ダヒへ
夜10時に集合。
蛍光オレンジのセリーヌのバッグに、
やまやの500円のワインを入れてくる彼女と、私の筑豊の赤いスイフト。
何度となく繰り返したこのセットが、
随分遠くのものになってしまう。
カルマス・ダヒが、福岡を出ることになった。
カルマスダヒとは、今はなき、箱崎のキャンパスで出会った。
お互いに美術史研究室の研究生で、何がやりたいかは明確になかったけれど、とにかく寝ても覚めても美術やアニメ、音楽のことを考えて、二人の話しは尽きることがなかった。
普通ならそこで、キャンパス近くの居酒屋で
美術談義となるのかもしれないけど、
ふたりともお金がなかったので、
やまやでワインを買って、つまみはどっちかの家で食べた。
ダヒには、業務用スーパーの魅力商品をたくさん教えてもらった。
後年ダヒと、どこぞの外国風居酒屋に行ったときは、
「この味、業スーだよ。」
と余計なことをよく言っていた。
そんな私たちもよく旅をした。
2019年の5月のGW、
GWに突入した初日だったか、
どちらかもともなく連絡し、
「何日かかけて、車で日本を北上しよう」ということになった。
最初は、みたい展示会があるから、東京を目指そうという話をし、
やっぱり東京は、遠すぎるから、大阪にしようということになった。
だが、下道では時間がかかりすぎるということと、都市高速はお金がとてもかかるということに気づき、結局、岡山で引き返してきた。
「このままタダでは帰れない」ということから、
四国へ渡ったが、お目当ての猪熊源一郎美術館が工事で休館中だったので
四国で珈琲だけ飲んで帰ってきた。
ホテルも、GW中で当然どこも空いてなかった。
空いてたとしても、たぶん払えなかった。(旅行中は、所持金2万円と決めていた。)
だから岡山の人気の少ないファミマで、
赤いスイフトを倒して二人で寝た。
後日、ダヒはその時の私たちを、お皿に絵付けしてくれた。
ダヒと私は、よく二人でモノを作ったけど、
ダヒは特別上手だった。
私は小さい時から、モノを作ると上手上手言われて育ったけど、
正直、自分よりモノを作るのがうまい一般人に初めて出会った、と思った。
(なんて高慢な発言)
~ダヒが私の誕生日にくれた、私の肖像~
大学生の時、沢木耕太郎の「深夜特急」の世界観に
ひどく憧れたものだけど、
思えば、ダヒのおかげで、
負けず劣らず濃密な時間を過ごすことができた。(いや絶対完敗なんだけど。)
何においても、好んで遠回りをしていた私たちに
あえて重ねるなら、
「深夜鈍行」とでも言おうか。
「深夜特急」といえば、ダヒは、以前
「自分は明朝体になれなかった、ポップ体だ」と言っていた。
そして、この前会ったとき、
「実は、人に教えてもらって、
やっと自分らしい字体を見つけた。
「深夜特急」の『甲賀グロテスク』だ」と言っていた。
疑いもなく「字体」にパーソナリティを重ねるダヒが、ほんとに好きだと思った。
たしかに、「甲賀グロテスク」は、一字一字が個のストーリーを持っていて、冒険と寄り道好きなダヒらしい字体だ。
こうして書いていくと、ダヒって、めちゃくちゃ凄いやつなんじゃないか。
ダヒ自身が、コンテンツに愛されているというか、
モノや音、絵、この世の、楽しくてあほらしくて愛しいものたちに、導かれて、道を歩んでいっている気がする
ダヒといる時間で出会った音楽や絵、
言葉や映画、表現、人、感情は本当に沢山あって
その熱量は計り知れない。
過ごした時間を思い出すと、顔がにやにやしてしまう。
ダヒなら、きっと、次の場所でも、人に恵まれ、
ダヒを喜ばせてくれるものにいっぱい出会えると思う。
楽しんでほしい。
挫折したら、糸島で紙粘土師という道が待っているよ。
緊急事態宣言が明けたら、すぐ行きます。
さ、わたしも雪国用に、ハンターの長靴、買っちゃお♡
ダヒとの日々に愛をこめて。20210829
(2020年宗像のビジネスホテルにて)
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