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体験ダイビングの思い出

2005年9月、日本から7000km離れた南太平洋の国、フィジーの海で私はある再会を果たした。
友人と訪れた南の島での体験ダイビングが再会の舞台だ。我が人生でスクーバーダイビングをする機会が訪れるとは想像がつかなった。ホテル内のプールで簡単な講習を受け、5人も乗ったら狭く感じる小型の船で港を出発。
そして、ドボンと南太平洋に飛び込んだ。
インストラクターに手を引かれ、真っ白な光の海を突き進む。極楽な色の熱帯魚たちがヒラッと太陽の光に体を擦らせてキラキラ舞っていた。

ふと、インストラクターの手を離れ、白色の海の中に漂っている自分に気づく。
フィジーの海は白い。青い海の世界ではなく真っ白な透明の塊、それが私のフィジーの海の第一印象だ。改めて思い返してみると、そこは砂地のポイントだったのかもしれない。
新世界をワクワクしている私の目の前に再会の時が訪れた。その相手とは、私が小学校1年生の時に家族で松島水族館を訪れた時に買ってもらった下敷きの写真にそっくりな「ミノカサゴ」だ。

これこそが再会の瞬間だった。

下敷きには様々な魚の写真が散りばめられていて、「海にいる危険な魚」っというタイトルが付いていた。なんとも生きていく為には実用的な、メルヘンの欠片もないテーマの下敷きだ。ねだって買ってもらったものだと思うが、なぜ「海にいる危険な魚」を選んだかは全く思い出すことが出来ない。その下敷きの中でも下敷きの中央に堂々と目立っていた魚が「ミノカサゴ」だった。

ミノカサゴは体長約30cmの大きさで見た目の優雅さからは信じがたいが、背ヒレを中心に毒針を持っている。フィジーのミノカサゴはフンワリしたヒレを優雅に操作してキラキラした真っ白い世界を我が物顔で通行していた。
小学生の私は、こんなきれいな魚が危険だなんて、海はいったいどんな世界なんだと思っていた。拙いひらがなを書き始めた頃に眺めていた下敷きの中のミノカサゴが、20代半ばで現実は実に結構シビアだと気づき始めた私の目の前を通る。
この魚を知っている感動と再会の喜びで、私の瞬きは確実に少なかった。
しかし、初めての水深数メートルの世界での喜び方がわからない。他のダイバーたちは先を泳いでいて、気持ちを伝える術もわからない。だから私は「下敷きっ、下敷きで見てたヤツっ!、ブクブクブクゥ」と静かに興奮した。
そして、船に戻っての開口一番、「下敷きが、下敷きが居たんだよっ!!」
訳の分からない事を発しながら船上で興奮する体験ダイバーは、周囲の人間から見れば、ある意味ホラーだったかも知れない。しかも、その叫びの原因が船上にいる友人を含め、他のダイバーには伝わるはずはなく、私は興奮した支離滅裂な説明を繰り返すばかりだった。
この体験から4年後に私はダイバーになったが、今ではミノカサゴを水中で見かける度に「下敷き、下敷き」と呟き手を振っている。