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インド旅こぼれ話2 神秘のアーユルヴェーダ

これまでのインド旅行記の中で
特に序盤に触れながら、最後までスルーしてしまっていた事がある。

リシケシュ散歩 の回で、ジャングルハウスからリシケシュ北部をメインストリートに沿って歩いて散策した。

そこで一瞬だけ紹介したのが「アローラ・クリニック」である。



地域の方々の日々の怪我や病気、相談などを請け負う小さな診療所だが
実はここはアーユルヴェーダの施術も受けられる。

今回はそんなアローラクリニックでの神秘体験を書いて行こう。


なお筆者は、科学的思考が好きで、例えば占いなんてこれっぽっちも気にしないタイプの人間であって、神秘主義者ではない。(占いは統計的に~と言い出す人には、そもそも統計学とは…という話をし出すタイプ、ともいう)

もちろん、長い人類の歴史において、科学発達以前に発展し根付いた、各地の文化、風習を馬鹿にする気はないが、それはあくまで、昔はそうだった、それが長い年月を越えて残っているなんてすごいね、という捉え方であって、自分自身がどっぷり浸かることは生涯において、ないだろう。

少なくとも私自身が原因不明の体調不良に陥った時に、病院を変えて精密検査を受けることはあっても、神社に行ったり祈祷師を呼んだりはしない。

・そもそもアーユルヴェーダとは

細かい話は専門的な勉強をしている方に任せた方が良いだろうから、素人が大まかなことを書いてるなーと話半分で読んで欲しい。

アーユルヴェーダとは一部で5千年の歴史を持つと言われるインド・スリランカの伝統医療である。(古いことは確かだが5千という数字は根拠はよく分からなかった、とはいえ3千年くらいは確実に遡れそう)

語源としてはサンスクリット語のアーユス(生命)ヴェーダ(科学)の複合語で直訳すれば「生命科学」ということになるだろう。

ハーブを使った食事、呼吸法も含むヨガや瞑想、マッサージなど様々な角度から人間の体調を整える人類史でも最古参に入るような歴史ある医術である。

なお、私は上述のように、どちらかといえば科学思考であるとは思うが、別に医療に関して、西洋医学しか認めない、病院でもらったお薬だけが効果ある、みたいな原理主義的な思想は無い。
例えば、寒い時は生姜やニンニクを入れたお鍋を食べると温もるよね~みたいなことは実感としてもあるし、日々の食事や生活習慣が健康に影響を与えるのは理解している。
マッサージで肩こりが楽になるとか足先の冷えが和らぐというのも実感しているし、結局のところそれらも研究が進み、紐解いていけば科学的な裏付けがあったりするわけだ。(ニンニク含まれる~~が消化吸収されると毛細血管を広げて末端まで血流が云々のような)

許せないのは、ただの水や石に「これにはありがたいパワーが込められていてガンが消える」みたいな詐欺行為で、本当に苦しんでいる、困っている人やその周囲から大金をせしめる、みたいな話であったり、あるいはその昔アフリカの呪術に関する本を読んでいて、フィラリアによって足の皮膚が象みたいになる病気-象皮病の治療のために、現地の呪術医が象の牙でこする、というのを読んで、なんだかなぁと思ったことはあるが全く別の話。


さて、話が逸れたが、そんなわけでアーユルヴェーダは呼吸法や食事療法、マッサージなどを通じて血流等を改善していくのが根本にある伝統医療のようだ。(アーユルヴェーダ的には風、火、水、地、空の5元素みたいな考え方があるらしい、ファンタジーRPGは好きなので個人的にはこういう話も好きだが、こちらを強調するとそれこそ神秘主義的になってしまうので割愛)

そんなアーユルヴェーダ、今までの文で何となく伝われば幸いだが、私は極端に信望しているわけでも禁忌しているわけでもなくという距離感でいる。
タイに行けばタイ古式マッサージも受けるし、韓国に行けば垢スリも体験する、各国各地域に色んな伝統、文化があるよね、という感じで、法外な値や狂信的なもの以外は、色々体験してみたい派である。

前置きは長くなったが
そんな私がインドはリシケシュ、ヨガの聖地にて
アーユルヴェーダの神秘性に触れた話がここから。

・アローラクリニックに

私のインド旅については、ぜひ第0回の記事から読んで欲しいのだが
私の母が日本でアーユルヴェーダを受けたい!というところから始まった。
そこで知り合ったのがインド人の旦那さんと普段はインドで暮らしておられる日本人アーユルヴェーダ施術師のクマさんで、今回の旅で微に入り細に入り、あらゆる面でサポートして頂いた。

そんなクマさんがアーユルヴェーダの施術師をしているのが、上述の「アローラクリニック」である。

診療所的に地域の人々が
「今朝、ここを思いっきりぶつけちゃって…」とか
「猿に引っかかれたんだけど」とか
「昨日から目が痛くて」といった具合に日々の怪我や病気の診療相談、治療を受ける小さな病院。

だが同時にここではアーユルヴェーダの施術も受けることができるということで体験してみた。

アーユルヴェーダと一口に言っても色々で、母が以前スリランカで行ったのは何日間も施設に泊まって食事から生活リズムまで全て総合的に行ったらしい。
実際、アーユルヴェーダでは3週間かけてしっかり、食事から全てを変えていく治療があり「パンチャ・カルマ」(生まれ変わり)というのがあるらしいので、色々と幅があるが、アローラクリニックでも長期的に受けることもできるらしいが、こちらは旅人なのでとりあえず1度訪れてみることに。

単にマッサージだけしてもらう、という事も可能なようだが、別にインドマッサージ屋さんに行くわけではなく、せっかくのアーユルヴェーダのクリニックなので、初回は問診(診察)を受けた方が良いとのことでアローラ先生の問診を受けることに。

クマさんの紹介という事で話が早く、行くととりあえずアローラ先生の前の椅子に座り、問診開始。
アローラ先生は髪をややオレンジに近い明るい色に染めた中年~高齢の男性医師だった。

なお、ここでの会話は全て英語であり、私は英語力は自信は無いのだが、一応義務教育で最低限はやっているのと、インドの方の英語は私にはすごく聞きとりやすかった。
これは他でもよくあるのだが、英語が完全にネイティブな国や地域での英語は発音などは綺麗かもしれないが「英語が通じて当然」的な早さや言い回しでまくし立てられて聞き取れないという事がある。
逆に英語がネイティブでない地域だと、向こうも思い出しながら、あるいは分からないであろう人に向けて丁寧に、ゆっくりと話してくれるので非常に聞き取りやすいのだ。
私も日本語で話しかけられた時は、それを心がけねば。

閑話休題。

・アローラ先生はお見通し!?

この時の問診は、まず質問表に沿って行われる。
名前、身長、体重、年齢、みたいな基本的なものから始まる。
舌を出して見せたり、目の白目も見たように思う。

日本の病院でも行われるごく普通の診察、という感じだ。
ちょっと変わっていたのは手を出して、と言われて手を出したら、
手をちょっと見て脈を取った後で爪を念入りに触り出したことくらいで、しばらく爪を触ったり脈を取ったまま問診は続いた。

そして質問は進む、お酒は飲むか?タバコは吸うか?
とこれまたよくある質問。

私は酒もたばこもしないので、即決でノーノー言ってたわけだが
次の質問は「ドラッグは?」だった。
これももちろんノーで、思わず笑いながら否定すると
急にアローラ先生が真面目な顔になった。
(なお、ここまではすごくにこやかで、緊張していた私もすっかり安心していたのだが、この瞬間ややピリッとしたように思う)

そしてアローラ先生は言った。
「そうか…しかし…なぜ胸、肋骨の辺りが悪いんだ?」


実は、私は肋骨(胸郭)に先天性の病気があった。
長くなるが一応書いておこう。

先天性の病気とはいえ、生まれてすぐにこの病気が判明したわけではない。
実は、25前後になるまで、掛かりつけ医も家族も私も、気づかぬままにこの病気を抱えて育ってしまったのだ。
というのも、この病気は本来は、先天的な骨格異常によって、ピンポイントに外見的な特徴が現れるらしい。
しかし私の場合は、骨格全体の異常でそういうピンポイントな特徴が出ていなかった。

結果的に、放置された骨格異常によって、内臓への負担が発生していたのだが、気づかないまま成長してしまった。同じ病気の中でもかなり特殊なケースだったらしい。

そして身体が大きな成長・変化を行う中学生の頃には、体育の授業で長距離走を走った後に倒れるというのが何度も続いたり、高校時代もいきなり胸が激しく痛むといった症状が出たこともあった。
(なお高校入学直後から腰痛が酷くベッドで横になるのも痛いという時期があり、それはまた別の病気だった)

そして20代前半の頃には、原因不明の息苦しさや胸の苦しさがあり、酷い時には駅の階段を登りきることができず、途中で何度か休憩をしながらといった有様になっていた。

もちろん何度も病院で検査はしたのだが、悪いことにその都度小さな原因が見つかったことで「ああ、これがこの苦しさの原因だったのか」と思い込んでしまい、主問題である先天性の病気の発見がさらに遅れる。
体調悪化のピークだったこの頃は数年に渡り、息苦しさで日常生活も難しいような状況があったかと思えば、精密検査で小さな原因(気胸、肺炎、胸膜炎、気管支炎など)が見つかり治療、通院、ようやく治ったと思うとすぐにまた次の苦しさが訪れる、というのを繰り返していた。

結果的にはその後、たまたま母が見ていた新聞記事の投書欄から、これはひょっとして同じ症状の人では?というのを見つけ、そこから、その病気の専門医を探し出し(国内に2~3個しか専門で対応する病院は無いらしい)骨を正常に近づけるための手術、治療を行った。
成長期前に発見、対応できなかったことで内臓は負担を背負って成長してしまったので完全に健全な状態ではないが、手術前は骨の間に押しつぶされるような形の心臓だったのが今ではスペースが開いて伸び伸びしている。

長くなったが、そんなわけで、私は実は肋骨(胸郭、および内臓)にそういった病気を抱えており、今も万全ではない。

が、書いてこれだけ長くなる話を、わざわざ人に言うことはあまりない。
要するに私の病気の事を知っている人はそれほど多くは無いのだ。

ましてやインドで初めてお会いしたアローラ医師が知っているわけがない。
ちなみに問診では胸を捲って心音を聞かせる、という定番の診察は行っていなかったので、胸を見たことも音を聞いたことも無い。
それまでの問診と舌や爪を見たり触っただけだ。

時を戻そう。

アローラ先生は言った。
「そうか…しかし…なぜ肋骨の辺りが悪いんだ?」

言われた瞬間、私は全く理解できなかった。
お酒やドラッグの話をしていて、爪を触られているだけのタイミングで
「肋骨」(rib)なんてワードが出てくるだろうか?

戸惑いながら、ここ?と服の上から指をさす。
アローラ先生はコクリと頷く。

何がどうなっているのか自分でも分からないが
私は直ぐにシャツを捲り上げて胸をだし
「それは、これのこと?」と手術跡を見せた。

するとアローラ先生はニコッと笑い
「そう、それだよ!」と言った。

呆気に取られて言葉もでない私に
アローラ先生は元のにこやかな雰囲気に戻って話を続けている。

「またそこが悪くならないように注意が必要だよ」
「あ、そうそう、君はアイスクリームは食べちゃダメ、内臓脂肪(という単語ではなかったが、お腹の中の脂肪みたいな表現とジェスチャー)によくないよ」
(ちなみに私は痩せ型だが健康診断で脂肪肝と言われているのでこれも見抜かれている)

とまあ、こちらの整理が追い付かないまま健康の話や注意、アドバイスをペラペラとされて、ただただ圧倒された。

その後はアーユルヴェーダ的な元素とかの観点からだろうか?性格診断みたいなことまでされる。
あなたはクリエイティブな仕事は向いているが、頑固者だ。
人の意見に左右されないが、聞かなさすぎることもある。
なまけ癖もあるし、運動不足なのもよくない。1日30分で良いから運動しなさい、と。

・不思議なことがいっぱい

肋骨の話あたりからもう私の脳内は追いついていないので
なんだかぼんやりと、なんだこれすごいなーと思っていた。

不思議ではあるが、説明を付けようと思えば付けられる。

脈を取ったことで私の心臓が普通ではない事に気が付いた。
(実際、私は心電図を取ると完全に正常な人とは違う、ちょっとだけ変な癖が出ているらしい)

椅子に座った時の様子、姿勢から骨格の歪みを見抜いた、などなど。

これが占い師に見てもらったとか
自称守護霊が見える霊能者に言われたとかなら鼻で笑いもしたが
クリニックに行って診断された以上、なにかそういう理由があったんだろう。

何ともすごい話である。

その後問診を終えて、せっかくなのでマッサージも受けたいんですが、と言ったところアーユルヴェーダのマッサージもしてもらえることに。
ただし施術はアローラ先生ではなくアーユルヴェーダの施術師の男性。

最初の写真で見てもらえば分かるようにアローラクリニックは縦に長い。
階段を上って3階がマッサージ室だった。

ベッドが置いてあるだけの簡易的なもの。

話が長くなってしまっているので割愛しながら書くが、いわゆるオイルマッサージである。
いかにも全身のリンパや血の流れをよくしてくれそうなマッサージで大変気持ち良かった。

が、ここでもアーユルヴェーダのすごさの一端を思い知る。

施術師の男性も英語で少しだけ話しかけてくれたのだが、途中で
「あなたの職業は?」と聞いてきた。

「私はカメラマン、フォトグラファーをしています」と返すと
納得した顔で彼はこういった
「だからか、君の腰は壊れているよ」

前述の通り、私は腰の病気もある。
酷かった時はベッドに寝るのも起き上がるのも痛んで苦しむような有様だった。
今でこそある程度の慣れとコツと日常的な気遣いで上手く付き合っているが持病の1つではある。
無理な態勢を続けると途端に痛んでくるのだ。

ただ、そんな話はこの施術師さんとはしていないし、むしろアローラ先生ともしていない。
なんでわかるの??

「でも大丈夫、治しておくよ」
と言って彼は笑いながら施術を続けた。

ちょっぴり腰回りは力がこもっていて痛く感じることもあったが
実際、その後インド旅では過去記事にも書いたように、とんでもない長時間での車移動が何度もあったのだが、無事に乗り切れたのは後になって思えば、この施術のおかげだったのかもしれない。

アーユルヴェーダって、なんかすごいね…
あれだけ科学思考ぶち上げた私の結論はこうである。笑


なお、後になって聞いたことだが
実はアローラ先生は西洋医学の医師免許も持っておられるらしい。
ただ西洋医学だけでは限界があると感じて自分たちの伝統的な医療も学び
アーユルヴェーダの免許も取ったというのだ。

なお、インドではアーユルヴェーダはれっきとした医療行為であるので、医師になるには医大で学び試験に合格して資格を得なければならない。

西洋医学、インド伝統医学両側面からの診断が、そこらの占い師なんて相手にならないあの問診でのずばりと見抜く眼力の土台だったのだろうか。

なお、症状や希望によってはアローラ先生の指導を元に
食生活まで変えての3週間のアーユルヴェーダ、パンチャカルマ(生まれ変わり)も受けられるそうなので、もし興味がある方は、リシケシュまでぜひ。