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インド旅こぼれ話 ギーは鶴の恩返し風?

これまでインド旅の様子を
アクションカメラの映像などを交えて今まで紹介してきました。

ガンジス川に捧げる儀式アーティや
聖地ガンゴートリへの旅など大きなイベントを中心に
まとめてきましたが、そこに収録しきれなかった
(動画素材が無い)ものを
ここからはnoteのみで記事にしていきたいと思います。

題してインド旅こぼれ話


初回は「ギー」(Ghee)の話

ギー、ご存知でしょうか。
一部の美容や健康食品系に意識の高い方の間では有名らしいのですが
私は残念ながら興味のない分野なので、知りませんでした。

簡単に言えばバターを煮詰めたもので
バターから余分なものを取り除き純粋な脂質に加工したようなもの。


全然分かりやすい写真では無いですが、この白い器に少量付いているのが
ギーです。こうしてみるとバターとほぼ変わりません。

元々牛乳(→生クリーム)を加工してバターが作られ
そのバターをさらに弱火で煮詰めていって
水分を飛ばしてできたものがギーです。

なお、一般的なバターにはおよそ15~6%水分が含まれているらしいですが
ギーに含まれる水分は1%未満。

水分がほぼ無いということは腐りにくく脂肪の酸化反応も低いはず。

そんなギーは長期保存に良いというだけではなく
脂質のバランスが良くて健康食品としても注目されたり
アーユルヴェーダ、マッサージの際のオイルとしても使われるとか。

と、こんな話はそっち方面に詳しい方が
もっと細かく解説しているでしょうから私は端折ります。

・ギーはおふくろの味

私はギーの事をケワルさん、クマさんご夫妻から教えてもらったんですが
これだよ、と見せて下さったのは、なんとケワルさんお母さんの手作り。

インドは人口が多く、食糧自給について長年向き合ってきた国で
1960年代には緑の革命(農地の大規模整備、収穫量を増やすための品種の選定や改良など)によって小麦や米の収穫量を増やしてきました。
その後、1970年代には「白い革命」として牛や水牛のミルクの増産を目指し、今や世界トップクラスのミルク大国になりました。

そんなお国柄もあって、お家でミルクが採れる、バターを作れるというお宅もあられるようで、ケワルさんのご実家もまさにそういったご家庭。

そして自宅の牛から絞ったミルクをバターに、そしてさらにそのバターをギーにするという作業は基本的にお母さんがされている模様。
日本だと意識高い感じの健康食品とか美容系オイルみたいな存在のギーですが、ケワルさんにとってはお母さんの手作りのものが「これこそギーだよ」といった感じなのかもしれませんね。

日本だと実家に帰った時に、親の手料理や実家で育てている野菜をもらって帰るみたいなことがありますが、それがギーなのはちょっと面白いポイントでした。

・ギーを作る時は…

さて、お母さんがギーを作る際の話を聞いていると
非常に興味深い話が出てきました。

そもそもミルクからバターを作る作業はご存知でしょうか。
日本でも、牧場などでたまにバター作り体験とかやっているので
知っている、やったことあるという方もおられるかも。

めちゃくちゃ雑にいえば、容器に入れて振るんですよね。
私が観たのだとペットボトルに入れて振りまくったり転がしまくったりしてました。

なんでそんなことをするかと言うと
牛乳内にある脂肪分をくっつけて団子にして行くみたいな作業なんです。
容器を振ったり回したりすることで、中の牛乳を攪拌し、その内部の小さな脂肪の粒同士をぶつけて練り上げ、くっつけまとめていく、というイメージですね。
それによって牛乳内の脂肪がまとまり、最終的にバターができる、と。
(すごく雑なまとめですが悪しからず)

ケワルさんのお話によれば、お母さんはツボのような容器に入れて
それに布をベルト状にかけて引っ張ることで回転攪拌させる、と。

軸があって帯をかけた壷状のものであれば、確かにその帯を交互に引っ張るだけでグルグル回転しますね。
これによって内部はしっかり攪拌されてバターになって行くのでしょう。

さて、バターをギーにする作業は基本的にはずっと煮詰めていく、ということらしいです。
で、この話の興味深いポイントは
「ギー作りは夜のうちに行われる」ということ。

そして「作っている様子を誰かに見られてはならない」ということ。
そんな鶴の恩返しみたいな…

なお、もし誰かに見られると、そのギーは悪いギーになってしまうらしいです。

ちなみに良いギーは
料理に使って食べてよし、飲み物に入れてよし、おへそに塗れば全身を巡り、まぶたに塗れば眼精疲労にも、と色々と言われている奇跡のオイルらしいんですが、作っている所を見られて悪いギーになると、そういう万能性は失われてしまう、ということでしょうか。

※ 私の英語力での聞き取りと、全てを記録できたわけではなく
記憶を振り返りながら書いているのでやや誤謬があるかもしれません。

もちろんこれも、インド全体でそういう慣習があるとか
こう信じられていてギーは全て誰にも見られないように作っている
というわけではないと思います。

ただ、あるエリアなのか、あるいはある家のルールなのか
その範囲の大小はあるにせよ、こうした一見不思議な決まりや
伝承というのは日本にも多いもので、夜に蛇を見たら云々みたいな
俗信は枚挙に暇がありません。

非常に興味深いことですよね。

自分なりにこういう謂れができた理由を勝手に考えてみると
例えば弱火でじっくり煮詰める作業を伴い
水分や不純物を取り除くことで長期保存できるようになる
というものなのに、誰かと喋っていては集中できない
会話で飛沫が入るかもしれない、とかがあるのかなぁ、等と考えてみたり。

別に答えがあるわけでも、答えが必要なわけでもないですが
こうした風習や文化の話は、いつも興味深くて気になるものですね。


ちなみに、ギーは油なので燃えます。
オイルポットに入れて自然の綿から作ったこよりにギーを染みこませ
火を灯すとなんとも暖かな光が。

実際、ギーを使った灯明は寺院や儀式などでも使われ
神はその明かりを見て地上にやってくる、といった考えもあるそうです。

精霊流しやお盆の迎え火など、日本でも火は神や霊と通じるものがあり
また悪しきものを払う事にも使われますね。

インドでギーの火を眺めながら、世界中には色んな文化や風習があるけど
人間たちの感覚って大きくは違わないのでは、と思うのでした。