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【コラム】何がウィニーでバレットでツールボックスか

あのあのあのあれ、何て言うんだっけ。
ポケモンがなんかごちゃごちゃいっぱい入ってるデッキのこと。
ウィニー?バレット?ツールボックス?
そんな皆様のために、ポケモンカード歴約27年の私めが、どこよりも詳しくまとめて参りました。
「ウィニー」「バレット」「ツールボックス」という、強い関連性を持つ3つのデッキタイプ。
この機会にしっかりすっきり詳しくなってください。

大前提として、これらの専門用語はいずれも俗語に過ぎず、指標とすべき明確な定義はありません。
しかし、それらがどのように世に降り立ち根付いたかを知ることは、目の前にあるデッキをどのように呼ぶべきかという問いの手がかりとしてきっと役に立つはず。

情報量がちょっとばかり多いので胸焼けの可能性もまあまあ否めませんが、よろしくお付き合いください。
忙しい人は最後のまとめだけ読んでください。
レッツ ゴー!


言葉の本流「マジック:ザ・ギャザリング」について

ポケモンカードゲームは、トレーディングカードゲームの元祖である『マジック:ザ・ギャザリング』(以下「MtG」)に着想を得て開発されました。
そのため、ゲームシステムにも類似点が多く、「マリガン」や「ハンデス」等ユーザー間で使われる専門用語もMtG由来のものが数多くあります。
「ウィニー」「バレット」「ツールボックス」も漏れなくその仲間です。
よって、これらについて語る上ではMtGへの言及を避けて通れません。
以降、MtGのことがよくわからない方は、MtGの話はなんとなく読み流してください。

「ウィニー」とは

「ウィニー」は、デッキタイプの総称の一つです。
比較的HPの低いたねポケモンをメインアタッカーに据え、比較的少ないエネルギーでワザを繰り出しながら序盤から切れ目なく攻め続ける、というようなデッキに名付けられることが多いです。
要するに速くて脆くて数が多いのがウィニーだと思っておけばまあ大体大丈夫です。

MtGのWikiでは、「ウィニー」は以下のように説明されています。

ウィニー(Weenie)とは、マナ総量が1~2程度の軽量クリーチャーを指す総称。または、そのようなクリーチャーを主体としたビートダウンデッキの名称。
(中略)
ウィニーデッキは、ウィニークリーチャーを主体としたビートダウンデッキであり、カードを低コスト域に集中させ、大量のクリーチャーを高速で展開することを目的とする。

ウィニー - MTG Wiki(2024.4.2 3:39確認)

「軽量」「大量」「高速」辺りがキーワードですね。
「マナ」はポケモンカードにおける「エネルギー」、同じく「クリーチャー」は「ポケモン」に相当するもので、どちらのゲームでも似たような根拠によってウィニーというデッキタイプの分類が可能になっています。

次に、ここで説明されている「Weenie」という言葉が一般的にどのような意味を持つのか、英和辞書で調べてみましょう。

1ウインナソーセージ
2弱虫;へなちょこ(◆主に子どもが使う)
3コンピュータオタク;ガリ勉
4((俗・小児))おちんちん

weenieの意味 - goo辞書 英和和英(2024.4.2 3:46確認)

なるほどなるほど。
そもそものウィニーという言葉の持つニュアンスがなんとなく掴めるかと思います。
なんか小さくてかわいいやつっていうかそんな感じです。

ウィニーの興り「カスミウィニー」(ポケモンジム、1998年)

誰がいつポケモンカードの世界にウィニーという言葉を持ち込んだのか、今となっては知る由もありません。
自分が言えるのは、「カスミウィニー」というデッキタイプがポケモンカードの歴史の中で「ウィニー」と呼ばれたデッキのうち最も古いものの一つであるということです。

人呼んで「カスミウィニー」。
メインアタッカーはわずかHP40のカスミのヒトデマン(カスミデッキ)。
1エネ確定20ダメージと、当時のカードプールでは相当に効率のよいスターブーメランが主力ワザ。
カスミの20ダメージやプラスパワーの10ダメージずつの追加を重ね、最初の番から猛攻を仕掛けます。

サイズ感からしてもこのデッキはウィニーと呼ぶに相応しいでしょう。最も、主なプレイヤー層であった子供達はMtG用語であるウィニーという言葉に馴染みがなく、どちらかと言えば「カスミ速攻」と呼ばれることの方が多かったかと思います。
構築済みデッキ「カスミデッキ」の発展形であることから、発売後の早い段階で成立し明確にウィニーと呼ばれていました。
その後、「カスミのニョロモ(GYM1)」の追加をもってほぼ完成形となります。

当時のポケモンカードのレギュレーションは、大型公式大会のために特別な制限が設定されるのみで、今でいう殿堂ポイントのような恒常的な制限はありませんでした。
店舗大会等小規模なイベントではそれまでに発行されたカードが全て無制限で使えることがほとんどでした。
特に勝利数が重要なイベントにおいて、大きなお友達が小さなお友達相手に手っ取り早く勝利数を稼ぐには、カスミウィニーはお誂え向きのデッキでした。

ちなみに、エレブー(第1弾)等を中心とした所謂「たね速攻」デッキはウィニーに相当するデッキかと思いますが、当時のログもなく自分の記憶にもないためここでは言及しません。

【カスミウィニーの例】

ウィニーの地位を固めた「マグマウィニー」とその類型(ADV、2004年~)

ウィニーという言葉がポケモンカードプレイヤー達の間に広まっていく上で、カスミウィニーより大きな役割を果たした一つのデッキがあります。
それが「マグマウィニー」です。

「マグマウィニー」は、ポケモンカードにおけるウィニーデッキとして最も高い知名度を獲得したデッキと言えるでしょう。
何せWCS2004優勝ですからね。
マグマ団のグラードンの、ちょくげきだんからすりつぶすに繋げてテンポよく攻めていくデッキです。
メインアタッカーとなるマグマ団のグラードンのポケボディー「パワーセーバー」だけでなく、サブアタッカーであるマグマ団のザングースのワザ「チームプレイ」も、数で戦うウィニーのイメージに沿うものです。
マグマ団のバクーダとマグマ団のネンドールのコンボ等もチームワークを感じさせます。

当時の公式大会で予選のレギュレーションとして採用されていたハーフデッキ(30枚)の形で成立し、後にスタンダードデッキ(60枚)版も作成されました。
この辺りの経緯は、当時「マグマ教祖」と呼ばれたももっちさんのnoteに詳しく記されています。

扱いやすいマグマ団デッキはじわじわと流行し、いつの間にか「マグマウィニー」と呼ばれました。
その一方で、このデッキをウィニーと呼ぶのが適切なのかどうかという疑問は、当時から挙がっていました。
その理由。
マグマ団のグラードンがデカすぎるため。
カードプールの標準的な1進化exくらいのHPがあり、「マグマエネルギー」やポケパワーによる補助があるとはいえ、メインのワザもエネルギーが3個必要です。
しかし、当時の対戦環境にはHP150くらいあってエネルギー4個で100前後のダメージを連発するような2進化exが多数存在したため、ゲームメイクのテンポやリソースの運用の面で相対的にこのデッキはウィニーでした。

あるいは、MtGと違ってポケモンカードゲームにおいては1対1の戦いしか発生しないので、集団戦を特徴とする「ウィニー」というデッキタイプそのものが存在し得ないという極端な意見もありました。
こちらは「そんな話もあったよね」程度の話ですが。

マグマウィニーを真似て作られたアクアウィニーと呼ばれるデッキもありました。
哀しいかな、似ても似つかぬ性能だったためここでは多くは語りません。

【マグマウィニーの例】

ウィニーの輪郭を歪ませた「Rウィニー」と「ラティウィニー」と同時期のウィニー(PCG、2005年~)

マグマ団のグラードンデッキはマグマウィニーである、という認識は世に浸透していきました。
一方で、ウィニーとはどのような意味なのか、どのようなデッキをウィニーと呼ぶべきかという問いは置き去りにされたままでした。
結果、ウィニーという言葉が独り歩きを始めます。
マグマウィニーっぽさを感じさせるデッキが次々とウィニーと呼ばれ、ウィニーとは何なのかが段々わからなくなっていきます。
その顕著な例として、「Rウィニー」「ラティウィニー」の例を紹介したいと思います。

R団のニューラex(PCG3)中心にR団のポケモンを多数採用したデッキは「Rウィニー」と呼ばれました。
読みは「アールウィニー」、または「ロケットウィニー」。
必然的に悪ポケモンを多数投入することとなり、「悪ウィニー」「黒ウィニー」等とも呼ばれました。

ハーフ(30枚)デッキでブラッキーexを採用したタイプのものは、開発者であるコイソさんによって「コイソウィニー」と名付けられ、これもそのまま一般化しました。
スタンダード(60枚)デッキのものは「わるいカイリュー」「わるいマルマイン」を中心に構築するものが主流で、こちらは「カイリューマイン」「マインカイリュー」という呼称もメジャーです。
といった塩梅で、構築と共に呼ばれ方のバリエーションも多岐に渡ります。

マインカイリュー型のデッキをウィニーと呼ぶべきかについては流石に異論が目立ちました。
1進化のわるいマルマインと2進化のわるいカイリューのためにデッキのスロットの大部分を割き、エネルギーを加速して付け替えるという動きを中心に戦う「コンボデッキ」としての性質がこのデッキの本質だからです。
少なくとも先述のカスミウィニーの「速攻」のコンセプトからは大きくかけ離れています。

しかし、先んじてウィニーデッキの代表格としての地位を確立していたマグマウィニーとの間に「悪の組織をテーマとしたポケモンを場に並べる」「システムポケモンとしての進化ポケモンを立てる」「自分の場のポケモンの数を参照する」等の共通点があり、「Rウィニー」はこの辺りの要素をもってウィニーと看做されていた節がありました。
ウィニーの何たるかを知らないポケモンカードプレイヤー達にとってそんな細かいことはどうでもよく、短くて呼びやすい「Rウィニー」はそのまま定着してしまいました。
マインカイリュー派との間で議論が発生することもなく、「Rウィニー」優勢のまま共存しています。

ラティアスexδ-デルタ種(PCG9)やラティオスexδ-デルタ種(PCG9)を使い分けて戦うデッキが「ラティウィニー」と呼ばれました。
多くの場合「ラティアスδ-デルタ種(PCG7)」や「ラティオスδ-デルタ種(PCG7)」も採用されています。
ハーフデッキとスタンダードデッキがありますが、どちらも似たような構成です。

これも「Rウィニー」と同じく、同族を揃えて戦うのがウィニーだと思われてしまったものの類型と言ってよいでしょう。
エネルギーの消費が激しいこともあって「待ち」の動きを取らざるを得ない場面も多く、その点もウィニーとはかなりかけ離れています。
ちなみに「ラティ単」とも呼ばれましたが、何せ投入されているポケモンの種類が多いので「単」ともそこそこかけ離れています。
もう「ラティ」でよかったじゃん。
駄目かな。

それはそれとして、同時期にウィニーデッキらしいウィニーデッキもしっかりといたので、ついでに紹介しておきます。

ルナトーン(PCG2)を中心に、様々なルナトーンやソルロックを並べて戦う「ルナソルウィニー」。
WCS2006シニア優勝のものが有名ですが、先んじて日本国内でもちらほら使われていました。
HP・ワザのダメージ共に小さく、ウィニーらしいデッキだと思います。

ユクシーLv.X(DP5)、エムリットLv.X(DP5)、アグノム Lv.X(DP5)を使い分けて戦う「クラゲウィニー」。
シルエットがクラゲっぽいのでクラゲ呼ばわりされていました。
コンボデッキ色が強いですが、サイズはウィニー的です。

【Rウィニーの例】

【ラティウィニーの例】

「バレット化」する「SPウィニー」と「プラズマウィニー」(DPt、2008年~)

DP後半のDPtシリーズでウィニーデッキに新たな徴候が現れました。
新要素である強いたねポケモン「SPポケモン」で構成された「SPウィニー」が登場し、配分の細かい構築がウィニーデッキに含まれるようになりました。

「SPウィニー」はSPポケモンを中心に構築したデッキの総称です。
DPt第1弾にあたる「ギンガの覇道」のSPポケモンが「G[ギンガ]」のポケモンばかりだったことから、「ギンガウィニー」とも。
定番化したものは「ガブレン」等個別の略称を獲得しました。
盤面をSPポケモンで固めて戦うマニューラG(Pt1)が最初期の注目株でしたが、構築のトレンドはめまぐるしく移り変わりました。
LV.Xや進化ポケモンが採用されているものも「SPウィニー」と呼ばれましたし、「G[ギンガ]」のポケモンを採用していないものまでがひっくるめて「ギンガウィニー」と呼ばれることもありました。
従って、SPウィニーという言葉の指す範囲はかなり広いです。

ところで、これまでのウィニーデッキは同種のアタッカーを多目に投入するものがほとんどでした。
しかし、このSPウィニーにおいては同じポケモンを1-2枚、所謂「タッチ投入」することでアタッカーを使い分けられるものが一般的となりました。
それが証拠に、英語圏でこのタイプのデッキについて検索すると「SP toolbox」と呼ばれている例がいくらか見つかります。
「SPツールボックス」という呼び方については、少なくとも当時の日本語圏では一般的ではありませんでしたが、これ以降「ウィニー」は「ツールボックス」(後の「バレット」)のようなニュアンスを纏う言葉となりました。

ここで寄り道。
ツールボックス的なウィニーデッキの例として、「ミノムッチウィニー」というデッキを紹介しておきます。

ミノムッチすなちのミノ(DP3)を起点に「そっくり!テレポーター」で様々なポケモンと入れ替わって戦うデッキは、作成者の朗(=ショウワル、ねこわる)さんによって「ミノムッチウィニー」と名付けられました。
マイナーデッキ中のマイナーデッキですが、公式ホームページに取り上げられる等の実績もあり、知っている人は知っているデッキです。
寄り道ここまで。

話を元に戻します。
その後のBWシリーズでもツールボックス的ウィニーデッキがまた一つ生まれます。

ボルトロスEX(BW8)や「アクロママシーン」で加速、デオキシスEX(BW8)で加点、キュレムがメインアタッカーを務めるデッキです。
「マグマウィニー」「Rウィニー」に続く「プラズマウィニー」ですが、どちらかと言えば単に「プラズマ団」と呼ばれることの方が多かった印象ではあります。
実際、ポケモンのサイズの大きさやエネルギーの消耗の激しさ等、ウィニーらしからぬ特徴も。
キュレムがメインアタッカーではありましたが、サポートを務めるポケモンも場面場面でアタッカーとしての運用が想定されており、柔軟性の高いデッキでした。

【SPウィニーの例】


絶滅危惧種となったウィニーの生き残り「バルキーウィニー」(SM9b、2019年~)

数値のインフレが進む中で、いつの間にかウィニーは死語となりつつありましたが、SMシリーズで突如ひっそり復活しました。
注目度としては比較的小さな出来事でしたが、念のため触れておきます。

「エビワラー(SM9b)」「サワムラー(SM9b)」「カポエラー(SM9b)」と、バルキーの進化系のポケモン達でワザを繋いで戦うデッキは「バルキーウィニー」と呼ばれました。
かなりコンボデッキ色が強いのですが、サイズの小ささゆえウィニー扱いでした。
ちなみにバルキー不在。
別名「エビサワカポ」。

【バルキーウィニーの例】

ウィニーかどうかの「古代ウィニー」(SV、2024年~)

トドロクツキ(SV5K)を始めとした多数のアタッカーで戦う「古代ウィニー」。
このデッキについてはまとめて後述します。

ウィニーについてのまとめ

ポケモンカードにおける「ウィニー」はそこそこ古い言葉ですが、ポケモンカードの歴史全体で見てもウィニーと呼ばれたデッキの種類は実はさほど多くありません。
上に挙げたものがほぼ全てだと言ってよいかと思います。

ポケモンカードゲームというゲーム自体、育成にコストを要求される進化ポケモンや、特に近年はサイドを複数枚取られるリスクを負った特別なポケモンが強く戦えるようにデザインされているというのが背景にありそうです。
小さくて弱いポケモンでありながらそれらの大きくて強いポケモンに抗えるのは、「何らかの特別な強み」を持つ選ばれしもの達だけなのです。

ウィニーと呼ぶに相応しいがデッキ名としてウィニーと呼ばれてはいないデッキ、言うなれば「隠れウィニー」のようなデッキもあります。
「よるのこうしん」等はそのよい例かと。
「ウィニー」と一般化してしまうより「何らかの特別な強み」がデッキの特徴をより強く表すのです。
あるいは、先述の「SPウィニー」の項目で触れた通り、「ウィニー」の中に「バレット」的なニュアンスが含まれるようになってきており、用語として「バレット」に食われるような傾向も見られます。
初期の「ロストバレット」はこれが顕著だと感じます。

このように、「ウィニー」はデッキタイプとしてもデッキ名称としてもマイナーな存在になりつつあります。

「バレット」とは

「バレット」は、デッキタイプの総称の一つです。
MtG用語である「シルバーバレット」に由来し、アタッカーを1~2枚ずつ大体3種類程度投入したデッキに名付けられることが多いです。
要するに「バレットはめっちゃ色んなポケモンを使い分けて戦うデッキである」といった感じです。

MtGのWikiでは、「シルバーバレット」は以下のように説明されています。

シルバーバレット(Silver Bullet)は、米英語で効果的な方法や解決策を意味する比喩表現。伝承や信仰で、銀の銃弾が狼男や悪魔に有効であると言われたことから使われるようになった言葉である。

マジックにおいては、特定の状況で強力なカード(ある色への対策カード等)、あるいはそれを組み込んだデッキ構築や戦法を指し、俗にシルバーバレット戦略とも呼ばれる。

シルバーバレット - MTG Wiki(2024.4.2 4:00確認)

かっこよすぎてゾクゾクしますね。
「特定の状況で強力」であることがポイントです。
この「Silver Bullet」という言葉について辞書で調べてみましょう。

((主に米))万全の解決策,特効薬

silver bulletの意味 - goo辞書 英和和英(2024.4.2 4:07確認)

先ほどの「伝承や信仰」の話と併せて、よく意味が理解できるかと思います。
特定の敵にめっちゃ効く必殺アイテムみたいな感じです。

バレットの始祖「ビールバレット」と直近の後継(BW、2011年~)

ポケモンカードにおけるバレットデッキの系譜は、シビビール(BW2)を軸とした「ビールバレット」から始まります。

「ビールバレット」は、シビビール(BW2)を中心に様々なアタッカーを使い分けて戦うデッキで、環境や好みに合わせて構築を細かくカスタマイズできるため、長きに渡って多くのプレイヤーに愛されました。

ビールバレットの成立過程は即ち「バレット」という言葉の成立過程でもあります。
シビビール(BW2)登場以降の流れを振り返ってみたいと思います。

BWの強いたねポケモンの代表格とも言えるゼクロム(BW1)、弱点を補完できるトルネロス(BW1)と組み合わせた「ゼクビール」、または「シビゼク」と呼ばれるデッキタイプがビールバレットの源流です。

ミラーマッチ対策として「テラキオン(BW2)」が採用されるパターンもありました。
ゼクビール派生として「ゼクビールテラキ」等と呼ばれましたが、この時点でかなりバレットデッキです。

フィニッシャーとして「ゼクロムEX(BKZ)」が追加されたりもしました。
これはまあゼクビールでしょう。

そしてミュウツーEX(BW3)が登場し、順当に「ゼクビールミュウツー」と呼ばれ、この辺りから流れが変わり始めます。
ミラーマッチでのミュウツーEX対策としてミュウツーEXの複数投入が当たり前になり、ゼクロム・ゼクロムEXとの枚数比が逆転して看板を奪い、とうとう「M2(ミュウツー)ビール」等と呼ばれるようになりました。

ゼブライカ(BW3)採用パターンもありましたね。

更に小型のポケモンに有効なライコウEX(BW4)、苦手の闘ポケモンに抵抗力を持つ「トルネロスEX(BW4)等大型サブアタッカーが続々追加。
今度はミュウツーEXの合計枚数より雷ポケモンの合計枚数の方が多くなったりして、雷バレットタッチミュウツーの様相を呈して参ります。

面白がって、こういう全部盛りデッキに挑戦する人も出てきます。

デッキのイメージ画像ばっかりこんなに沢山並べて何が言いたいかというと、シビビール派生のデッキはアタッカーの選択や配分のバリエーションがどんどん細分化されて訳が分からなくなっていったのだということです。
こうなると、生真面目にポケモンの名前を組み合わせだけのデッキ名でデッキの性質を表すのが難しくなってきて、便宜上これらのデッキを総称する言葉の需要が生まれてきます。

それまでの傾向で言うと、こういった「アタッカーが沢山入っているデッキ」はウィニーと呼ばれがちでした。
しかし、この「ゼクビール」ではアタッカーのHPは総じて大きく、ワザのコストは重く、頭数は少なく、ウィニーらしさは皆無です。
わかりやすいゲームを実現するため意図的にたねポケモンを強く設計する、というBWシリーズのゲームデザイン上のコンセプトによって「ビールウィニー」の成立は阻まれました。
やがて、「シビビールを中心としてシルバーバレット的にアタッカーを使い分けるデッキ」として、誰からともなく「ビールバレット」なる呼称が使われ始めます。
拡張パック「ダークラッシュ」(BW4)の発売日が2011年12月16日。
「バレット」の発生時期は恐らくこの辺りだと睨んでいます。

Twitter(現X)でサルベージできる最古の用例がこちら。

ちなみにですが、この時点で既にポケモンカードにおける「バレット」という言葉は、原義である「シルバーバレット」という言葉の持つ「特効性」という視点からは若干離れた言葉になっていたと思います。
初代バレットデッキであるところのビールバレットの本質は「グッドスタッフ」、平たく言うと強いポケモンの寄せ集めだからです。

まず、弱点関係について。
雷ポケモン達に数字で負けている上に雷弱点まで持つようなポケモン達は環境の中心から追い遣られているので、雷ポケモン達で弱点を突けるというのは副次的なメリットに過ぎません。
ミュウツーEXもまた汎用アタッカーであり、弱点を突く局面はほぼほぼミラーマッチです。
よって、少なくともビールバレットにとって弱点を突けるかどうかはバレットたり得る必須要素ではありませんでした。

次に、アタッカーの種類や枚数について。
ビールバレットとそれ以外のシビビールデッキを分けるのはポケモンの配分であり、その境界線は曖昧で見えにくいものです。
もちろん使い手の側からすると、伝統的なゼクロム多めが「ゼクビール」、ライコウEXに寄せたものは「ビールライコウ」、等の思いを込めたネーミングを使いたいところでしょう。
しかし、デッキの全容が判明していない限り対戦相手や観戦者側から見えるものは飽くまでも「ビールバレット」の一種です。
対戦レポートに相手のデッキを書くとき等は、見えたポケモンの名前を列挙するか「ビールバレット」とする他ないでしょう。

そういった背景もありつつ、「ウィニー」のときと同様、バレットはどのような意味なのか、どのようなデッキをバレットと呼ぶべきかという問いは置き去りにされたままでした。
テラキオンやビクティニで弱点を突くデッキも、愚直にミュウツーEXにエネルギーを付けまくるデッキも、シビビール軸ならあれもこれもビールバレット。
もちろんシルバーバレットの何たるかを知っている人もいましたが、そうでない人達にとっては「ビールバレット=シビビールと愉快な仲間達」です。

以降、特定のギミックを軸に多様なアタッカーを使い分けられるデッキは幅広く「バレット」と呼ばれるようになります。

サザンドラ(BW5)中心の「サザンバレット」。
基本的には「サザンダーク」と呼ばれていたことの方が多かったかと思います。
ほぼダークライデッキだけどバレット。

ギギギアル(BW1)とギギギアル(PPD)中心のギギギバレット。
基本的には鋼に寄せて盤面を固める方が強く、コバルオン(BW2)やコバルオンEX(BW7)くらいしかサブアタッカーがいないため、「ギギコバ」とも呼ばれていました。
アタッカーのバリエーションが少ないのにバレット。

【ビールバレットの例】
バトルカーニバルオータムレポ@Y田
https://teamachamo.diarynote.jp/201211261900177063/

バレットの金字塔「フレフワンバレット」(XY、2013年~)

続くXYシリーズでようやくバレットデッキが花開きます。
BWシリーズが完結してカードプールが潤沢になったことで、正しく原義通りのシルバーバレット戦略が執れるようになりました。

フレフワン(XY1)中心の「フレフワンバレット」。
やや呼びやすい「フェアリーバレット」の形も定着していました。
必要なタイミングで1進化ポケモンを1体立てる前提で構築すればよいのでスロットに余裕があり、BWシリーズで出そろった多彩なアタッカーと多彩な特殊エネルギーを使い分けて変幻自在の戦いを展開できました。
フェアリー単色に寄せるパターンとして、「フレフワンガルーラ」のようなデッキタイプも。

以降、どちらかと言えば1進化のシステムポケモンを使うデッキが「バレット」と呼ばれる傾向が強まります。

フレフワンバレットの直後に登場した、ドータクン(XYB)中心のデッキも「ドータクンバレット」と呼ばれました。
銀色のビールバレットのような構築になります。

【フェアリーバレットの例】
みらチャン杯
https://sofia07pokecard.diarynote.jp/201401152009372846/

タイプを冠する「水バレット」(XY、2016年~)

ここでフォーカスしたいデッキがひとつ。
これまでのバレットデッキはポケモンの特性を中心としたコンセプトのものばかりでしたが、そうではないものが現れ、その後のバレットデッキの呼称に影響を与えました。

ガマゲロゲEX(XY3)を中心に、マナフィEX(XY6)で様々なポケモンを入れ替えながら戦う「水バレット」。
詳しくは別途後述しますが、「Water Toolbox」として英語圏から伝わったデッキです。

「ウォーターツールボックス」という呼び名は、日本語で常用するには長すぎます。
アタッカーを使い分けるデッキの総称として先んじて一般化していた「バレット」を用いて、「アクアバレット」、そして「水バレット」と呼ばれるようになりました。
当時の記録として、2016年当時では貴重な英語圏の情報通であった、うきにんさんの記事から引用します。

8.ウォーターバレット

海外では、"Water Tool Box"の名前で通っているデッキタイプ。
日本語に起こしづらいので、フレフワンの例に倣ってバレットと呼んでおきます。

https://ukinins.diarynote.jp/201607021401516246/

ガマゲロゲEXやマナフィEXはデッキの中心ではあったものの、バレット的な動きの中核ではないため、「ゲロゲバレット」や「マナフィバレット」はデッキ名としてやや不適格でした。
もちろん「ピーピーマックスバレット」でもありません。
そうすると、確かにこのデッキは「水バレット」と呼ぶ他ないような気がしてきます。

以降、単色バレットデッキは概ね「タイプの名称+バレット」で呼ばれる傾向が強まりました。
先述したフレフワン中心の「フェアリーバレット」も「タイプの名称+バレット」の形式ですが、同時期に存在していたビールバレットやドータクンバレットが雷バレットや鋼バレットと呼ばれるような徴候は観測できていません。
そういった意味で、この「水バレット」は後のデッキの呼称により強い影響を与えていると言えるのではないかと自分は考えます。
例をいくつか紹介します。

カラマネロ(SM6)中心の「超バレット」。
「カラマネロバレット」が流石に言いづらい、カラマネロ軸のデッキとして先発である「ウルネク」との違いを強調する必要がある、などの事情もあり「超バレット」の方で定着しました。

ヌオー(SM6)中心の2代目「水バレット」、または「ヌオーバレット」。
水デッキは単色に寄りがちで、その場合「バレット」の原義からは離れたコンセプトの平坦なデッキにもなりがちです。
しかし、そもそもの初代「Water Toolbox」が「水バレット」で定着してしまったので、今や水バレットの流れに抗うことはできないでしょう。

モスノウ(S1H)中心の3代目「水バレット」、または「モスノウバレット」。
こちらもヌオーバレットと同じく呼称で物議を醸したデッキです。

ドータクン(S5I)中心の「鋼バレット」、または2代目「ドータクンバレット」。

モココ(S7R)を中心の「雷バレット」、または「モココバレット」。
ビールバレットと同じタイプで同じコンセプトのデッキですが、「ビールバレット」が「雷バレット」と呼ばれることがまずなかったのに対し、こちらは「雷バレット」と呼ばれることがほとんどでした。
言葉の移り変わりを感じる大変興味深い現象です。

【ウォーターツールボックスの例】
ウォーターツールボックス? デッキ紹介
https://yuyu-tei.jp/show/poc/content/4997

エネルギー補助に頼らない「マーシャドーバレット」「ゾロアークバレット」(SM、2017年~)

バレットデッキはエネルギーを操作するギミックを中心に成立することが多いですが、エネルギー補助は手段であって目的ではありません。
エネルギー補助に依存しないバレットデッキの例もいくつか紹介します。

マーシャドーGX(SM3N)の特性「シャドーハント」で、様々なたねポケモンのワザを使い分けて戦う「マーシャドーバレット」。
アタッカーはマーシャドーGXが中心で、参照するたねポケモンもW無色エネルギーに対応したものにほぼ限られますが、デッキの動きとしてはまさしく「シルバーバレット」です。

ゾロアーク(s6a)の特性「げんえいへんげ」で様々な1進化ポケモンを使い分けて戦う「ゾロアークバレット」。
ポケモン自身が入れ替わるというかなり特徴的なギミックを持っています。

特別な属性のシナジーで戦う「タッグバレット」「ロストバレット」「古代バレット」(SM、2019年~)

かつて活躍した「マグマウィニー」「SPウィニー」のようなテーマデッキの系譜は「バレット」に受け継がれています。
「TAG TEAM」や「ロストゾーン」のような特別な属性のカードで固められたデッキはシルバーバレット的な構築になりがちです。

TAG TEAMのポケモンGXを使い分けて戦うデッキの総称が「タッグバレット」。
TAG TEAMのポケモンGXは単体性能の高いポケモンばかりで、これもバリエーションの豊富なデッキタイプの一つです。
アタッカーの使い分けのギミックも豊富でしたが、アルセウス&ディアルガ&パルキアGX(SM12)の打点補助や加速、タッグスイッチによるエネルギーつけ替え等が主だったかと思います。

キュワワー(S11)の特性「はなえらび」を中心にロストゾーンにカードを貯めることで、様々なアタッカーを使い分けられるデッキの総称が「ロストバレット」。
グッズ「ミラージュゲート」が加速するエネルギーのタイプを選ばないため、幅広くアタッカーを選択できます。
一方、ほぼ標準装備であるウッウ(S11)やヤミラミ(S11)のようにどちらかと言えば特効性より汎用性の高いアタッカーが好まれがちで、「バレット」と呼ぶのが適切かどうかという論争の種にもなりました。

特性に頼らない「裏工作バレット」「アルセウスバレット」(S1W、2019年~)

ここまでに紹介したバレットデッキの多くはポケモンの特性を中心としたコンセプトの軸となったものが多いですが、そうでない例もあります。
初代水バレットがピーピーマックス軸であったことが影響している可能性もありますが、そう判断できる十分な材料がないのでここではこれ以上の言及を保留します。

ジメレオン(S1W)やインテレオン(S1W)中心に、特性「うらこうさく」でゲーム展開を組み立てる「裏工作バレット」。
エネルギーの補助は「キバナ」や「クララ」等のサポートで行います。
インテレオン自身の他、ガラルファイヤー(S7D)等の自分自身で加速能力を持つものや、ライコウV(SI)等の要求エネルギーが軽いアタッカーを複数採用し、シルバーバレット的に戦うデッキが主にこう呼ばれました。

アルセウスVSTAR(S9)を起点に、様々なポケモンVを加速して戦う「アルセウスバレット」。
ワザ「トリニティノヴァ」で後続に繋ぎ、中盤からシルバーバレット的なゲーム展開へシフトしてゆきます。
アルセウスVSTARは順当に構築しても配分が細かくなりやすく、殊更に「バレット」と呼ばれるデッキは多色構築だったりアタッカーの配分が相当細かいものが多かったです。

バレットかどうか「古代バレット」(SV、2024年~)

トドロクツキ(SV5K)を中心とした様々なアタッカーで戦う「古代バレット」。
このデッキについては後述します。

バレットについてのまとめ

バレットデッキは非常にバリエーションが豊富です。
ブイズバレットにメタモンバレット等、思いつく限り紹介しようと思っていましたが、あまりにも数が多かったので紹介しきれませんでした。

ポケモンカードゲームはタイプ相性のあるゲームなので、大抵のデッキは多かれ少なかれ特定の状況で効果的なアタッカーの使い分けを行うことになります。
その上、ポケモンカードにおける「バレット」は「シルバーバレット」の原義から離れてかなり定義の緩い言葉として定着してしまっています。
極端な話、単デッキ以外はバレットデッキと呼べると言ってよいかもしれません。
アタッカーの使い分けに着目した便利なかっこいい言葉として、今後も様々な新しいバレットデッキが生まれてくることでしょう。

ツールボックス

「ツールボックス」は、デッキタイプの総称の一つです。
「バレット」と同じく、こちらもアタッカーを少数枚ずつ複数種類採用するデッキに名付けられます。
要するに「ツールボックスはめっちゃ色んなポケモンを使い分けて戦うデッキである(バレットでもある)」といった感じです。

MtGのWikiでも「シルバーバレット」の項目に含めて説明されています。

こうしたデッキは状況に応じて必要な道具を取り出すことから、ツールボックス/Toolbox(道具箱)とも呼ばれる[1][2]。

シルバーバレット - MTG Wiki(2024.4.2 4:16確認)

「Toolbox」は流石に辞書で調べなくてもいいかな。
「道具箱」ですね。

実は漂着していた「SPツールボックス」(DPt、2008年~)

SPポケモンの主体のデッキは日本では「SPウィニー」と呼ばれましたが、英語圏では「SP Toolbox」と呼ばれていました。
BO3形式の有無などから日本と英語圏で構築の傾向に微妙な違いがありましたが、枠組みとしては同じです。

Toolboxという概念や言葉が英語圏にいつから存在したか、いつから日本に伝わったかは定かではありません。
WCSに日本代表が初めて招待されたWCS2004の後くらいから英語圏の情報が入ってくるようになり、それと同時に海外のサイトにも日本の情報がしばしば投稿されていることが知られるようになりました。

2008年に「SPウィニー」という呼ばれるデッキと呼称が国内で成立し、しばらく経って英語圏のカードプールが追いついてきた頃、そちらでも同様のデッキが成立しました。
特にコールエネルギーの採用については日本のプレイヤーの間でもしばしば議論になっていましたね。

その中で、一部のプレイヤーは英語圏に「SP Toolbox」と呼ばれるデッキタイプがあることに気付いていました。
しかし、日本では既に「SPウィニー」で定着しています。
ここに「SPツールボックス」が割って入ってくることはなく、「ツールボックス」が概念として日本に定着するのはもう少し後の話となります。

源流の再発見「ウォーターツールボックス」(XY6、2016年~)

「ツールボックス」という言葉は日本のポケモンカードプレイヤーにとっては外来語です。
満を持して「ウォーターツールボックス」の話をさせていただきます。
させてください。

「ウォーターツールボックス」はガマゲロゲEX(XY3)を中心に、様々なポケモンをピーピーマックスで加速したりマナフィEX(XY6)で入れ替えたりしながら戦うデッキです。
略して「WTB」。
「ツールボックス」という言葉を日本に定着させた外来種として当時のプレイヤー達の記憶に刻まれています。
先に述べた通り、「ウォーターバレット」や「水バレット」とも呼ばれました。

元々2016年のGermany Nationals(※ドイツのJCSのような大会)で世に出たデッキタイプで、同年のWCSに向けて情報収集をしていた日本のプレイヤー達の間で話題になり、日本国内に広がっていきました。
従って、日本における「ツールボックス」定着の時期はGermany Nationalsが閉幕した2016年5月21日以降と言えると考えています。

当時の記録として、うきにんさんの記事を再び引用します。
「ツールボックス」という概念が当時はまだ一般的でなかったことが伺えます。

8.ウォーターバレット

海外では、"Water Tool Box"の名前で通っているデッキタイプ。
日本語に起こしづらいので、フレフワンの例に倣ってバレットと呼んでおきます。

あなたがメガGGCを優勝するためにすべきこと

ちなみに、WCS2016 Master Divisionの優勝者として知られるとーしんさんへのインタビューでは、ウォーターツールボックスが優勝デッキであるMタブンネに次ぐ候補だったことも語られています。

伊東「今年の6月末時点では、Water Tool Box(ガマゲロゲEXなど、水ポケモン主体のデッキ)を使って世界大会に参加する予定でした。ただ、約1ヶ月間、様々な方面から試したところ、ビークインを中心としたデッキに勝ち切ることが難しいことが分かりました。そして、一緒に練習する仲間の助言もあって、7月末くらいにWater Tool Boxを諦めることにしました。

世界最強に問う | ポケモンカードゲーム公式ブログ ポケカネットジム

ガマゲロゲEXを中心としたデッキタイプは日本でもいくつか編み出されており、「ゲロバット」「ゲロムシャ」等、「ガマゲロゲEXの略称+補助役のポケモンの略称」の形で呼ばれていました。
また、ダークライEX(BW4)を中心にダークパッチで加速して戦うデッキは「ウォーターツールボックス」とかなり似たコンセプトを持っており、英語圏では既に「Dark Toolbox」と呼ばれていましたが、日本では「ダークM2」「ダークアブソル」等、やはり「ダークライEXの略称+補助役のポケモンの略称」の形で呼ばれていました。
即ち、仮にこの「ウォーターツールボックス」が日本発のデッキであったならば、恐らくその呼称は先例に倣って「ゲロマナフィ」とか「ゲロゲバレット」辺りの無難な名前に落ち着いていたことでしょう(「ゲロ」が無難かは諸説あり)。
日本語圏での呼称としての「ウォーターツールボックス」は、英語圏からデッキタイプとデッキ名が同時に伝わったという特殊な状況の上に成立したものであると言えます。

フレフワン(XY1)中心の「フェアリーツールボックス」。
既存の呼称「フェアリーバレット」に加え、英語圏由来の呼称も広まってゆきます。

ウォーターツールボックスと同時期の環境に存在していたドータクン(XYB)中心の「ドータクンバレット」。
こちらは不思議と「メタルツールボックス」の例を目にしたことがありません。

ヌオー(SM6)中心の2代目「ウォーターツールボックス」。
初代ウォーターツールボックス以降、水タイプのアタッカーを使い分けるデッキは他のタイプの類型と比較して有意に「ウォーターツールボックス」と呼ばれるようになります。

モスノウ(S1H)中心の3代目「ウォーターツールボックス」。
2024年現在、ポケモンカードにおけるツールボックスデッキを検索すると最も多く情報が出てくるのがこのデッキタイプです。

特別な属性のシナジーで戦う「ロストツールボックス(LTB)」(S、2022年~)

ロストゾーンを参照するギミックで様々なアタッカーを使い分けられるデッキの総称の一つが「ロストツールボックス」。
「ロストバレット」の項目で概ね説明したのでこちらでは省略します。

ツールボックスかどうか「古代ツールボックス」(SV、2024年)

トドロクツキ(SV5K)を中心とした様々なアタッカーで戦う「古代ツールボックス」。
このデッキについては後述します。

ツールボックスについてのまとめ

日本語で「ツールボックス」と呼ばれるデッキは、実際のところそんなに多くありません。
単純な話、「ツールボックス」は呼びにくいですしね。

ただし初代「ウォーターツールボックス」が与えた影響は無視できないものがあります。
水ポケモンを使い分けるデッキはこれに倣って同じ名前で呼ばれ、他のタイプのデッキもしばしばこれに擬えた名前で呼ばれます。
基本的には今後もこの傾向が踏襲されていくものと予想します。

よくある疑問について

バレットとツールボックスの違いは何?

みんな大好きバレットツールボックス論争の時間です。
集まれー。

バレットとツールボックス、そもそもの原義が全く違います
「銀の弾丸」と「道具箱」、ここから掘り下げて考えていきましょう。

原義に沿って厳密に捉えるならば、銀の弾丸で相手の弱点を突くように様々なタイプや能力を持ったアタッカーを使い分ける「特効性」のあるデッキのみが「バレット」と呼ばれるべきでしょう。
それに加えて、道具箱の中に様々な選択肢を揃えておくように汎用的な能力を持つアタッカーを使い分ける「適応力」のあるデッキも含んで「ツールボックス」と呼ばれるべきでしょう。

ただし、アタッカーを使い分けるならば、状況毎や相手毎の有効度の強弱は必ず発生します。
その強弱のどこを境界線にしてバレットとツールボックスのどちらに分類すべきかというのは現実的に解決不可能な問いです。
この曖昧さによって、バレットとツールボックスはほとんど同じ意味で運用できるようになっています。

そして、「バレット」自体が発生当初から原義と離れた形で定着してしまっているので、これはもう容易には覆し難いです。
それでも尚「バレット」の特効性を可能な限り厳密に捉えたい人達は、なんでもかんでもバレットにしてしまう風潮へのアンチテーゼとして「ツールボックス」を好みます。

また、運用上の問題として「バレット」と「ツールボックス」では日本語としての長さがかなり違うということがあります。
単純な話、どっちでもいいんだったら短い方がいいですよね。
これもあらゆるデッキがバレットデッキと呼ばれる状況を後押ししています。

ついでに、定着時期として「ツールボックス」の方が後発です。
そのため、「ツールボックス」は初代「ウォーターツールボックス」とその派生形と見做すことを強調するデッキに用例が偏っているのです。

なにものかの結論。
元々別物だけど大体同じになっちゃった。
どっちも大体同じように使ってよい。
そしてバレットの方が使いやすい。

シャロンチャンネルさんも大体同じようなことを仰っています。

トドロクツキ・コライドンデッキはバレット?ツールボックス?ウィニー?ビート?

こういうコライドン・トドロクツキ型のデッキの話です。
レシピははすさんのものをお借りします。

まず「古代バレット」。
沢山のアタッカーを採用していて、その使い分けが可能です。
この点では、このデッキはバレットデッキと言えます。
しかし、コライドンは弱点を突くことができず、トドロクツキの攻撃が弱点を突くことができる対面はサーナイトex等かなり限定的で、ハバタクカミは攻撃的な運用がしにくいです。
ワザのダメージも条件によって変動し、最大打点に限度がないため特定のポケモンに有効ということもありません。
バレットデッキに求められる「特効性」が希薄であるという点において、「古代バレット」とは言えないのではないでしょうか?

次に「古代ツールボックス」。
沢山のアタッカーを採用していて、その使い分けが可能です。
この点では、このデッキはツールボックスデッキと言えます。
しかし、実態としての運用は、序盤はコライドンで後半がトドロクツキと概ね起用タイミングが決まっており、ハバタクカミはトラッシュにいることがほとんどです。
ツールボックスデッキに求められる「適応性」が希薄であるという点において、「古代ツールボックス」とは言えないのではないでしょうか?

そして「古代ウィニー」。
大量のアタッカーを採用していて、いずれも小さいと言えば小さいです。
この点では、このデッキはウィニーデッキと言えます。
しかし、このデッキのコンセプトの中心はトドロクツキのワザ「あだうちやばね」であり、ゲーム展開のピークが序盤ではなく後半に寄っています。
ウィニーデッキに求められる「速度」という点において、「古代ウィニー」とは言えないのではないでしょうか?

「ビート」の話は、別にいいかな……。
ポケモンカードのデッキは原則ビートダウンデッキだし、わざわざ「古代ビート」でなくて「古代」でいいのでは。

と言った具合に、コライドン・トドロクツキ型の古代デッキは「バレット」「ツールボックス」「ウィニー」らしさと、らしくなさを持ち合わせています。
どれも一長一短であり、その中で既成事実を確立した「古代バレット」が市民権を獲得しました。
個人的には許しがたいですが、認めざるを得ません。
既成事実は最強。

なにものかの結論。
「古代〇〇」、好きに呼んでいい。

本当はもっと前から「バレット」デッキがあったの?

「バレット」と呼ばれるデッキがDPtシリーズの時期から存在したとする説を発見したので、ちょっとスペースを割いて言及したいです。
晒し上げのつもりではないのですが、誤解を招く可能性を感じたので補足させていただきたく、どうか落ち着いてお読みいただけると幸いです。
以下に引用します。

ポケカwikiではSPToolboxと呼ばれるSPバレットの一種との記述もあったため、この時期では「バレット」の方が大きな枠組みと想像してみたり。

【ポケカ】(ほぼ)同じ意味の「バレット」と「ツールボックス」の違いとは?活躍したデッキも紹介 - かの人の庭園│ポケカまとめブログ

SP Toolboxと同時期に「SPバレット」という呼称が存在していたという説。
『かの人の庭園』さんも「想像」という表現に留めています。
根拠となる記事を以下に引用します。

同年のシニアリーグ・ジュニアリーグで優勝したドンカラスレントラーミュウツー(スタンダード)ドンカラスレントラーディアルガ(スタンダード)とアーキタイプとしては同じ区分で、海外ではいずれもSP Toolboxと呼ばれるいわゆるSPバレットの一種である。

ヤミラミギンガウィニー(スタンダード) - ポケモンカードゲーム(ポケカ)wiki

確かに「SPバレット」という言葉が使われていますが、この記事が2021年08月15日とかなり時間が経ってから記述されたものであるという点には注意が必要かと思います。
関連する記事も2件ありますが、ドンカラスレントラーミュウツー(スタンダード)ドンカラスレントラーディアルガ(スタンダード)、いずれも2021年7月25日です。
ただし、後年の視点から「SPバレット」という呼称を使用する分には問題はなく、嘘が書いてあるわけではありません。

仮に「SPバレット」が当時の言葉であるとするならば、今なお残る当時の記事のいくつかの中に使用例があるかと思いますが、自分が調べた限りでは発見できませんでした。
念のため調べましたが「ギンガバレット」も同様でした。

こういった点から、バレットデッキがDPtシリーズには存在したとは言い切れず、注意が必要かと思います。
もし何かエビデンスを把握されている方がいればご教授いただきたいところ。

なにものかの結論。
「バレット」は早くても2011年から。

まとめ

結構がんばってまとめたつもりではありますが、個人の記憶と個人で調査した範囲の情報に基づく記事ですので、何か変なことを言っている可能性があります。
その場合は、是非やさしくやさしくご指摘いただければと思います。
共に正しい情報を世に残していきましょう。

軽い気持ちで書き始めたら20000文字を超えてしまいました。
まとめます。

ウィニー

・速い、脆い、数が多いデッキのこと。
・単にポケモンを並べるだけのデッキのこともある。
・遅くとも1996年の「カスミウィニー」から。

バレット

・相手や状況によってアタッカーを使い分けるデッキのこと。
・単に何らかのカテゴリのポケモンで固めただけのデッキのこともある。
・2011年の「ビールバレット」から。

ツールボックス

・相手や状況によってアタッカーを使い分けるデッキのこと。
・単に何らかのカテゴリのポケモンで固めたデッキのこともある。
・バレットと意味は違うけど使い方は大体同じ。
・2016年の「ウォーターツールボックス」から。

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