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ガラスについた雨粒越しに見る風景

真夜中に主人公が戦争映画を観ていると、時間の逆転現象が始まり、映画が逆回しに進んでいく。戦闘機は爆弾を回収し工場へ運んでいく。工場では女性たちが爆弾を解体していく。そして兵士たちは母親の子宮に帰っていく。それはカート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』の1シーンで、このアルバムを聴いていると、そこからここへ、ここからそこへ、といった場所や時間がずれていくような揺らぎを感じる。隣家で鳴っているようなサウンドであり、ガラスについた雨粒越しに見る風景に過去の記憶が重なり揺らぎ移ろい消えていく。まだ20代にもかかわらず、素晴らしい才能であり、素晴らしいキャリアの始まりだ。私がまだ20代の頃は、もっと愚かで人々の期待を裏切るようなミニマルなポスト・ハードコアとスティーブ・ライヒとフェデリコ・モンポウの影響を受けたバンドを組んで、小規模で閑散としたライブハウスで演奏していた。まるで夢みたいだ。


音楽と音楽の記憶とそのメモ。