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Wind Ensemble"Olé!" 後記②

↓前回

3.本番まで


このヘビープログラムをどう消化するか。極めて難題だった。
その点について記述していくとする。

曲が難しい、多い

なんといってもオレ吹のプログラム最大の困難は曲そのものにあったと言えよう。大阪周辺の吹奏楽団体は某大学吹奏楽団の影響を受けているからか超大曲や難曲を臆せず選曲してしまう気の狂ったバイタリティに富んだ団体が多いと感じているが、その経験をもってしてもなかなか攻略できない一癖二癖ある楽曲が揃っていた。特に1部の4曲はどの曲も演奏時間に対して密度が濃く、集中力が要求される曲ばかりである。リズムやアンサンブルは複雑だし、厳しい音域も要求される。2部の曲も1部の曲ほどではないが、それぞれ厄介な部分があり、まったくもって油断ならない曲ばかりだった。

・企画バンド特有の困難

もちろんオレ吹だけでなくほかの団体にも共通して言えることだが、企画系団体全般に言えることして、人がなかなか揃わず本番前になるまで曲の全容が把握できないというのがある。今回で言うと特に自分の持っている"Radiant Joy" "Come Sunday"がそうだったが、ソリストの音を実際に聴くのが本番直前だったので、正直、本当に不安だった。(もちろん練習期間中はネガティブにならないように努めた)
2部のまいけるさん楽曲については普段吹奏楽ではなかなか経験しないような編成や楽曲様式で、これらも練習を進めても未知数な部分が多く、完成系が直前まで見えなかった。

指揮者のスケジュール

自分以外の指揮者が多忙で合奏時間が限られていたため、それを鑑みて練習を組み立てる必要があった。これは初めからわかっていたことで、もうその時点で自分が取りまとめして代振りをしながら練習や合奏の取りまとめをしないといけないと悟って、他の予定を入れず楽器も吹かないことにした、という部分はある。

……と、少し愚痴のようになってしまったが、だからこそ言いたい。
このプログラムであれだけの完成度に持って行った奏者の皆様は本当にすごい、と。
それにオレ吹は一般公募だったので、この難曲軍に対抗できるメンバーになるかどうかは本当に予測ができなかった。またいつも自分が見かける人たちだけでなく、かなり広い範囲から人が集まってきていたし、楽器歴もばらばら……初心者に近い人や普段吹いていない楽器を吹く人もいた。かと思えばプロ奏者まで混じっていたり……。

というわけで練習は予測できないことが多く毎回行き当たりばったりスタイルになった。今回毎回の練習でやる曲を発表しなかったのは、どの曲にどれだけの時間を割くかその場でないと判断できなかったからだ。自分主催の団体ではある程度それが明確だったので合奏予定を具体的にお知らせすることができた。しかし今回はそれをすると「この人がいるならこの曲をやっとこう」「この人が帰ってしまったからこの曲はやらないでおこう」などの柔軟なムーブが取れずかえって非効率になると判断した。
牛若くんやまいけるさんの曲の代振りも最初から考えていた。結果的に自分の曲が圧迫されることになっても、プログラム全体のバランスをとっていきたかったからである。先の話とも重なるが、オレ吹プログラムにおけるゲスト的奏者への対応をするためには「その日に指揮者がいなくても曲はやっておかないといけない」という状況が必ず発生すると予想していた。

そういう中の合奏、やはり自分の曲はあまり時間をかけられなかったように思う。"Radiant Joy"は日程終盤まで、ほぼほぼかいつまんでしか合奏出来なかったし、逆に"Come Sunday"はずっと流す合奏しかできなかった。"Scootin' on Hardrock"に至ってはそもそも時間が全然取れなかった。
ただそんな中でも、できる限り曲の構造を伝えるようにしたし、ポイントは押さえていくようにした。 そして一番大事なのは、どの団体の練習でも同じだけど練習に来てくれた人が練習が終わったときにポジティブな気持ちで帰って、そしてまた練習に来てくれること。どれだけ時間がなくてもそれだけは忘れないように。
オレ吹にはスーパープレイヤーと言える存在がたくさんいて、そういう人たちが合奏を成り立たせてくれたことは事実だった。でも、楽器を練習することもままならないぐらい日々忙しい生活を送る人もいれば、ほとんど初心者で音を鳴らすのも難しいという人もいる。そんな中で練習に参加してくれる人に対して前に立つ人間が何をできるのか。それは、奏者の方々に、合奏に参加することで、練習に来てよかった、音楽やってて楽しい、と思ってもらえるような合奏を作ることじゃないかと思う。「どれだけ演奏が上手いか」「普段どこで音楽しているか」それらは本質ではなくて、一緒に演奏して、一緒に音を合わせて、ああいまの瞬間ここにいて楽しいなと思える……そういう空間をいかに作り出すか、これが今も昔も変わらない「やぎさん」のポリシーである。

私が振った3曲はそれぞれ難しい部分があったが、やはり"Come Sunday"は大変な難曲だった。まず音符を並べること自体が困難というパートがたくさんある。打ち込み音源でないと演奏できないような音数が書かれている。多人数でのアンサンブルが極めて困難なメロディがある。それを全部限られた時間でコントロールするのは難しい。
だから、自分は、棒に込めた。
言葉では表現できないところに音楽の本質があると信じている。指揮者は音を出さないが、音をコミュニケートするという意味で間接的に表現者である。このオレ吹では、合奏時間が限られているということが逆説的に指揮者の役割を自分に考えさせたのである。そしてもちろんそれは自分の未熟さを思い知るということにもなった。

私が代振りはしたが、牛若くん・まいけるさんもそれぞれの経験を音楽に詰め込んでいたように感じた。牛若くんは合奏指示が明快で声もよく通るので奏者は気持ちよく合奏できると思う。また、本番までの数か月でめきめき指揮が上達していくように感じながら合奏を見ていた。まいけるさんは指揮が極めてわかりやすくテンポ変化も大胆ではあるが予想がつきやすい。奏者が気持ちよく演奏できる指揮だと感じる。そしてあの自由なラプソディインブルーをこともなくさばききったという意味ではやはり場数と度胸が違うと感じさせられた。

そんな2人の背中を私も見ていた。複数の指揮者が振る演奏会というのは、それぞれの指揮者は別々の曲を振っていながら互いが影響されあっているのである。少なくとも自分は影響されていた。オレオさんの個性が詰まった選曲の中で、自分は自分なりに曲の色合いを表現するために自分のパレットから絵具を選んだが、その色の中には2人の色も含まれているのである。私は確かに指揮法をかじったことがあるし、理論に基づく部分もある。だが実のところ、自分の指揮や合奏は、今まで自分が音楽生活の中で会ってきた人たち、とりわけ自分の前に立った指揮者の方々から頂いた音楽的訓示の集合体である。今回はオレ吹ビッグバンドの練習にお邪魔したのも大きかった。あの時間は実はその後の自分の合奏にすごく活かされたのです。

という前提の上に改めて言うわけだが、あの"Come Sunday"は「やぎさん」でないと生まれ得なかったし"Radiant Joy"も"Scootin' on Hardrock"もそうだったと実感する。やりくりは本当に大変だったし、分奏までして詰められるところを詰めたりと、奏者やパートリーダーにも苦労を強いる部分があったのは否めない。でも、私の現在地としての音楽は合奏の中で表現できたし、みんなで楽しめたんじゃないか。そうだったら、うれしいなあ、って。
わかってます。本当はきっと、あんまり楽しめなかったり、楽しむだけの余裕がない人もいたということ。(口には出さないだけで)
そして自分自身、もっとこうしたらよかった、という反省点もたくさんあるし、スコアを細部まで読み切れなかった悔いもある。でもそれは次につなげようと思う。
でもとにかく、結局はオレオさんが満足してくれたなら……それが一番よかったのかなと思う。どうだっただろう、そこはちゃんと聞けてないな。

オレオさんが集めたこのメンバーでやった練習がほんとに楽しかった。延々ハンドクラップしたり、新春カムサンデー大会したり、心にハイハットを刻んだり……
Back and Tipメンバーやky氏とのコラボレーションこれも最高に新鮮でCoolでHighになる経験だった。
みんなに感謝ComeSunday…オレオさんに大感謝ComeSundayでした。

……あ、まだ終わらないです。

(続く)


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