バ先はラグナロク

激しい戦闘になることは事前に報告されていたが、現地到着直後に顔の半分が吹き飛ばされるとは思わなかった。
「セドリック!」
俺はスーツに内蔵された相棒に助けを求める。
「早く!しろ!」
再生が進むにつれて消し飛んだ舌が戻ってきたみたいだった。
敵は前方二キロ先をこちらに向けて直進中。機体から伸びた砲身は、もう次弾を発射すべく小刻みに震え始めている。
<致命傷は避けましたが記憶の一部に欠損が見られるようです。配偶者の名前とか、思い出せます?>
「アンナ……いや、リサだったか?もういい、武器だ、武器」
<何がいいですか。原始的ですが核弾頭とかが順当でしょうか>
天使たちが地獄との戦争に人間を動員するようになったのは、人の想像力の貧弱さが彼らの兵器のリミッターになるかららしい。天界がそのままサタンの侵攻を止めようとすれば、守られるはずの現実まで滅ぼしてしまうことになる。
「銃でいいんだよ、銃で」
服を着るだけの簡単なお仕事です。
広告を見た時は遊園地のマスコットだと思った。着ぐるみ被って風船配るやつ。時給がやけに高かったのが気になったが、まさか強化服に体を突っ込んで神と悪魔の戦争に投下されるなんて思わなかった。
「今お前、溜息ついただろ」
<まさか。サポートAIである私が着用者の気分を害するようなことをするはずないじゃないですか。それはそうと止めなくていいんですか、それ>
見ると右腕から無数の銃が芽吹いていた。タガメの孵化の如く続々と湧き出てくる。銃の群れは源泉であった右手を超えてみるみるうちに肩にまで達しつつある。
<あと、もうそろそろ敵機のチャージが終わりますよ>
「だから、そういうことは早く言えって!なんで他人事なんだよ!」
<敵機はベルゼブブ級。後続機も考えるとこの装備だけだと心許ないですね。少し手を加えていいですか>
必ず帰る。
高速で組み代わっていく銃の束を見ながら、俺はその信念がまた崩れつつあるのを感じた。

【続く】

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