千盤一夜物語(1)

あれは中学生の頃だったか、CDなるものがこの世にあらわれ、レコードとは違い、音質劣化もない夢のようなものだと言われていた。

私のような田舎の者は、「こりゃあ、凄そうだ」と憧れた。FMは雑音交じりで、大好きな中日ドラゴンズの試合は必ず北朝鮮の怪しげな放送に交じって聞こえるCBCの久野誠アナウンサーの実況にかじりついていた私にとっては憧れ以外なかった。

中学校で吹奏楽部に入り、なんとなくトロンボーンを始めて、当時の顧問の先生から、「かっこいいだろ」と聴かせてもらったのが、ワーグナー。思い出せば、ローエングリンの第3幕への前奏曲だったか?教育実習でもお世話になったS先生、学校の先生にならなくてすみません。

さて、CDなるもの、これは欲しいということで、買ってもらった。親不孝なことに、初めてのCDは覚えていない。初めて買ったLPは覚えているのに。あれは、レナード・バーンスタイン&NYPのベートーヴェン「英雄」。ジャケットがかっこよくて、クラシック音楽への憧れから<ジャケ買い>したような気がする。さて、CDをどうすればいいのか。魅惑の色で輝く盤面を見て、再生機器のことは考えていなかった…ということはない。同級生の音楽好きのMくんにカセットテープに落としてもらったのだ。Mくんはコンポを持っていたのであった。彼はブラームスが好きで、彼にブラームスのヴァイオリン協奏曲やピアノ協奏曲第2番を教えてもらったなあ。一緒にブラームスの交響曲第1番第4楽章コラール部分をオケスコからいろんな楽器のフレーズを写して2人で吹いたのは、高校生の時だった。このときは、部活で指揮者もやることが多く、勝手に「カラヤン風」とかふざけて振っていたのは、恥ずかしい過去である。

爾来30年、CDを買ってきた。好きな曲から好きな指揮者に興味が移り、好きなオーケストラ、そして好きなバストロンボーン奏者へとマニアらしく順調に成長した。仕事をしていても、出勤の車の中では、常に誰かの何かがかかっている。

さて、何枚のCDが私ごときに消費されてしまったのか、ハズレだと偉そうに判断して手放したのか、もうわからない。手元には何枚か残っている。しかし、YouTubeなどの入手手段も豊富な現在、改めてCDをターンテーブルに載せなくなった。ブルーレイなどで好きな映画やドキュメンタリーは何度も観たりするのだから、ターンテーブルに載せる作業が嫌になったわけではない。聴かなくなったのだ。かつては、あんなに熱中したのに。

ということで、なぜ聴かなくなったのかを考えるのはやめて、もう一度、何に熱中していたのかを確認したくなって、1枚ずつラックにあるものの埃落としをしつつ、アトランダムに手に取ったものを聴いて思い出してみることにした。

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