボーイが1989年なので、エヴァの世界から見た未来の中でのレトロという意味でもWSは適役である。グンペイはWSのローンチタイトルでもある。

・WSには「新世紀エヴァンゲリオン シト育成」というパラレルワールドもある。たまごっちのようにシトを育成する妙なゲームのようだが今回の伏線回収の対象となったのかは知らない。

・映画キングコングに登場する日本軍戦闘機パイロットの名前が「グンペイ・イカリ」であり、監督のヴォート=ロバーツがゲームクリエイターの横井軍平と碇シンジから取った名前であることを明かしている。
https://natalie.mu/eiga/news/219734

・横井軍平氏について語れば長い。「枯れた技術の水平思考」の哲学で任天堂から数多くのヒット商品を生み出した、言わずと知れた巨人である。グンペイを発表したのは任天堂を退社し新会社コトを設立してからである。残念なことにグンペイが遺作となってしまったが、退社と独立は繰り返されるゲーム機開発戦争からの脱却のようにも見え、グンペイを劇中に登場させたことはループから卒業し次に進むということを象徴させているようにも感じられる。

続き

ネタバレを含むグンペイ考察の続きを書いてみました。本編を鑑賞済みの方はぜひどうぞ。

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