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障がい児のための「日々の生活」の場を考える

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日建設計は、1999年から2023年の25年に渡り、障がい児のための生活のあり方を10のプロジェクトにおいて思索、実践してきました。 今回、このnoteという媒体を用いて、これま…
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障がい児のための「日々の生活」の場を考える|第5回 障がい児の生活を支える視点 1「住まう」、「過ごす」

中島 究(きわむ) 日建設計 設計監理部門 設計グループ ダイレクター 障がい児が「住まう」・「過ごす」のための場づくりこのコラムの第1回で、私が障がい児のための空間づくりに携わるきっかけとなった、びわこ学園のプロジェクトでの決意が「“施設”ではなく、こどもたちのための“いえ”を考えることが大切」であったことをご紹介しました。また、このコラムのメインタイトルが「障がい児のための「日々の生活」の場を考える」ですので、第5回目となる今回はある意味で本コラムにおける核心の回と言え

障がい児のための「日々の生活」の場を考える|第4回 スタッフとの空間認識共有の様々な取り組み

中島 究(きわむ) 日建設計 設計監理部門 設計グループ ダイレクター 建築の教育を受けていないスタッフの方々に、いかにして建築空間を共有するか?私たち設計者は建築のプロですから、日常的に図面を描き、そこから建築空間をイメージすることができます。一方でクライアントのスタッフの皆さんは建築の教育を受けていないため、ほとんどの場合、図面を読み取って3次元の空間をイメージすることが難しく、ワークショップで思考した障がい児のための空間の方向性やコンセプトが、設計者が描いた図面にきち

障がい児のための「日々の生活」の場を考える|第3回 スタッフとの信頼関係を築く上で欠かせない“泊まり込み体験”

中島 究(きわむ) 日建設計 設計監理部門 設計グループ ダイレクター 「視察」ではなく「体感」する第1回で私たちは障がい児が暮らす環境についての知識が非常に乏しい状態であったことをお話ししました。ですから、まずは障がい児とスタッフの日々の生活の状況をつぶさに知るために、「24時間の泊まり込み体験」を行うことにしました。この「泊まり込み体験」は、その後のプロジェクトでも行ってきました。利用者が眠っている真夜中もスタッフは働いています。一般的な設計プロセスでは、ある時間だけ既

障がい児のための「日々の生活」の場を考える|第2回 スタッフと共に空間のあり方を思考する参加型設計

中島 究(きわむ) 日建設計 設計監理部門 設計グループ ダイレクター スタッフ自らが空間を創り出す試み前回、びわこ学園における障がい児のための空間づくりを手掛けることになった経緯についてご紹介しました。今回はその空間づくりの手法である「参加型設計」について書きたいと思います。 昨今、庁舎や文化ホールや学校など、市民参加による「ワークショップ」を行うケースが増えています。「ワークショップ」を行うことによって、市民の意見や考えをプロジェクトに盛り込み、そのプロジェクトへの市民

障がい児のための「日々の生活」の場を考える|第1回 障がい児のための空間づくりを手掛けることになったきっかけ

中島 究(きわむ) 日建設計 設計監理部門 設計グループ ダイレクター 重症心身障害児の女の子との出会い今から25年前の1999年11月、私は滋賀県野洲市(当時野洲町)の旧第2びわこ学園(現:びわこ学園医療福祉センター野洲)を上司と2人で訪問していました。当時、私たちは第2びわこ学園の移転新築プロポーザルに応募しており、現状の建物や使用状況をプロポーザルに応募した他の設計事務所と一緒に視察させていただくことが目的でした。 視察の途中、廊下でストレッチャーに乗せられ、人工呼吸