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アローキーつき分割エルゴノミクスキーボード ErgoArrowsを使ってみた

前回から少し間があいてしまいましたが、自キ温泉ガイドのサリチル酸さん(@Salicylic_acid3)からお借りした自作キーボードの試用レポ第二弾をお届けします。今回は ErgoArrows です。

普段なかなか実機にふれる機会のない自作キーボードについて、主に日本語文章を打ちまくる人間の立場で使用感などをお伝えできれば!(試用レポ第一弾はこちら

ErgoArrowsとは

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ErgoArrows はキーが縦にずれたレイアウト(カラムスタッガード配列)の65%エルゴノミクスキーボード。このタイプのキーボードにしてはめずらしく独立したアローキー(カーソルキー・矢印キー)を左右両側に備えているのと見た目がカッコいいのが最大の特徴です。

忙しい人向けのすぐわかる結論

ヤバい(語彙力)

実際に二週間くらいこれで原稿を書いてみたのですが、びっくりするくらいよかったです。入力効率と指への負担がまったく違う…!

使いにくい局面があって用途が限られたりするのかな、と予想していたのですが、そんなことはまったくありませんでした。HHKBなどのコンパクトなキーボードに慣れていれば、違和感なく乗り換えることができると思います。むしろ下手なJIS配列より打ちやすい…

あとは見た目がカッコいいのでお仕事する際のテンションが上がります。

カラムスタッガード配列のいいところ

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市販されてるキーボードの多くはロウスタッガード(row staggered)と呼ばれる行ごとにキーが横にずれてるレイアウトになってます。これは古のタイプライター時代に(部品同士がぶつからないように)そうなってたからという理由で採用されてるデザインらしく、必ずしも人体の構造に最適化されているわけではありません。

それに対して本機 ErgoArrows は、列ごとにキーが縦にずれているレイアウト(Column Staggered)を採用しています。このような配列の場合、正確なタッチタイピングができれば、手を握る・開くという自然な動作で適切なキーにアクセスできるというメリットがあります。

実際に使い比べてみると、普通のキーボードは不自然に指が左斜め上方に引っ張られているような感覚があって、これまで意識することがなかった指の移動コストというのを実感します。

一方、カラムスタッガードの列のズレはそれぞれの指の長さを反映しているため、正確なタッチタイピングができれば、入力時の指の上下動も偏りのない自然な感じになるはずです。そう、正確なタッチタイピング…正確なタッチタイピングができればな…

カラムスタッガード配列のダメなところ

カラムスタッガード配列がそんなに素敵ならもっと世の中に普及しててもいいはずですが、現実にはそうはなっていません。理由はいろいろ想像できますが、ひとつ明確なデメリットとしては設置面積の問題があります。カラムスタッガードは場所をとるのです。
市販されているカラムスタッガード配列の製品としては ErgoDox EZKinesis Advantage が有名ですが、どちらもかなり大型のキーボードです。これはカラムスタッガードの場合、左右の手を離して置かないと使いにくいのが原因だと思われます(知らんけどたぶんそう)。

そんなわけで必然的にカラムスタッガード配列の自作キーボードは、キーの数を減らして小型化に対応することになります。なるべくホームポジションを崩さずに済むように設計されたキーボードがキー数を減らすのは理にかなっているのですが、そのぶん本来の持ち主以外は使いにくいマニアックな製品になってしまうのはやむを得ない感じ

ただし本機 ErgoArrows に関しては、練りこまれたキーレイアウトとキーの高低差を利用した工夫によってキー数のわりにかなりコンパクトです。特に左右端までの距離が短く抑えられており、マウスなどのデバイスへのアクセスも良好。端的に言って大変使いやすい。テンキーレスのキーボードが置けるくらいのスペースがあれば充分実用に耐えると思います。

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75%キーボードの JISplit89 と比較。JISplit89 のコンパクトさが際立ちますが、ErgoArrows も充分に実用的なサイズ感です。

日本語文章書きが ErgoArrows を使ってみた

日本語入力メインの人間…というか私がキーボードを選ぶ際に重要視しているのが、英数キー・かなキー(変換・無変換キー)および独立した矢印キーの存在です。ソフトウェアエンジニアの方々が使ってるコンパクトな自作キーボードはめちゃめちゃカッコいいんですけど、真っ先にこのあたりのキーが削られてしまうのですごく悲しい気持ちになる。

しかし ErgoArrows の場合は、通常、スペースキー1個しか担当しない親指まわりに左右4個ずつ計8個ものキーが配置されており、余裕で「英数」「かな」を割り当てることができます。その気になれば親指シフトとかもいけちゃう。

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また独立した矢印キーが物理的に存在する(しかも左右に…!)という超親切設計になっているため、見た目に反してものすごく日本語入力に適したキーボードだと感じました。
矢印キーはかな漢字変換のショートカットで多用するので、あるとないとでは作業効率に天地ほどの差があるのですよね。

原稿用紙を想像してもらえるとわかりやすいのですが、直線的に記述される英文と違って、日本語の文章というのは縦軸と横軸のある格子状の(平面的な)表記になっています。そのため他の言語と比較して矢印キー上下の重要度が高いです。縦書きの文書の場合は特に。
このあたりは、左右にだけ移動できれば最低限の用が足りる英文と大きく違うところです。海外製のキーボードでは矢印キーが逆T字配列になっていない(矢印キーの上下を軽んじたデザインの)ものをよく見かけますが、それはこの言語的な差異が影響してるのではないかと。

ErgoDox EZ などを日本語入力用として使っているユーザーの多くが、やはり矢印キーの配置で苦労している印象です。その意味で ErgoArrows は日本語入力に適したカラムスタッガードのキーボードという希少な存在だと思います。ヤバいです。

ErgoArrowsのArrowsについて

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ErgoArrows のアローキー部分は、背の低いロープロファイルのキースイッチが使われています。そのため文字入力中に手のひらに干渉することがありません。これはパームレストを使用していないときに特に恩恵を感じます( JISplit89 も同様ですが、サリチル酸さん設計のキーボードはパームレストなしでも使い勝手が損なわれない印象があります。オプションの専用パームレストもあるみたい)。

そのようなキーの高低差を生かした設計のおかげで、タッチタイピングの際に押し間違えることなくアローキーにアクセスできるのがありがたいです。これって地味にすごい発明なのでは。

なお左右に矢印キーが配置されているキーボードを、私はほかに CLEAVE くらいしか知らないのですが、これは見た目が左右対称になってカッコいいという以外に、ショートカット用としてすごく便利です。私は左側の矢印キーにHome、End、PageUp、PageDownを割り当てて使ってました。小説を書いていると少し前の場面を参照することが多いので、単独でこれらのキーが使えるのは非常に捗ります。

ErgoArrowsの機能について

ErgoArrows は68キー+8キーの76キーを備えていて、なんとJIS配列69キーのHHKB(JP)よりキーの数が多いです。そのためレイヤー機能を使わなければ打ちたい文字が打てないというような苦労がありません(Fキーを除く)。これはほかのキーボードから乗り換えた際の学習コストが少なくて済むということです。仕事の道具として非常に実用的な仕様だと思います。

また、分離型のキーボードにつきまとう「(数字の6とかを)左右どっちの手で打つのか問題」についても、該当のキーが左右両側についているので好きなほうで打てばいいというパワフルな解決策が提示されており、タイピングの矯正をする必要がありません。これも他のキーボードからの移行コストの低減につながっています。

というわけで、特徴的な見た目と裏腹に万人向けといって差し支えないErgoArrows なのですが、もちろん Remap などによるキーマッピングの書き換えにも対応。自分だけの専用機としてゴリゴリにカスタマイズすることが可能です。

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私はデフォルトの状態に少しだけ手を加えて、こんな感じで使ってました。
実際にはさらにKarabiner-Elementsも併用してCapsLockとControlを入れ替えたりもしてます。結果的にいつも使ってるキーボードから乗り換えても違和感なく使えるのがホントに素晴らしい。

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まとめ

ErgoArrowsは奇抜な見た目に反して、日本語文章の入力用にも非常に使いやすいキーボードでした。サンプルをお借りしているからというリップサービスではなく、本気で自分用に1セット欲しいです。個人的にめちゃめちゃ気に入ってます。

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もちろん特殊な形状の自作キーボードなので合わない方もいると思います。ただ、競合機種と比較してキーボードとしての機能面で不足を感じることはないはず。組み立ての難易度も低めということですので、この記事を読んで興味を持ってくださった方は、自作キーボードの入門用としてぜひ検討してみてください。

そんなわけで ErgoArrows のレビューでした。
自作キーボードの世界は、奥が深くて本当に面白いです。

このような素敵なキーボードにふれる機会を与えてくださったサリチル酸さんには、あらためてお礼を申し上げます。ありがとうございました。



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