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「人間に戻してあげる」

ついさっき、耳の中に涙が伝い落ちていく不愉快な感覚で目が覚めました。足元に散らばるメッセージカードを拾いながら、先日自分が贈った手紙のことを思い出し、自分勝手な行いを反省しているところです。ああ、あれは早く捨てておかなければ。

わたしは絶対に左手首は傷つけないくせに、心のなかでは懲りずに自傷行為を繰り返しています。ふとした瞬間にとんでもない寂寥感に襲われて、殺されるんじゃないかなと思う日もあって……そんな時は皮膚を強く抓り、頭の中より痛い場所があると自覚させる信号を、身体中に行き渡らせなければなりません。

自分の立場をわきまえた上で相手を思い最善を尽くすのであれば、天気のいい日に気になる喫茶店のモーニングは食べられないし、誰かの帰りをじっと待つことはないし、気になっている映画は観られないし、名実ともに一人の人間がわたしだけのものになるのを祈ることはない。相手にとってそんな不自由な未来が訪れてはいけない。なにが一番大切な人の為になるのかどうか考えなければいけないのに、不幸にしてはいけないのに、冷静な頭とは別のところで自分の身体が勝手に動くことへの罪悪感が凄まじいのです。

人形にならないと。今まで保ってきた感覚を忘れないように抑えておかなければいけません。こういう感情は案外簡単に、塗り固められた壁を内側から脆くさせるのでしょうか。人を傷つけるのがやめられない。自分から傷つきにいくことがやめられない。確証のないことは嫌いなので、初めから自分で作った嘘の答えを以って他の部分は全部壊してしまいたくなる衝動があります。

きっとわたしは他人のことと自分のことを照らし合わせて、関係性についてあれこれ思いを巡らせるのが酷くおそろしくて曖昧な付き合いしかしてこなかったのだと思います。酔った勢いで結婚までしましたし。未来の自分を形成しておきたいのに、なぞって行く人生でよかったのに、なんともままなりません。
ずっと線をなぞった先で、自分の近くにいる人たちは同じですか?今の身体の調子はどうですか?泣き腫らした顔で仕事に行っていませんか?自分勝手に人を愛していますか? 誰かを人間に戻す責務の途中で、自分もきちんと人間に戻れていることを願います。何かが起こってヤケクソになって死んでなければいいんだけど。

もう、この手紙には書くことがなくなりました。
それではまた。

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