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A.B.C-Zという青春

 すっかり更新をサボっていたら、私の青春が終わっていた。
 これはかつてジャニオタだった人間が、昔を懐古して好き勝手言っている記事なので、たしかなことやタメになる内容はひとつもありません。ちなみに私は少々途方に暮れていますが、発表を受けた翌日に長文の記事を書けるほどには元気です。


 A.B.C-Zという、どこよりも華やかでどこよりもぱっとしないジャニーズのグループがあった。どこよりも華やかでどこよりもぱっとしない。この矛盾を上手く説明することはできない。なぜなら「どこよりも華やか」なのは私の評価であり、「どこよりもぱっとしない」のは世間の評価だから。この私と世間のズレは到底埋まりそうもないので、彼らが事務所を背負うようなトップスターになれますように、などという夢を見ることはもうしない。でも彼らが世間の評価によって辛酸を舐めるのはどうしても嫌だった。彼らは「売れない」を肩書にさえして仕事を獲得しながら、一方でアイドルとして手を抜いたりは決してしなかった。貪欲だし、謙虚だった。だから一人残らず絶対幸せになってほしいと願っていた。

 A.B.C-Zは古き良き時代のジャニーズを一身に背負ったグループであると思っている。今でこそ流行を取り入れた曲をリリースしているが、デビューからしばらくは時代錯誤といってもいいくらい古臭いメロディの曲をA面に出していた。はっきり言おう。私はこれが大好きだった。彼らが少年隊さながらの衣装で、振り付けで、歌い方でこの時代にデビューしてくれたことに心から感謝する。全編英詞の初代ジャニーズのカバー曲「Never My Love」で膝から崩れおちずぶずぶとA.B.C-Zの沼に浸かった私だが(同じタイプのファンにはあまり出会わない)この時ほど社長に全幅の信頼を寄せたことはない。こういう方向性がたとえ世間にウケなくても、時代に沿っていなくても、社長と彼らがそれを武器にしてくれるならば、全身全霊で彼らを応援しようと強く強く思ったのだ。
 とはいってもこれはあくまできっかけであり、次第に彼らが時代に順応したものを提供し始めても、距離を置こうなどと考えたことは一度もない。A.B.C-Zはその時その時で自分たちがよいと思うものを作り出してくれたし、何よりコンサートや舞台で見る彼らはいつ何時も全力だった。どちらかと言えば彼らは私たちに手を振ることよりも、力の限り歌うことや一糸乱れぬダンスをすることでアイドルの姿を示した。失礼だが、この人たちには多分小手先のテクニックとかないのだと思う。魂でしかモノを語れない人たちなのだ。そんなステージに心を奪われないわけはなく、私はその都度泣き、笑い、幸せだと言いつづけた。


 河合郁人という人がいる。今回脱退を発表したメンバーだ。
 彼らを熱心に応援していた頃、河合郁人さんはいわゆる私の”推し”であった。彼がグループを離れると聞いて正直、意外には思わない。あくまで個人の意見だが、彼にはずっと昔から個としての意思があり、理想があり、諦念があり、一人立ちをする様を想像するのはそれほど難くはなかった。反面、彼の協調性とリーダーシップはとりわけグループ内で強く発揮されていたため、私はA.B.C-Zが彼を失うことがどうしようもなく怖かった。いつかそうなった時、彼が彼の思いを曲げないことも、四人が最終的には大きすぎる器でそれを受け止めることもわかっていた。そして今、それが現実になった。

 もっと売れていれば、という思いをどうしても捨てきれずにいる。安定した地盤があればそこで夢を追えたのではないかと。いや、でも多分違うのだろう。かつて木村拓哉を目指していた男は、その道で生きていくより自分が輝ける場所を見つけ、ほとんど揺るぎのない気持ちで方向転換をした。自分には何ができて何ができないかをはっきりと知っていた。悲しいくらいに。そして”ジャニーズアイドル”への情熱を抱えたまま、いま冷静にそこを去ろうとしている。私が思うよりもっとずっと河合郁人さんは堅実で現実的な人だった。


 彼が抜けても、A.B.C-Zが終わるわけではない。ただ自分のなかにあるA.B.C-Zという青春がひとつ区切りをつけたのだ。それは橋本良亮さんが抜けても五関晃一さんが抜けても塚田僚一さん抜けても戸塚祥太さんが抜けても同じことだった。A.B.C-Zは5人で始まった物語だ(もちろん4人の時代を経て)。そこに何者も入る余地はないし、埋め合わせるものもない。


 ジャニーズというブランドが何の価値も持たなくなった今、事務所に残留することが何を意味するのかはわからないが、ジャニーズを愛してやまない河合郁人さんが選んだ最善の道であるなら、その選択をも私は支持する。そしてこれからは誰のためでもなく自分のために生き、必ずやその場所で幸せになってください。

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